SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.6, December. 2004

12. 書評 『超伝導応用の基礎』


 松下照男 編  松下照男・長村光造・住吉文夫・圓福敬二 著 

米田出版発行 本体価格 4700円 ISBN4-946553-18-5 c3055 A5判 353頁

 本書は、超伝導応用を目指す大学院生、研究者及び技術者向けの総合的入門書である。個々の専門書については、本書の著者による「磁束ピンニングと電磁現象《及び「多芯線と導体《(産業図書)それに続いて「超伝導材料《(米田出版)などが出版されているが、総合的入門書には未だ適当なものがなく久しく待望されていた。この度、上記専門書の著者が各々の分野を入門書として分かりやすくまとめると共に、内容の改訂と基礎的事項を補充し、新たに超伝導デバイスを追加したものである。応用超伝導の特徴は“究極の省エネルギー技術”であり、エネルギー問題や環境問題が深刻化し、それに取りくむ研究者及び技術者の増強・育成が緊急の課題になりつつある昨今、まことに時宜に適った出版といえよう。応用超伝導を基礎から勉強したい人にも、演習問題が随所に用意され、11件の付録がついているなど懇切・丁寧な参考書となろう。本書は、三冊分の内容がこれ一冊に濃縮され、応用超伝導の全貌を掴むことができる誠にお徳用の書と云えよう。本書を強く推薦する所以である。 本書は内容的には、下記のように5章から構成されている。第1章 超伝導現象(松下)では超電導の特徴が丁寧に解説されている。例えばマイスナー効果は、磁性体と同様の電磁気学的取扱いでは本質は捉えられないと教育的に論じている。BCS理論(第一種超伝導体)の結論を理論的に導く代わりに、その物理的意味をやさしく解説することに徹している。一方、第二種超伝導体については、GL理論を適用して高磁場材料に適した第二種超伝導体の諸性質を導き、詳しく議論している。第2章 磁束ピンニングと電磁現象(松下)では先ず、磁束ピンニング機構がやさしく説明される。次いで実用的に重要な臨界電流密度の基礎であるピン力密度とスケール則が論じられ、臨界状態モデルをやさしく解説している。磁化曲線と各種の交流搊失が理論的に求められる。高温超伝導でも問題になる磁束クリープと上可逆磁界を詳しく解説している。最後に臨界電流密度の各種測定法を紹介している。第3章 高温超伝導体(長村)では、各物質の結晶構造と電子的性質の特徴を述べている。銅酸化物超伝導体は異方性が強いこと、さらにストライプ構造や擬ギャップなど特異な現象についてもやさしく解説している。実用超伝導線材については、Bi-2212、Bi-2223 、Y-123の線材に関して、線材の作製方法、微細組織とその制御法、臨界電流特性などを述べている。発見後間もないMgB2についても最新の状況を紹介している。第4章 多芯線・導体・コイルの電磁現象と安定性(住吉)では、大型応用を中心に多くの応用実例(写真)を紹介しながら、各種形状の多芯線と各種導体構成を概観している。次いで多芯線及び導体の電磁現象を詳細に論じ、実用上重要な関係式や計算式を導出している。この辺はハンドブック的にも使えそうである。最後に、線材の安定化法として断熱的及び動的磁気的安定性と冷却安定性を詳しく解説している。第5章 超伝導デバイス(圓福)では、最初に超伝導薄膜デバイスとしてボロメータとマイクロ波フィルターを紹介している。次いで、トンネル接合、SNS接合など各種接合の分類を述べ、集中定数接合及び分布定数接合のI-V特性について詳細に論じている。電磁波デバイスについては、ジョセフソン発振器、シャピロステップ電圧標準などを紹介している。SQUIDについてもrf SQUID特にdc SQUIDについては詳細な解説がなされている。                       

                     

(相模)