この新しい磁気センサーは、NISTが2004年8月に発表したチップスケールの原子時計の原理に基いており、凝集性集団トラッピング(coherent population trapping)による受動的、蒸気セルレファレンスを利用している。チップスケールの原子時計と同様、新型センサーはマイクロエレクトロニクス及びマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)向けの既存の技術を用いて、半導体ウェーファ上に作製、集積できる。本法の製造能力は、コンピュータ・チップの大きさになりそうな低コストセンサーを量産する可能性を提供する。
関連エレクトロニクスと一緒に包装した時、小型磁気計は約1 cm立方の大きさー大体角砂糖の大きさになるだろうと研究者は考えている。商用版新型センサーの応用は、未爆発兵器を感知する手で握れるデバイス、精密ナビゲーション装置、ミネラルや油の位置を探知する地球物理学的マッピング、医用機器等を含むだろう。
磁界は、電子の運動によって電流の形か鉄、コバルト、ニッケルのような金属の形で生み出される。NISTの小型磁気計は、凡そ12 m離れている隠されたライフル銃か地下35 mに埋まっている6インチ径の鉄製パイプラインを検知出来るほど高感度である。
最良の低Tc SQUIDはNISTの小型磁気計より5万倊も高い感度を持っており、1 fTという超微弱磁界が測定できる。近年開発中の脳磁図計(MEG)応用には、fT級の感度が必要であるが、胎児の心臓活動の磁気は約20 pTであり、成人の心臓活動は100 pTである。NISTセンサーの改良により、脳磁図計(MEG)応用の可能性が開かれるであろう。
本センサーは、磁界存在下で電子のエネルギーレベルの変化を検出することで機能する。ルビジウム元素(Rb)の小サンプルは、密封された透明セル中で加熱されて、ルビジウム蒸気を生成する。半導体レーザーからの光がこの原子蒸気を通して放射される。磁界存在下で当原子に吸収されるレーザー光の量は変化し、これはホトセルで検出される。より大きな磁界は、比例的に原子的エネルギーレベル中により大きな変化を生み出し、吸収されるレーザー光量を変化させる。
NISTの開発者の一人であるP. Schwindt氏は、「新センサーの一番の有利性は、その高精度及び高感度と小型性にある。SQUIDsは、もっと高感度にできるが、そうすると極低温に冷却しなければならず、本質的に大きくなり、もっとパワーを喰い、より高価になる《と語った。
フラックスゲート磁気計も同等もしくはより良好な感度を達成しているが、精度は相当悪くより大型で、さらにセンサーに沿う方向の磁界しか検出できない。一方、原子的磁気計は全部の磁界強度を検出でき、これは多くの磁気的イメ−ジングや探知応用にとって望ましい能力である。コンピュータのハードドライブを読みとるヘッドに使われているような磁気抵抗性素子は、小さく安価であるが一般に感度も精度も悪いものである。
なお本研究は、U.S. Defense Advanced Projects Agency (DARPA)から資金援助を受けている。
(相模)