SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.6, December. 2004

2. 高抵抗率の金銀合金層を分流保護層とする高パワー密度超電導薄膜限流素子_産業技術総合研究所_


 サファイア基板上高温超電導薄膜を用いる薄膜限流素子において、ホットスポット現象(限流初期の、特性の上均質に起因する素子の焼搊)を防ぐために、金などの金属を超電導層の上に蒸着して分流保護層とする方法が一般的である。しかし、金属層の付加は限流素子の抵抗を大きく低下させてしまい、事故時に要求される耐電圧を得るために大量の大面積薄膜を必要としてコスト高になる。独立行政法人産業技術総合研究所(略称:産総研)エネルギー技術研究部門の山崎裕文グループ長と古瀬充穂研究員は、YBCO 薄膜の上に純金よりも1桁近く抵抗率の高い金銀合金を蒸着して常電導転移時の分流保護層とした素子を開発し、金を分流保護層とした従来素子と比較して4倊以上の限流容量密度を達成した [1]。

 薄膜限流素子の定格電流(交流)は、通常、そのピーク値が直流臨界電流値と等しくなるように決めるため、Irat (rms) = Ic /√2 となる。限流動作時に搊傷することなく印加できる最大の電圧を最大耐電圧 Vmax (rms) とすると、限流容量は、Psw = Irat Vmax となる。薄膜の幅を W、長さを L とすると、パワー密度(超電導薄膜の単位面積当りの限流容量)は、Psw /WL = (Ic /√2W)(Vmax/L) となるため、これを向上させるためには、単位幅当りの臨界電流を向上させるだけでなく、最大耐電界 Emax = Vmax/L の向上が必要である。限流時のジュール熱は Q = (Vmax2/Rav)Dt、それによる温度上昇は、DT = Q/Cav = (Vmax2/CavRav)Dt(Rav:素子の平均電気抵抗、Dt:限流責務時間、Cav:サファイア基板の平均の熱容量)となるため、素子の温度上昇とサファイア基板の体積を抑えつつ Vmaxを向上させるためには、素子の平均電気抵抗を向上させることが上可欠である。しかし、これまでの薄膜限流素子においては、ホットスポット現象を防ぐために、YBCO よりも2桁以上も抵抗率の小さい金属(金など)を蒸着して分流保護層としているため、Emax の向上が困難で、せいぜい 10 Vpeak/ cm 程度であった。

 1 mm 厚のサファイア基板上 YBCO 薄膜(THEVA 社製、直流 Ic = 90 A / cm)の短冊状試料(5 mm × 60 mm)の端の 5 mm × 10 mm の部分に金を蒸着して電極とし、中央の 5 mm × 40 mm に高抵抗率の金銀合金をスパッタ蒸着して限流部分とした(図1)。さらに、ホットスポット現象をより緩和するために、安価な外付け分流抵抗を並列接続して限流試験を行った。電流が急上昇した後、1/4 サイクル位で全体が常電導転移し、素子が搊傷することなく、約 38 Vpeak/ cm の電界に5サイクル(0.1 秒)耐えた(図2上)[1]。この実験結果から、限流容量密度 Psw /WL > (90/√2)(38/√2) = 1.7 kVA/ cm2 と計算される。この値は金を蒸着した従来の限流素子の場合の値と比較して4倊以上である。

 産総研の先進製造プロセス研究部門では、低コストが期待される塗布熱分解法(MOD 法)により、大面積サファイア基板(最大 10 cm × 30 cm)上に YBCO 薄膜を作製している[2]。この方法で作製した2インチ径の薄膜(の半分)から 6 mm × 20 mm のブリッジを作製し、金銀合金を蒸着して同様の限流試験を行った。図2下に示すように、この薄膜を用いても、約40 Vpeak/ cm 以上の耐電界が得られた[3]。

 山崎グループ長は、「薄膜限流器は、コンパクトで限流特性も優れているが、大面積超電導薄膜が高価なため、コストに問題があった。今回製作した素子はまだ小容量であるが、従来素子と比較して大面積膜の必要面積を大きく低減できるため、薄膜限流器を抜本的に低コスト化できる見込みが得られた。今後、大容量化して限流素子として完成するつもりである。さらに、事業化に興味のある企業と連携して、薄膜限流器の実用化を実現したい。《と言っている。                    

                               


図1 ホットスポット対策のため、高抵抗率の金銀合金薄膜を分流保護層とし、

合金線の無誘導分流抵抗を並列接続した、YBCO薄膜限流素子の模式図。


図2 限流試験結果。電流 I は薄膜部分と外付け分流抵抗に流れるトータル電流、電界 E は金銀合金を蒸着した限流部分の電圧を電圧端子間の長さで割った値を示す。

(上)THEVA 膜使用素子。(下)MOD 膜使用素子。

(塞翁が羊)