SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.1, February. 2005

16. Asian Conference 2004 on Applied Superconductivity and Cryogenics(ACASC 2004)会議報告


  第2回応用超伝導・低温工学アジア会議(ACASC 2004)が,宮崎市のワールドコンベンションセンターにて、12月12~14日に開催された。この会議の発端は韓国超電導・低温工学会(The Korea Institute of Applied Superconductivity and Cryogenics, KIASC)と日本の低温工学協会との覚書に基づき,2000年度より開催を続けてきた韓日応用超伝導・低温工学ワークショップに,昨年度より正式に中国が加わり,"Asian Conference on Applied Superconductivity and Cryogenics"として装いも新たに,昨年度の第1回応用超伝導・低温工学アジア会議は中国の北京市で開催された。開催は各国持ち回りということで,本年度は日本開催の順番に当たり,低温工学会の国際交流委員会を中心に企画・運営を行なった。会場は宮崎市にあるワールドコンベンションセンターで,市内から車で30分程度,宮崎・一ツ葉海岸の豊かな景観の中に広がるリゾートコンプレックス「シーガイヤ《の中央に位置し, 2000年に九州・沖縄サミット会議を開催したところである。

 登録参加者は79吊(うち日本43吊,中国8吊,韓国28吊)で,中国は12月が会計年度末のようで予算確保が難しいという面もあり,中国からの参加者が少し寂しかった。

 発表件数は約60件(招待講演11件,口頭発表19件,ポスター発表約30件),展示が3件あった。本会議の特色を出そうという企画で,今回の会議ではパラレルセッションを設定せず,いろいろな分野の研究者が一同に会して議論できるようにした。

 発表内容の内訳としては,Large Scale and Power Applicationsが30件,Cryogenics 13件,超電導材料が14件,デバイス関係が3件であった。

 以下,発表の概要を何件か紹介する。

Large Scale and Power applications

 韓国Gyeonsang大のNguyen らは,高温超電導ケーブルの電気絶縁構成としてPPLPとクラフト紙との積層を想定し,各種の積層構造と絶縁破壊強度との関係を実験的に検討している。

 中部電力のShikimachiらは,瞬低対策用に開発された5 MVA-5 MJの容量を持つSMES設計、製作、運転ならびにHTSコイルによる1 MJ級SMESの開発について報告している。前者のSMESシステムは、2003年7月から実際に半導体工場に導入、稼働され、2004年9月には落雷による30 %の電圧低下に対して、電圧補償がされた。後者については、1 MVA補償による動作試験、10回の連続補償試験による温度上昇、安定性試験などが行われ、HTSコイルによるSMESの基本開発が為されている。

 中国科学院電工研究所のWangらはGenetic algorithmの手法を用いたHTSのSMESの最適設計に関する発表を行い,「同じ貯蔵エネルギーで、小型化に成功した《と結論している。

 東芝のKoyanagiらは,10 kA級の大電流超伝導導体の試験装置について報告している。大電流導体試験では、そのままでは大容量の電源と電流リードを必要とし、装置が大型になり、取り扱いも面倒になる。開発された試験装置では、超伝導トランス方式を採用し、電流増倊率を約130倊に取ることで、導体に10 kA通電時においても、100 A以下の電源で励磁できる点でメリットがある。導体試験では、V-I特性を測定する際の雑音が問題となるが、この装置では雑音を低減するよう工夫している。

Cryogenics

 韓国Hong IK大のChangらは,高温超伝導材(HTS)を使用した電力機器の浸漬冷却法として、小型冷凍機(G-M冷凍機)で過冷却状態に冷却した液体窒素を使用する冷却システムに関して報告している。この冷却システムは冷凍機の冷却ステージに水平伝熱フィンを取り付けて、液体窒素中に浸漬し、過冷却状態にて自然対流により冷却する。過冷却液体窒素中に電力機器を模擬したヒーターを設置し、水平伝熱フィンと液体窒素の定常 熱伝達特性を測定した。実験結果から熱伝達係数を算出し、従来の自然対流の実験式と比較した結果、伝熱フィンの面積が小さい領域ではよく一致することが確認されたが、面積が大きくなると低下する結果が得られた。また、模擬ヒーターの熱流束が大きくなると、対流のパターンが重力方向に2つのセルを形成する傾向がみられ、熱伝達特性が向上する結果が得られた。

 中国Xi'an JIaotong大のHouらは,中国におけるReverse Braiton Cycle Cryocoolerの開発状況について報告している。開発の目的は宇宙空間を模擬した実験環境を地上で実現することにあり、このため、10-5 Paの真空度で20 K以下の温度を達成することにある。特に西安交通大学では膨張タービン、熱交換器などCryocoolerのコンポーネントを自前で開発しており、その動作特性をポスター及び論文中では議論している。

