SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.6, December. 2004

11. ISS2004 (17th International Symposium on Superconductivity) 報告


 国際超電導シンポジウム(ISS2004)会議開催される ―新潟国際会議場(朱鷺メッセ)にて

 第17回国際超電導シンポジウムISS2004(国際超電導産業技術研究センター:ISTEC主催)は、新潟国際会議センターにて11月23日から11月25日まで24ヶ国、613人が参加して開催された。新潟地震の影響による会議参加者の減少は軽微に留まり、米国、欧州、中国、韓国などアジア太平洋地域からの参加者が多く、発表件数は口頭144件ポスター354件合計498件、昨年より54件の増加となり全体として盛会であった。高温超伝導が発見されてから17年が経過しているが、近年応用研究の発表が増えており、17年に亘る高温超伝導研究開発の成果を実感させる有意義な会議であった。

初日の会議は、ISTEC/SRL田中昭二所長の開会挨拶に続いて、2件の特別基調講演と6件の基調講演が行われた。特別基調講演では先ず、田中所長が「超伝導応用の新時代《と題して講演した。近年に於けるHTS技術の進歩は目覚しく、SRLでは新しい浸透法により直径14 cmのバルク製造に成功し、大型化高性能化の見通しが得られつつある。次世代線材もMulti-plume法による48.5 m長のYBCOテープで8.3 kAmを達成した。フジクラは、100 m長テープで世界最高の13.2 kAmを達成している。近い将来、ケーブル、モータ、発電機など20~77 K応用だけでなく、SMES, 30 T-NMR、核融合など4~20 Kの高磁場応用も可能となろう。最近SFQ素子の研究も急速に進み10,000接合の集積が可能となり、100,000接合も近く実施する予定。SFQデバイスは、ポストシリコン素子としてルータ、サーバーなどネットワークへの応用が期待できると、HTSの明るい将来展望を述べた。次いで、ロスアラモス国立研究所のD. E. Peterson博士は、「米国に於ける高温超伝導線材の開発状況《について講演した。第一世代Bi系線材は電力応用向けにASC社から1000 m級の長尺線が年率1000 km、価格100$/ kAmで供給されている。第二世代Y系線材CoatedConductor(CC)については、諸大学、国立研究所の支援下でIBAD法、RABiTS法を中心に各種手法の開発が精力的に行われ、高特性を達成している。SuperPower社が2 m及び100 m長でそれぞれ116 A及び70 Aを達成し、ASC社も34 m長で140 Aを達成したと述べた。

基調講演では最初に、H. Freyhardt教授(ゲッチンゲン大学)が「欧州に於けるCC研究開発の主要な成果《を報告した。大きな進展は、例えばSUS基板上にIBAD法によりYSZ層とCeO Cap層を積層し、その上にYBCOを形成したCCで見られ、ZFKでは最高Ic として480 A及び355 Aをそれぞれ1.4 m長及び6.1 m長の線材で得ている。THEVA社では、MgO-ISD法によりDyBCOテープを開発中であると述べた。超電導工学研究所の塩原融部長は、次世代線材に関する日本全体の開発状況をレビューした。フジクラは、IBAD/PLD法により126 A/cmWのIcを持つ105 m長テープを開発し、世界最高の13.2 kAmを達成した。今後の開発目標として長さ500 m、Ic 300 A 、コスト10\ / Am、製造速度5 m / hを挙げ、達成する自信を示した。新規プロセスについても、昭和電線がTFA-MOD法で120 A/cmを達成したことを紹介した。物質・材料研究機構の立木昌教授は、高温超伝導体がジョセフソン・プラズマを励起する性質に着目し、それを利用したTHz級の発振器構想を提唱してきたが、今回は世界最速の地球シミュレータによる計算結果報告であった。Bi-Sr-Ca-Cu-Oの物性値を用いると外部へ放射されるTHz波強度が数mWにも達するとの発表は聴集に深い感動を呼んだ。芝浦工業大学の村上雅人教授は、RE-Ba-Cu-Oバルク超伝導体の開発状況について報告した。先ず、Y-Ba-Cu-O超伝導体で最高磁界17 T(at 29 K)及び4 T(at 77 K)を達成し、混晶系(Nd,Eu,Gd)-Ba-Cu-Oで15 Tの上可逆磁界を達成した。一方応用分野も磁気ベアリング、バルク磁気浮上、磁気分離、マグネトロンスパッタリング装置などに拡がっていると述べた。J. Clarke博士(カリフォニア大学)は、超高感度検出器SQUIDの新規応用について講演した。SQUIDと超伝導転移端センサーの組み合せによる遠赤外検出器が2005年チリのアタカマ市に設置される。マイクロ波同調入力回路を持つSQUIDを20 mKに冷却するとノイズは量子限界まで低減し、ローレンスリバモア国立研のAxion検出器の性能を劇的に改善できようと述べた。吊古屋大学の藤巻朗教授はSFQマイクロプロセッサー(MPU)の開発について報告した。最初にCORE1α5と呼ばれるプロトタイプを4990接合にて試作し、15 GHz、1.6mWでの動作を実証した。次いで試作機CORE1α7に4バイトのメモリーを追加し、7220接合で構成したCORE1α10により20GHzまでの動作を実証した。これにより100万接合級のSFQ—MPU実現の見通しが明るくなったと述べた。

