船舶用ポッド型推進装置(*)は、推進装置が船体外部に装備されるため、船内のスペ*スを有効利用でき、船内騒音も少なくなり、船の操縦性能も高くなるなどの利点から、欧米を中心に客船などで採用されている。しかし、ポッド型推進装置の大型化(大出力化)を図るために従来のモータを利用した場合、推進装置の外径が大きくなるため実用化が難しいという問題があり、小型・大容量の超電導モータの開発が望まれていた。 今回開発された超電導モータは、住友電工が加圧焼成技術という革新的なプロセス開発により量産を可能としたBi2223系高温超電導線を使用しており、冷媒には、液体窒素を用いている。これまでは、高い界磁磁束密度を得るためには、Bi2223系超電導線材を20 K近傍で運転するか、YBCOなどのバルクを77 Kで使用、YBCOなどの薄膜線材を50~77Kで運転する方法などが考案されてきたが、いずれも冷却方法や大型化、長尺線材化などの観点ですぐには実用レベルの機器開発が困難な状況にあった。産学グループでは、現時点で量産レベルにあるBi2223線材を液体窒素中で使用することを前提に設計検討を進め、高温超電導線材に鎖交する磁束を小さくして界磁磁束密度を大きくする方策として、「フラックスコレクタ(商標登録出願中)《を採用し、この課題を解決している。
また試験の結果、設計値通り「モータのうなり音《と「モータからの漏れ磁束《は共に計測限界以下の成績が得られている。さらに今回開発した超電導モータを内蔵したポッドの大きさは、幅0.8 m ×長さ2 m で、推進プロペラ径は1 m であるが、実機では従来のモータを内蔵したポッドの1/2程度に小型化が可能で、かつ冷却装置等の関連装置も全てポッド内部に収紊可能となるため、これによって実機化への見通しがついたとしている。
本超電導モータは、画期的な小型化、効率向上、省エネルギーを実現しており、今後、鉄道用モータ、風力発電装置用発電機、大型産業用モータ(鉄鋼圧延装置など)への利用も期待されている。
<本超電導モータの特長>
1. 従来困難とされていた「安価・取り扱い容易な液体窒素による冷却《で使用可能。
2. 従来のモータよりも小型・軽量化(5000 kW モータの場合、容積は1/10、重量は1/5)。
3. 革新的なプロセス開発により量産が可能となった、km単位での製造が可能なBi2223超電導線材を使用。
4. モータのうなり音、モータからの漏れ磁束が、ほとんどない。
5. モータ表面は常温を保つので、使用場所を選ばない。
6. モータの超電導コイルがユニット化されているので、容易に出力アップが可能。
7. モータ自身の効率向上に加え、ポッド推進装置そのものの推進効率が3~5 %向上するので省エネルギーで自然にやさしいモータである。
今回の開発のとりまとめ役となった、石川島播磨重工業技術開発本部の竹田敏雄部長は、「昨年の4月に設計検討をスタートし、年度内に超電導モータ内蔵ポッド推進装置を水中で稼働することを目標に開発を進めてきたが、共同研究産学が保有する固有技術を最大限に発揮して短期間にここまでの成果をあげることができた。発表以来大きな反響があり、具体的な引き合いもいただいている。今後も共同研究産学の力を結集し、実用規模の大型モータ、ポッド推進装置の実現に向けて、開発を加速していきたい。《と述べている。
*ポッド型推進装置:船舶船底に装備する推進装置で、その形状がえんどう豆のさや(POD)に似ていることからポッド型と呼ばれる。
定格:12.5 kW (過負荷62.5 kW)×100 rpm
液体窒素温度:66K
図2 超電導モータを内蔵したポッド推進装置 (800 mmφ×2 m, プロペラ径:1 m)
(HTS)