SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.6, December. 2004

6. 米国イリノイ大学に9.4 Tの大型MRI装置が設置される_イリノイ大学ヘルスケアーセンター_


 この度、米国シカゴ市に在るイリノイ大学(UIC)は、人体研究向けに解剖学でなく脳内の代謝作用を映像化出来る強力なMRI装置を設置した事を明らかにした。この装置の中核は、GEヘルスケアー社によって製作された9.4 T超電導マグネットである。当マグネットは、800 mmの室温口径を持つ人体用MRIシステムとしては最も強力なシステムと報道されているもの。(Superconductor Week誌11月1日号, Vol.18, No.15)

UIC磁気共鳴研究センター長のK. Thulborn氏は、GE社と共同して9.4 Tシステムを開発した。GE社はマグネットと勾配磁場コイルを供給した。当マグネットは、50トンを少し切る重量を持ち、超電導シムコイル付き超電導ソレノイド型マグネットより成り立っている。極低温冷却は、2台のギホードマクマホン冷凍機が担っており、2つの内部極低温シールドを冷却する為にも使われている。

本マグネットを現場に設置する事は、種々の重大な挑戦を提起した。シールドの目的で、523トンの鉄をドアー、壁、天井等へ設置する事、そしてマグネットを室内に引き込む作業等である。室温からスタートして当マグネットを関連する動作温度に持ってくる、そして液体窒素を用いてプレクーリングを行う。次いで、液体窒素を除去した後液体へリウムで満たされる。マグネットを動作状態にする為には、14,000リットルの液体窒素と14,000リットルの液体へリウムが必要である。マグネットを4.2 Kに冷やすのに7日間、さらにマグネットを励磁するのに7日間を要する。

9.4 Tは、4.2 KでNb-Ti線を用いて開発できる最高の磁場であるとGE社は云っている。さらに高い磁場は、Nb3Snを用いれば可能である。Nb3Snは、人体研究用MRI装置よりもっと小さな孔径を持つ21 Tを超えるマグネットに使われている。高磁場MRIシステムの最近の工業スタンダードは1.5 Tであり、3 Tマグネットの使用が最近急速に増えている。今年の初め、ニューヨーク大学医学部は、シーメンスメディカル社が開発した30トンのMagnex Scientific 7 T MRIマグネット装置(約320 kmの線材を使用)の搬入を受けた。

他の高磁場システムを凌駕する9.4 Tシステムの感度増加により、研究者が解剖学的イメージングを超えて代謝作用イメージングへ行くのを可能にするとGE社は考えている。イメージ信号対ノイズ比(SNR)とスペクトル解像度は磁場強度と共に増加するので、低磁場でSNRによって限定される応用は9.4 Tでは性能改善を示す。9.4 Tシステムは、UIC研究者がNa, P, C, N2,O2 —脳機能と人間思考の代謝作用を担う基礎搆成体*からの信号を検出できるようになろう。代謝作用イメージングは、研究者が人間脳の働きを理解するのを助け、その臨床的兆しが現れる前に疾患を検出するのに役立ち、さらに発作のような病気のために薬物セラピーの開発を助け、学習能力低下のより良い理解の提供に役立つだろう。

GEヘルスケアー社副社長のD. Cooke氏は、「Dr. Thulbornと共同して、9.4 Tシステムを開発した。代謝作用が如何に脳機能を駆動するのかの深い究明手段を研究共同体へ提供する為、そして脳の最大の謎の幾つかに答える為である。《とコメントした。

Thulborn博士は、9.4 T MRIシステムを用いて、卒中、アルツハイマー、自閉症、精神病等を含む脳の多くの共通状態や種々の疾患をモニターし、同定する予定である。また同博士は、注意力上足症のような認識力欠乏症を観察し、できるなら治療するのに、当システムを適用しようと計画している。

GE社は、「当マグネットはマグネット技術及び高磁場応用の最先端で稼動することにより、新しい臨床応用の開発を進めようとする当社戦略の一環である《と語った。                                      

                               

(こゆるぎ)