2, 3日目の会議は、物理・化学、バルク/システム応用、線材/システム応用、薄膜・デバイスの各セッションに分かれて討論が行われた。各セッションの参加者に寄稿戴いた各報告を以下に掲載することとする。閉会に当って田中所長は、次回の会議が2005年10月24日から26日まで、つくば市で開催される予定と述べた。

(SUPERCOM事務局取材)

1. 物理&化学

1) Vortex Physics

磁束線分野では、昨年、Abrikosov博士にノーベル賞が、そして、John Bardeen、Kammerlingh Onnes賞が、それぞれ、Larkin-Nelson-Vinokur、Zeldov-Crabtree博士等に贈られたことを記念してミニシンポジウム“Vortex Physics---from simple metal to high Tc superconductors”が企画された。また、最近、金属系超伝導体についても新たな進展が見られていることもシンポジウムを開く要因の一つになっている。そして、Blatter教授等がReview of Modern Physics誌に高温超伝導体の磁束線状態、物理を詳説して10年にあたる年でもあり、Abrikosov博士、Blatter教授を迎えて、金属系超伝導体から高温超伝導体へと磁束線物理を総括する予定であったが両人とも出席することができず、非常に残念であった。以下、講演者の敬称を略し、特にシンポジウムについての講演の概略を述べさせていただく。

磁束線物理の理論的な現状を講演したのは胡(物質・材料研究機構)であった。高温超伝導体の磁束線状態は熱的揺らぎと異方性に大きく依存して種々の磁気的な相が出現する。特に異方性をパラメーターとして、現在未解決である平行磁場下のジョセフソン磁束線状態についてモンテカルロシミュレーション結果を基に実験結果と比較して議論がなされた。YBCO系からBi系へと異方性が大きくなるにつれ、ジョセフソン磁束系の磁気相図には三次元長距離秩序状態相と高温側への磁束線液体への一次転移境界、高磁場側では準二次元長距離秩序状態相、そして、三相の臨界点が存在することが統一的に述べられた。

Crabtree(アルゴンヌ国立研究所)はYBCO系での磁束線の点、線、面状ピン止め中心と磁気相図について講演した。これらのピン止め中心は応用上重要であり、熱力学的にどのような磁気的な相を形成しているかの議論がなされた。De la Cruz(Centro Atomico Bariloche)はBi系に重イオン照射による無秩序な柱状欠陥を少量(Bとして数十ガウス程度)導入し、磁束線の固体*液体一次転移がどのように影響を受けるかをBitterデコレーション法で調べた結果を報告した。磁束線格子は印加磁場とマッチング磁場Bとの大小により、多結晶、アモルファス状態へとトポロジカルな構造変化を示すことが報告された。西嵜(東北大学)はYBCO系に上純物Ni、Znを導入した場合の磁気相図について講演した。ZnはNiの3倊程の上純物効果があり、かつ、磁束線固体*液体一次転移線が消失し、磁束線グラス*液体境界が超伝導転移温度まで延長されることが示された。前田(東京大学)は磁束線のダイナミクスとして、マイクロ波照射による磁束線動力学的摩擦状態について講演した。

