SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.6, December. 2004

5. MgB2コイルで2テスラを達成_JR東海、物質・材料研究機構_


 東海旅客鉄道リニア開発本部と物質・材料研究機構は、日立製作所日立研究所の研究協力を得て、二硼(ほう)化マグネシウム(MgB2)系超電導コイルを製作し、世界最高の磁場発生に成功したと発表した(2004年度ASC及び低温工学・超電導学会秋季大会)。

今回、130 m長の長尺単芯線材を作製し、そのうち58 mを使用してソレノイドコイルを試作し、通電試験を行った結果、2 Tを超える磁場の発生を確認できたようだ。

  2001年1月に青山学院大学の秋光純教授らによって発見されたMgB2超電導物質は、臨界温度(Tc) が金属系材料として世界最高の39 Kであることから、冷凍機冷却コイル等としての応用が期待されている。従来の液体ヘリウム冷却から冷凍機冷却に置き換えることができれば、システムとして大幅なコスト低減が可能となる。また、今回使用した線材は、製造工程で中間焼鈊や圧延加工を用いておらず、従来の超電導線材と比較してもコスト低減が可能という。

線材及びコイルの作製を担当した日立研究所は、高強度のシース材に粉末を充填し、加工時に線材内のMgB2を高密度で連続的に流動させる技術を開発しており、2002年には30 m級のSUS316シース線材を用いたコイルにおいて0.5 Tの磁場発生に成功している[本誌11巻6号(2002年12月)に既報]。しかし、ステンレス鋼等の電気抵抗の大きな高強度金属を被覆材として使用した場合、臨界電流が高いと線材自身が焼搊する問題があった。また、加工性も悪く、細線化や長尺化が困難であった。一方、従来金属系超電導線材で主に使用されている銅を被覆材として使用した場合には、電気抵抗が低いため焼搊の防止には有効であるが、MgB2中のMgと反応層を形成するため、超電導特性が低下するという問題があった。

このような背景を受けて、今回、MgB2コアと直接接する部分に鉄、その外周に銅を配置した銅/鉄複合被覆材を開発した(図1)。この中で、(a)伸びや熱膨張率が異なる銅と鉄を一体化する接合技術、(b)特殊な高密度・高均質加工技術を開発し、130 m級の単芯線材の作製に成功した。使用した線材は、製造工程で中間焼鈊や圧延加工を用いておらず、従来の超電導線材と比較してもコスト低減が可能という。

この線材を用いて、内径30 mm、外径48 mm、高さ50 mmのソレノイドコイルを製作し、4.2 K、外部磁場ゼロの条件で、臨界電流214 A、中心磁場2.1 T、最大経験磁場2.2 Tを達成した。25 Kまでの高温特性の評価においては、20 K、外部磁場1.5 Tおよび25 K、外部磁場1 T中で、それぞれ1 T(臨界電流100 A)の磁場発生が確認されている(図2)。

物質・材料研究機構の田中和英氏によれば、「今回、超電導コア部が長さ方向に均一に形成されるような製造条件を独自に見い出した。これにより、長さ58 mにわたって均質な性能を持つ線材が作製できた。今後は、線材の高性能化と並行して、km級線材の開発に向け、要素技術を確立していく。《とのこと。また、同機構の北口仁氏は、「従来金属系超電導線材と同様に、MgB2もフラックスジャンプなどの電磁気的な上安定性が生じる可能性がある。今後、多芯化を検討する必要がある《とコメントした。さらに、日立研究所NMR研究プロジェクトセンター長の岡田道哉氏は「今回の成果は、医療診断機器MRIや磁気浮上列車などへの応用に道を拓くもので、MgB2を用いた大型マグネット応用に目処がたったと思う。《と語っている。MgB2薄膜やバルクでは、20Kでも実用的な臨界電流特性が得られているため、長尺線材でもその特性が達成されれば、新規な応用分野が開拓できる可能性がある。

 東海旅客鉄道リニア開発本部山田秀之氏は、「今後は、SiCをはじめとする第3元素添加などを行って、磁場中における臨界電流特性を更に向上させたい。《とのこと。また、物質・材料研究機構の熊倉浩明氏は、「MgB2系の線材開発では、高磁場中での臨界電流密度等、基本特性の向上に急速な進歩が見られている。今後も常にコスト低減の意識を持ちながら、我が国で発見されたこの材料の実用化に向けて、世界の研究をリードして行きたい。《とコメントしている。                                                 

                               


図1 MgB2長尺単芯線材の断面


図2 MgB2コイルの発生磁場の外部磁場依存性

(ホークスファン)