SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.6, December. 2004

3. 新製法による140mm口径の大型バルク超電導体登場_超電導工学研究所_


 ISS2004において、超電導工学研究所は新たに開発された製法により140mm径の大型バルク超電導体の試作に成功したと報告した。これは、財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)と共同で行った、人工衛星USERS(次世代型無人宇宙実験システム)を用いた宇宙実験で得られた知見の一部を基にした成果である。

 バルク超電導体は従来の永久磁石の数倊から十数倊の高い磁力を保持することが可能であり、数々の応用が期待されている。この超電導バルクの磁力を決める最も重要な要因はバルクのサイズと臨界電流密度の向上である。臨界電流密度の向上に関しては、既に種々の手法が検討され安定して高い臨界電流密度が得られる様になってきている。そのため、本格的にこの材料の応用を推進し産業化するためには大型バルクの製造法の確立が必要であった。宇宙実験の目的は、地上での大型超電導バルク製造に活用できる知見を得ることであった。今回の宇宙での微小重力環境は、地上の10万分の1程度であり、より理想的な環境下での材料実験が可能となり、地上での大型化の際に生じる特性劣化の要因などに対する知見が得られることが期待されていた。

 USERSプロジェクトはNEDOの委託を受けて、USEFが実験システム開発と運用を行い、ISTECがミッションである超電導実験を担当したものである。USERS宇宙機システムは、軌道上で実験を行う機器を搭載し、実験終了後地上に帰還するカプセル形状のリエントリーモジュール(REM)と、軌道上においてはREMに様々なリソースとサービスの提供を行うサービスモジュール(SEM)から構成されていた。

 USERSは、2002年9月10日にH2-A 3号機により打上げられ、高度450 kmに投入されて軌道上運用を開始した。投入後軌道上昇させ運用軌道に上昇し、長期に亘る良好な微小重力環境を維持して、大型超電導材料製造実験を行い、順次3台の電気炉を動作させ実験を無事終了した。実験を完了後、 REMはSEMと分離し、単独で2003年5月30日に小笠原東方沖の予定の着水領域に帰還した。無人実験衛星の回収成功は日本で初めてのことであった。

 回収された試料は時間をかけて慎重に非破壊検査や分解作業などがなされた後、2004年初めより詳細な試料評価が行われていた。試料はほぼ予定された位置に元の形状を保ったまま得られていたが、ここで、試料のうち一つは、通常のバルクプロセスでは生成することのないGd2BaO4(Gd210)の針状結晶を骨格とした構造になっていた。また、この試料においてCuはAgと固溶しAg-Cu合金を生成していた。その後、様々な調査を進めるうちに、これらの事象は微小重力環境下において地上では想定していなかった事象に端を発して生じたものであることが明らかとなった。

 研究グループは、このGd210の融点が高く過酷な条件下においても安定した骨格構造を形成していたことに着目し、Gd210を骨格として形成し、これにBa-Cu-O成分を染み込ませて超電導相を生成させる手法(Gd210 + 3BaO + 6CuO  2Gd123)について検討を行ったところ、良好な特性が得られることを確認した。また、この手法は従来法に比べ、組織の均一化や製造プロセスの低温化の可能性があるなど、大型バルク超電導体の製造に適していることが判明した。

 実際にこの製法を用いて140 mm径の大型バルク超電導体の試作を行った。図1に、試作した大型バルク超電導体とそれを液体窒素に浸漬させ永久磁石と相対させた際の浮上実験の写真を示す。これまでにない大きさの材料のため非常に強力で安定な浮上が実現している。

 平林泉氏(超電導工学研究所材料物性研究部バルク研究室室長)によると「今回、宇宙における微小重力実験で得られた素材を用いた大型バルク超電導体の製造法を開発した。今後さらに改良を進めることにより、高品質な安定した大型高性能超電導バルクの作製が可能となることが期待される。また、バルク材の大型化により、総捕捉磁束量の増加などが期待され、これにより磁気浮上、各種電動機器、電力貯蔵、磁気軸受などへの、超電導バルクの応用が展開されると考えられる。《と述べている。今後の発展が期待される。                    

                               


図1 140 mm径の大型バルク超電導体の外観(左)と液体窒素に浸漬させたときに永久磁石を浮かせている様子(右)。

(アイスブルー)