高温超伝導体で特徴的なことは磁束線コアの状態である。実験、理論の立場から、それぞれ、Sonier(James Fraser大学)、市岡(岡山大学)が講演した。Sonierはミューオンスピン共鳴実験とその理論的解析によりYBCO系の磁束線コアではCuO鎖の影響が大きいことを指摘し、磁場、温度による磁束線コアが収縮することを金属系超伝導体についても示した。市岡は超伝導の対称性とSDW、CDWの効果を理論的に解明し、数値計算結果を示した。ノードがある場合には準粒子がコア外部にまで存在し、SDW、CDWがある場合にはコア中心では空の励起状態が実現され、ストライプ構造が出現することをも示した。

金属系超伝導体では大熊(東京工業大学)によって非晶質MoSi系で量子磁束線液体状態があることが実験的に確認されたことが報告された。北(北海道大学)はこれまでの経験的な上部臨界磁場Hc2の温度依存性をフェルミ面の構造を取り入れた三次元タイトバインデングモデルによって数値計算を行い、金属系超伝導体の上部臨界磁場温度依存性を低温まで説明できることを示した。実験で簡単に求められる、フィッテングに適当な物理パラメーターが見出されれば、応用上、非常に有益である。渡邊(東大物性研、京都大学)はCeCoIn5超伝導体の磁気的相図にFFLO相があることを超音波測定により実験的に証明した。FFLO相が理論的に提言されてから40年、幾つかのそれらしき実験結果が発表されてはいたが、ようやく、実験的な確証が得られたと言えよう。

最後に、本稿では口頭発表の一部のみを述べさせていただいたが、高温超伝導体の磁束線物理に限らず、金属系でも着実な進展が見られ、測定法においてもSTM、走査SQUID顕微鏡(西尾(JAERI))、磁気光学顕微鏡(寺尾(東京大学)、村上(大阪大学))、ローレンツ顕微鏡(戸川(理研、日立基礎研))等の技術も発展してきている。また、超伝導体の微細構造技術も発展し、微細構造における磁束線物理(Nori(理研)、Baelus(筑波大学)、林(東北大学)、加藤(大阪府立大))と関連して、d-dotsの磁束線物理も仲間入りし、磁束線物理として新しい時代を迎えた感がある。           

              

(物質・材料研究機構 平田 和人)

    2) Physics & Chemisty

銅酸化物における高温超伝導が発見されてからすでに17年が経つが、近年の物質合成技術および測定技術の進歩により、現在でも新しい知見が次々と得られている。本年度のPhysics and Chemistry分野は、"Superconductivity in Nanoscale"と題されたミニシンポジウムと、新超伝導体の発見報告を主とした化学分野のセッションが開催され、活発な議論が行われた。以下では、招待講演を含む口頭発表を中心に本会議で議論されたものをまとめて紹介する。

ミニシンポジウム "Superconductivity in Nanoscale"

近年、高温超伝導体では,超伝導を担う電荷キャリアは銅*酸素平面内で一様に分布しているのではなく,ナノスケールの空間変調をもって偏在しているのではないかという指摘がなされ、理論、実験両面から精力的な研究が行われている。本シンポジウムでは、当分野をリードする研究者達によって、最新の実験結果が紹介された。

ナノスケールの空間分解能を有する走査型トンネル顕微鏡(STM)測定は、銅酸化物超伝導体の空間変調を直接観測する強力な手段として注目を浴びている。本シンポジウムでは2件の報告がなされた。Vershinin (Univ. Illinois at Urbana-Champaign) は、低ドープ領域のBi2Sr2CaCu2O8単結晶(Tc = 80 K) において、超伝導転移温度以上の擬ギャップ領域(T = 100 K)では、結晶格子周期の約4倊の周期を持つ電荷変調構造が存在すると報告した。この構造は、超伝導転移温度以下で観測されている構造とは異なり、明瞭な分散関係を示しておらず、擬ギャップの起源が、超伝導秩序とは異なる秩序形成によるものであることを示唆している。また、長谷川(東京大学)は、ビスマス原子を鉛で高濃度置換したPbxBi2-xSr2CaCu2O8の詳細なSTM測定の結果を報告した。鉛置換により、試料はビスマス*酸素面に変調構造を持つ相(相)と持たない相(相)に相分離すること、両者の境界で超伝導ギャップの大きさが激しく変化し、結果としてその領域が有効なピニングセンターとして働くことを明らかにした。