 KEKのShintomiらは,レーザー干渉計型重力波検出器に用いる低振動パルス管冷凍機の開発について報告している。レーザー干渉計型重力波検出器は微小な空間の歪みを検出し、星の爆発、合体などで放出される重力波を検出するものである。検出感度を上げるために、熱雑音を抑えるため、装置を20 Kに冷却する。冷却に用いる冷凍機は低振動が要求される。開発された冷凍機システムは、冷凍能力が4.2 Kで0.5 Wで、0.1 m以下の従来型に比べて2桁低い振幅に抑えられている。

 韓国Hong IK大のChangらは,ガス冷却電流リードの最適設計の一般的な方法について報告している。この方法は、ガスと導体間の理想的な熱交換がある場合から熱交換が全く無い場合まで適用可能である。報告者は、新たに交換冷却熱量と導体発熱量の比を取った無次元量を導入した。電流リードの入熱、温度分布は熱方程式を数値積分する一般的な方法であるが、この値をパラメータとすることで電流リードの冷却状態を変え、最適な設計指針を容易に得ることができる。

 東北大のNishijimaらは,東北大学の高磁場ハイブリッドマグネットを伝導冷却タイプに改造するために開発された超伝導マグネットについて報告している。19 Tのマグネットは52 mmのボアを持ち、NbTi、Nb3Sn、Bi2223コイルで構成される。Nb3Sn線はCuNi-NbTi合金で補強されており、Bi2223コイルはダブルバンケーキ巻きである。11 Tマグネットは、360 mm径の室温空間を持ち、NbTi、Nb3Snコイルで構成されている。冷却は4.2 Kで4.2 Wの冷凍能力を持つGM+JT小型冷凍機を用いている。開発された伝導冷却超伝導マグネットによって、ハイブリッドマグネットの取り扱いが容易になった。  KEKのHaruyamaらは,国際協力で進められている高エネルギー物理実験(MEG)用検出器に用いる単段のパルス管小型冷凍機の開発結果について報告している。この冷凍機は、カロリメータ用シンチレータに使用する800ℓの液体キセノンを冷却するために開発された。開発されたパルス管冷凍機は165 Kで約200 Wの冷凍能力が測定され、40日間の長期連続運転でも順調であった。

超電導材料

 KERIのShinらは,Bi-2223超電導テープに関して、単軸方向の繰り返し印加加重により最大106回クラスの疲労試験を行った結果について報告している。2種類のBi-2223銀シース補強線材(Ag-Mn合金シースタイプとSUS304により銀シース線材外面を補強するタイプのもの)を対象とし て、破断に至るまでの繰り返し回数と加重依存性及び、超電導特性(臨界電流とn値)について評価を行っている。0.2 % yield stressσy付近のIcの繰り返し加重依存性は、前者が0.85σy~1.0σyの応力下において105回前後の破断寸前まで比較的高い特性を維持 するのに対し、後者は、0.76σy〜0.87σyの応力下で比較的低い繰り返し回数において超電導特性が劣化する傾向にある (応力の絶対値を比較すれば、当然ステンレス補強した後者が高い特性を維持する) 。また、n値についても大枠はIcと同様の傾向があるが、両者とも局所的にn値が回復する繰り 返し領域が存在する場面があった。前者の線材については、常温及び液体窒素中における疲労試験による破断面のSEM観察を行ったが、シース部分で発生したクラックは、超電導フィラメン トに及ぶというよりもシース中を長手方向に伝搬する様子を観測することができ、結果的に高い繰り返し回数までIcが保たれることにつながったと考えられる。

 NIFSのNishimuraらは,14 MeV単色中性子をNb3SnとNb3Al超伝導線に照射し、その臨界電流値と臨界温度の劣化を測定した結果を報告している。従来の実験では、原子炉を使っての熱中性子照射であり、14 MeV中性子のように高いエネルギーの中性子を照射実験した例はない。この報告では、臨界温度が1 x 1014という熱中性子での結果に比べてオーダーの違う低い照射量で劣化が起こっており、実験はまだ完結していないが、核融合や加速器などへの化合物系超伝導体の応用に貴重なデータを提供するものである。

 会議のプロシーディングは発刊されないが,セレクトされた17編の発表論文がCryogenics誌の特別号として掲載されることになっている。

 次回の本会議は今年12月頃に韓国で開催される予定である。       

                       

                               

(産総研:淵野 修一郎)