今回開発された横型マグネットは、磁場が7 T(テスラ)と、国内では最高磁場のMRI用超電導マグネットになる。MRIなどで利用するNMR現象は、磁場が高くなるほど信号強度が強くなるため、取得する画像のコントラスト向上や、画像取得時間の短縮につながる。また低磁場では取得困難な炭素原子などからの信号取得も容易になるため、生体内の代謝機構解明などで非常に有用なツールとなる。
測定空間の直径が400 mmと大きいため、マウスやラットに限らず、サルまでを実験対象にできる。大口径マグネットで問題となりやすい漏れ磁場(5ガウスライン)領域の大きさは、セルフシールド技術によりマグネット中心から5.8 mと小さく抑えられており、鉄製の磁気シールドが上要である。試料空間における磁場均一度も2.41 ppm以下(180 mm球内)と非常に良好で、EPIなどの高速シーケンスにも適している。
クライオスタットには冷凍機が1台搭載され、蒸発する液体ヘリウムを完全に再凝縮させることができる。稼動開始以来1年、全く寒剤が減少していないと言う。また多くの超電導マグネットが輸送後ユーザーサイトで冷却されるのに対し、このマグネットは出荷前に冷却後、そのまま輸送(コールドシップ)することができ、ユーザーサイトで即、磁場立上げを可能とした点も特筆すべき点である。
現在、先端計測分析技術・機器開発の重要性が認識されているが、国産の技術によってMRIという重要な計測機器の上位機種が開発された事は、極めて重要な意義を持つ。本機は既に国内で2台が運用開始されており、解像度50 m以下の画像が撮られている(図2)。このような高磁場MRIの基本要素が開発されたことで、これら装置を活用したわが国のバイオテクノロジー開発がいっそう加速する事が期待される。
本開発を担当した㈱神戸製鋼所電子技術研究所の三木主任研究員は、「MRIの基本特性である磁場特性に加え、クライオスタット内部構造に工夫を凝らす事で、機械強度と熱浸入量のトレードオフを乗り越え、コールドシップ、ゼロボイルオフという困難な特性を同時達成できた。今後もこのようにユーザーにとって使いやすい動物用マグネットシステムを提供していきたい。《とコメントしている。
表1 7T/400 マグネットの主な仕様
図2 同条件下で取得された赤毛サル摘出脳の断面画像
(左)人体用1.5T機、(右)7T機
[放射線医学総合研究所 画像医学部 分子情報研究室 池平室長による]
(チベット帰りのリル)