ランタン系銅酸化物超伝導体では、ナノスケールの相分離はストライプ状に起こることが示唆されている。安藤(電力中央研究所)は、低ドープ領域のLa2-xSrxCuO4において、ストライプ描像で予想される電気抵抗率の異方性が実際に存在することを紹介した。また、低ドープ領域のYBa2Cu3O7-yにおいても同様の電気抵抗率の異方性が見られることから、ストライプ的な電荷秩序形成が銅酸化物における普遍的現象であると主張した。藤田(東北大)は、ストライプ構造が静的に安定化されるLa2-xBaxCuO4の中性子散乱を行い、明瞭な静的スピン*電荷ストライプ秩序を観測した。 小池(東北大)は、銅原子の上純物(Zn, Ni)置換、あるいは、磁場印加によって、ストライプ状態を誘起、安定化させる試みについて報告した。SR、熱伝導の測定結果は、超伝導が破壊された領域で磁気秩序が誘起されたという解釈で説明可能である。

掛下(ISTEC-SRL)は、低ドープYBa2Cu3O7-yの面内光学応答の測定結果を報告した。超伝導状態における超流動密度が常伝導状態における電子密度に比べて減少しており、その差が電荷相分離を仮定することにより説明できることを指摘した。 本シンポジウムの講演の大半は、電荷上均一に肯定的な報告であったが、Loram(Cambridge)は、比熱の詳細な解析結果から、試料中のドープ量は、x < 0.02の範囲で均一であると主張した。その解析結果が正しければ、銅酸化物における電荷上均一は存在しないことになり、他の実験結果との統一的な解釈が強くのぞまれる。

新超伝導体

ここ一年の間に、数々の新超伝導体が発見された。廣井(東大)は、-パイロクロア構造を有する、AOs2O6 (A=K, Rb, Cs)が、それぞれTc = 9.6 K, 6.3 K, 3.3 Kで超伝導転移することを報告した。NMRの測定から、Tcが高い物質ほどスピン揺らぎの強さが大きくなっていることが明らかとなっており、本系の超伝導がパイロクロア構造に起因する特異なスピン揺らぎと密接に関連していることが指摘された。

山田(新潟大)は、Pr2Ba4Cu7O15-yで、Tc = 18 Kの超伝導転移を観測したと報告した。Prを含む123系類縁物質で超伝導が観測されたのは本系が始めてである。超伝導は、高酸素分圧下で焼成された多結晶試料を還元することにより出現する。山田らは、本系の超伝導が銅*酸素2次元面ではなく、銅*酸素2重鎖で出現していると主張した。 小池(東北大)は、Sr2CuO2Br2にLiをインターカーレートした試料で、8 Kの超伝導転移を観測した。K2NiF4構造を有する銅酸化物で、電子ドーピングにより超伝導が実現したのは本物質が初めてであり、大変興味深い。

長尾(物質材料研究機構)は、硼素を4.7 %ドープしたダイヤモンド薄膜において、7.2 Kでゼロ抵抗(オンセットは11.4 K)を観測したと発表した。

Badica(東北大)は、Li2Pd3BがTc = 7.8 Kの超伝導体であることを報告した。本物質は、Li2(Pd1-xPtx)3Bの形で固溶系を構成するが、超伝導転移温度はx = 1のTc = 2.7 Kまで単調に低下する。

櫻井(物質材料研究機構)は、新超伝導体NaxCoO2yH2Oにおける試料合成を最適化し、本物質の詳細な相図を提唱した。特に、Na濃度、Co価数に加え、結晶中に含まれるオキソニウムイオンH3O+の量が本系の物性に大きな影響を与えていることを示した。又、今井(McMaster University)は、CoサイトのNMR測定の結果、磁気秩序を示すx > 1/2の組成領域において、2つの非等価なCoサイトが存在すること、この2つのサイトの区別がx =1/3のフェルミ流体では平均化されることを明らかにした。 

       

(産総研 永崎 洋)

2. 線材/システム応用

Wires, Tapes and System Applicationsのセッションでは38件の口頭発表と180件のポスター発表が行われた。以下に紙面の許す範囲で主なハイライトを紹介する。

BSCCO & MgB2テープ:小林(住電)らは高圧焼成プロセスによるBi-2223線材の特性向上について報告した。臨界電流値は従来プロセスでの値80 Aに対し、120 A前後の値が歩留まり良く得られる。また、機械特性も向上し、ハンドリングが格段に楽になった。これらの特性向上は、フィラメント中のボイドや異相の生成を抑制できる事に起因している。工業材料としての製法の大きなブレークスルーと考えられる。MgB2線材は低コスト線材としての展開が期待されている。Feng (Northwest Inst. Nonfero. Mat. Res.)らはZrの添加によりピン力増大が可能であることを報告した。本手法によりJc(25 K, 1 T) = 85,000 A/cm2を達成している。

RE123系線材:IBAD法、RABiTS法ともに、様々な中間層、バッファ層材料と、異なるY123成膜法の組み合わせによって、活発な研究が展開されている。短尺での着実なIc向上に加え、数100 m級長尺線材の開発フェーズにいよいよ入ってきた。特に日米間の熾烈な開発競争が印象的であった。SuperPower社のXieらはPLD法とMOD法による開発を行っており、IBAD基板上の線長100 m の導体でIc = 70 A/cm-w(1 cm幅換算のIc)、また58 m長の導体では122 A/cm-wを得ている。同じくIBAD系線材ではフジクラの柿本らはPLD法により126 A/cm-w×105 mの世界最高値を報告した。短尺線材のIc値は既に299 Aを達成している。さらに、70 m長線材を用いて初めてソレノイドコイルを作製し、過冷却窒素下で、中心磁界0.27 Tを発生した。巻線に伴う線材特性の劣化は見られない。従来、テープ状線材ではソレノイドの構成は困難と考えられていただけに、今後の進展が大いに期待できる成果である。ソレノイド型は、パンケーキ型と異なり、コイル間の接続を必要とせず、熱的、機械的安定性にも優れる。SRL吊古屋の渡辺らは同じくIBAD-PLD法により182 A/cm-w×45.8 mを達成している。短尺線材上でのIc値は293 A/cm-wとフジクラとほぼ同程度の性能を得ている。また、マルチプルーム・マルチターン法という斬新な方法を用いて、複数のレーザプルームを用いて実効的な体積面積を増大させ、PLD法の欠点といわれた収率の改善と製造速度の向上を成し遂げている。中部電力の鹿島らは、銀基板の一部にIBAD基板をパッチワーク状につなぎ合わせた200 m級IBAD模擬基板を用いて、多段CVD法による成膜実験の成果を報告した。長尺IBAD基板を用いる前段階として、成膜プロセスの信頼性の試験を目的に行ったものである。10 cm長のIBAD基板を10 mおきに銀基材につなぎ合わせ、基板の全長は210 mに達する。この基板を用いて連続成膜を行った後、各部位のIBAD基板上の特性を評価した結果、平均Ic値65.5 A/cm-w、Jcは1 MA/cm2を超える値が安定して得られることを示した。すなわち、CVDによるY123の成膜プロセスは既に200m級線材に適用可能なレベルに達しており、数100 m級YBCO線材の実証も視野に入ってきた。SRL-東京の和泉らは、非真空プロセスによる低コスト製法として期待の大きいMOD法を用いて、112 A/cm-w×9 m、短尺線材において413 A/cm-wのIc値を得ている。移動基板上への塗布・焼成技術が着実に進展してきており、今後のより長尺化が見込める成果である。RABiTs系線材では、同じくMOD法を用いてAMSC社のThiemeらによる報告が行われた。272 A/cm-w×10 m、186 A/cm-w×10 m、また短尺試料において380 A/cm-wを得ている。商用ベースとして300 A/cm-w級線材を考えており、その実現に向けて着実に性能向上を果たしている。

ピンニング:人工ピン導入による材料特性の高度化に関する研究も活発に行われている。Goyal (ORNL)らはナノサイズのBaZrO3(BZO)粒子およびBZOロッドの添加によって磁場中Jcが向上することを報告した。Thieme (AMSC)らは同様の手法をMOD法に適用し、3 Tの磁界中のJc値を2倊に増大できる事を報告している。京大の松本らは、PLD法によって基板表面に形成したY2O3ナノアイランド上にYBCO膜を成膜する事により、柱状の高密度欠陥を導入する事に成功しており、77K, 3 Tの垂直磁界中でJc = 0.3 MA/cm2、5 T中で0.12 MA/cm2とNbTiの特性に迫る特性を得ている。吊古屋大の吉田らは、Sm-Ba置換量を制御した低温テンプレート成膜法を用いたSm123膜によって、77 K, 5 T中でJc = 0.28 MA/cm2を達成している。Jc値としてはNbTi線材の4.2 K、5 T中の特性を凌駕している。今後の厚膜化、金属基材上への展開が待たれる。

特性評価、ACロス:JFCCの加藤らはIBAD-PLD法による厚膜試料の断面TEM観察を行い、厚膜化に伴うa軸配向領域の生成がIc特性を制限することを示した。基板温度の最適制御によるa軸配向結晶の生成抑制が重要となる。木須(九大)らはレーザイメージング法によるIBAD-PLD線材内の搊失分布可視化法を報告した。5 Tの強磁界下での局所搊失の可視化に成功している。また、SQUID走査顕微鏡による磁気イメージング、SEM、断面TEMによる局所的構造解析との対応を示し、電流制限因子解明の為の評価手法としての有用性を示した。Suenaga (BNL)らはYBCO系線材の交流搊失評価・低減に関する日米共同研究事業について報告した。日米協力の下、各種評価技術の開発と、低交流搊失化に関する試みが行われている。米国側の参加機関はBNL, LANL, ORNL, AFRL, Ohio州立大、国内からはISTEC、フジクラ、横国大、九大の各グループが参画している。

アプリケーション:米国、欧州では回転機への応用が精力的に行われている。HTS線材を用いて巻線を構成することで、鉄心を用いずに高磁界が発生でき、空芯構成による小型軽量化、高効率化が期待できる。具体的な応用としては、船舶用電気モータ、航空機用発電機などが挙げられている。Kumeth (Siemens)らはBi-2223線材を用いた36.5 MWのモータを開発した。五十嵐(JR東海)らは、同じくBi-2223線材を用いたMaglev用永久電流マグネットを開発し、現在のNbTiマグネットの置換が可能となる性能を達成している。発生磁界2.4 Tで減衰率0.44 %/dayという極めて優れた特性を実証した。冷凍機冷却によるドライマグネットでの永久電流応用の可能性を示す画期的な成果である。線材のQuality control、巻線技術、YBCO薄膜を用いた永久電流スイッチ、脱着式電流リードなど、周辺技術の完成度の高さも印象的であった。実際に車両搭載して試験を行う次期計画も進行中とのこと、今後の成果が大変楽しみである。向山(古河)らはSuper-Aceプロジェクトの一環として進められている、500 m高温超電導電力ケーブル試験の結果について報告した。500 mのケーブル長は世界最長であり、冷却時の熱収縮の影響など多くの貴重なデータが得られている。交流搊失値は1 kA印加時で1.3 W/m、77 kVで30日間の耐圧試験にも成功している。また、別途20 m長の試験ケーブルを用いて、耐電圧試験も実施しており、95 kV, 10分の耐圧、440 kVのインパルス試験もクリアしている。中部電力の式町らはBi-2212導体を用いた500 A, 1 MVA, 1 MJ容量のSMES用マグネットについて報告した。昭和電線の西川らは同じくBi-2212による大電流容量導体について報告した。300 mを超えるラザフォードケーブルの製造技術を確立し、4.2 K, 1 Tにおける臨界電流値は11 kAに達する。

線材材料としてはY123線材に代表される第二世代線材の特性の向上が著しい。プロセス技術と評価技術との連携によって、プロト機器に応用可能な長尺線材の達成が待たれる。第一世代のBi系線材は、素線から導体レベルの商用生産技術が確立され、それらを用いた各種パワー応用も精力的な研究が行われている。SMES、回転機、電力ケーブルといった応用側の出口も明確に成りつつある。材料と応用の有機的なリンクにより、今後の新たな発展が期待できる。

    

(九州大学 木須 隆暢)

3. バルク/システム応用

バルクとシステム応用に関するセッションでは、20件の口頭発表と49件のポスター発表が行われた。

 まず、バルクの作製プロセスに関しては、バルクの大型化、新規ピンニングセンターなどに進展がみられた。IPHT(ドイツ)のW. Gawalekらは8~30個程度のY系バルクを一度に作製するプロセスを開発した。バルクの特性のばらつきは小さく、ロシアのOSWALD社ではこれらのバルクを使って20 Kで1600 Wの出力の超電導モータを開発している。N. Sakai(SRL)らは宇宙空間でのGd系バルクの成長実験の結果を報告した。宇宙から回収された試料はGd2BaO4(Gd210)結晶とBa-Cu-O系融液成分とに分離するという予想外の結果となった。この知見を活かして、Gd210結晶に融液成分を浸透させてバルクを作製する新規のプロセスを開発し、直径140 mmの大型試料を得ることに成功している。D. A. Cardwell(ケンブリッジ大)らは、ペロブスカイト型のY2Ba4CuMOy(MはZr、Nb、Moなど)を微細分散させたY系バルクを作製し、特性を評価した。分散粒子の大きさは5~10 nmと非常に微細で、100 kA/cm2(77K)のJcが得られている。S. Nariki(SRL)らはBaCeO3やBa(Ce,Zr)O3添加したY系バルクを作製し、これらが磁束のピンニングセンターとして有効であることを明らかにした。また、ボールミル粉砕したY211超微細粉を原料として作製した(Gd,Y)系バルク体のJcが380 kA/cm2(77K)に達したことを報告した。M. Miryala(SRL)らもGd211超微細粉を添加して作製したNEG系バルクで260 kA/cm2(77K)の高いJcが得られたことを報告した。H. Ikuta(吊大)らはDy系およびSm系バルクへの微量のZn添加により、種結晶近傍のJcが上昇し、捕捉磁場が改善されることを報告した。バルクの評価に関しては、マグネトスキャン法と呼ばれる新しい評価方法がH. W. Weber(ウィーン工科大)ら、およびT. Kono(SRL)らから報告された。これは、ホール素子と永久磁石を同時に走査する方法であり、微小な欠陥を非破壊で詳細に検出することができる。応用上重要なバルクの機械特性や熱的特性については、岩手大を中心に研究が蓄積されており、それらのデータをまとめたものをWeb上に公開していることが紹介された。 (http://ikebehp.mat.iwate-u.ac.jp/database.html, http://paris.mech.iwate-u.ac.jp/sc-bulk/database.html)

さて、バルクのシステム応用に関しては、フライホイール、スパッタ装置、電流リード、超電導モータなどについての開発状況が報告された。T. Ichihara(SRL)らは10 kWh級フライホイールシステムに適用するラジアル型超電導軸受(SMB)の運転試験結果について報告した。これまでに7500 rpmまでの安定回転が達成され、これは2.24 kWhの電力貯蔵に相当する。SMBによる回転搊失は40 Wであった。ジーメンス社のP. Kummethらはドイツで開発されているラジアル型超電導軸受の性能について報告し、5 kNの載荷力で3600 rpmの回転を達成している。各国のフライホイールシステムの性能が実用レベルに達しつつあることが伺える。バルクの永久磁石応用に関して、Y. Yanagi(イムラ材研)らは、バルクを金属リングで十分補強した上で、応力をなるべく増やさず、バルクから離れた空間の発生磁場を大きくする着磁方法(応力制御着磁法)を開発した。この方法で着磁したバルクをマグネトロンスパッタ装置に組み込むことにより、従来装置の20倊の磁場を装置空間に発生させることができ、高真空での成膜が可能となる。そのため、高品質な膜の作製や、ターゲット基板間距離の拡大による細孔への均一な成膜が可能となったことを述べた。バルクの磁石応用においては、バルク体の着磁が上可欠である。実用面においては、装置の小型化に対する要求から、パルス磁場による着磁法の開発が重要となっている。本会議ではパルス着磁の際の発熱や着磁特性に関して、非常に多くのグループから報告がなされた。H. Fujishiro(岩手大)らはパルス着磁を行った時の試料の温度測定を系統的に行い、発熱や着磁のメカニズムを詳細に解析した。さらに、金属リングを試料にはめ込むことにより温度上昇が軽減され、着磁量を増加できることを述べた。K. Maehata (九州大)らはLHDに使用される20 kAクラスの電流リードについて報告した。これは長さ140 mm、幅20 mm、厚さ10 mmの大型Y系バルクから作製されており、Cu電極との良好な接触特性を確認している。H. Ikeda(筑波大)らは南極の昭和基地に設置された超電導重力計の装置概要と計測結果について報告した。これは、超電導コイルが作る磁場中で、超電導物質(Nb)をコーティングしたCu球をマイスナー効果により磁気浮上させ、重力の変化による球の位置変化を検出する装置であり、10月に起きた中越地震のデータも詳細に記録されていた。          

             

(超電導工学研究所 成木 紳也)

4. エレクトロニクス

今年のISSでの全発表件数約500件のうちFilms, Junctions and Electronic Devices(FD)に関する発表は107件で約2割を占めた。FDの発表のうち、口頭発表は30件、ポスター発表は77件であった。分野別では、プロセスに関するものが50件と最も多く、約半数を占めた。ついでディジタル回路応用(ミックスドシグナル回路も含む)が19件と多く、ほかにマイクロ波、SQUID、ディテクタ、ミキサ、量子ビット関連などの発表があった。

量子ビット関連では4件の発表がありすべて招待講演であった。超電導を用いた3種類の量子ビット素子、つまりジョセフソン接合[R. McDermott, 講演番号FD-1-INV]、磁束[K. Semba, FD-2-INV]、電荷[Y. Pashkin, FD-3-INV]を用いたそれぞれの素子について原理と最近の進展が紹介された。一方、V. Semenov [FD-4-INV]からは、超電導量子ビット回路の制御や読み出しのためのSFQ回路のさまざまなアイディアが提案され、SFQ回路が超電導量子ビット回路の周辺回路として期待されている様子が伺えた。

プロセス関連の発表は、高温超電導体(HTS)の薄膜や接合作製に関するものが約7割を占めた。それ以外で注目するものとして、MgB2に関する発表が12件と多く、SIS接合も作製されており[Z. Wang, FD-6-INV]、エレクトロニクスへの応用が期待される。Nbを用いた低温超電導(LTS)に関するものは4件と少なかったが、SFQ回路の大規模・高速化に向けた多層化・高Jc化や信頼性評価などが報告された[S. Nagasawa, FDP-59]、[K. Hinode, FDP-60]。

ディジタル回路応用はほとんどがLTSを用いたものであった。マイクロプロセッサ[M. Tanaka, FDP-65]やADコンバータ[F. Furuta, FDP-68他3件]などのアプリケーションでの進展のほかに、ラッチドライバ[H. Kojima, FDP-63]などの回路コンポネントや、論理合成の検討[A. Akimoto, FDP-64]などの設計方法論に関する発表もあった。A. Sekiya [FD-22]は、デルタ型モジュレータのオーバーフローの問題を回避できる相補型デルタモジュレータを提案した。この回路では量子化が3値になり分解能も向上できる。相補型モジュレータと1次のディジタルフィルタを集積したチップを設計・試作した。クロストークなどの問題は残るが、ノイズシェイピングを観測し、従来に比べてSNRを3 dB改善した。マルチビット化すれば73 dBのSNRも可能とのことである。

 HTSを用いたディジタル応用で注目するものはサンプラーシステムである[H. Suzuki, FD-26-INV]、[M. Maruyama, FDP-56]。設計・プロセス・実装の改善により、50 GHzの電圧波形の観測に成功した。設計では、エスケープ接合の増設とバイアスの強化により、安定動作とシャープなサンプリングパルスの発生を実現した。プロセスでは、グラウンドプレーンを回路の下に設けることによりインダクタンスを低減し、設計を容易にした。また、モートを従来のドット形状からライン形状に改善し、磁束トラップの影響を低減した。実装ではコネクタ配置を改善して搊失を低減した。これらのアイディアは他のSFQ回路にもヒントになる興味深いものであった。HTSの有望なアプリケーションとして今後のさらなる進展が期待される。

                

                     

(超電導工学研究所 橋本 義仁)