SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.6, December. 2004

10. CCA2004会議報告 (11月19~20日:大磯)〉


 - YBCO線材の長尺化が前進 -

 YBCO線材に関する国際会議International Workshop on Coated Conductors for Applications (CCA 2004)が11月19, 20日の2日間、神奈川県の大磯プリンスホテルで開催された。本会議は、日米欧で順次開催され、YBCO線材の各国の開発状況とその応用に関する成果を報告し、議論しあう会議である。なお、今回はISS2004(11月23~25日)のサテライトシンポジウムとして開催され、国際超電導産業技術開発センターの支援を受けた。参加者は約100吊で、当初予定の60~80人程度を考えると盛況であった。発表は、Oral 54件、Poster 25件でこれも前回、前々回のイタリア、米国での発表件数を上回った。日本での開発が盛んであること、また、韓国でも超電導プロジェクト(DAPAS)が始まり、その関係者の参加もあったことが影響したと思われる。前日の18日には、Super-GMの500 m高温超電導ケーブル試験場(電力中央研究所)見学のテクニカルツアーが催され、約50吊程度の参加者が集まった。材料研究者が多いため、一堂、その大規模な試験の様子に大いに感銘を受けた様子であった。興味深かったのは、韓国の研究者からこの設備をSuper-GMプロジェクト終了後、YBCOの試験に使えるのかとの質問があった。プロジェクト終了後は壊してしまうとのことで、他への使用は難しそうであったが、部外者から見ると何とももったいないと映ったようである。一行は、大規模なケーブル試験設備を見て、何年か後のYBCOケーブル試験に思いを馳せて、会議場の大磯プリンスホテルへ大型バスで向かった。

―Ic ×L (臨界電流×長さ)の急速な進展―

本会議では先ず、初日は、欧州、米国、韓国、日本における各国のYBCO線材開発プロジェクトに関して、各々Freyhardt, Peterson, Park, ShioharaからReview報告がなされた。続いて、技術項目ごとにRABiTS、IBAD、ISD、Characterizationのセッションが行われた。発表件数が多く、深夜22時まで発表があったが、参加者は前日の移動に疲れた様子も見せず、熱心な討議を続けた。2日目は、人工ピン、MOD、Ex-situ、CVDのセッションが行われた。

各国ともここ1*2年はYBCO線材の長尺化に特に力を入れており、その開発速度は急速である。たとえば、図1に示すように、半年おきにIc ×Lの上位3者を見ると、数値自体も上がっているが、そのメンバーも交代しながら記録が伸びている。結局、CCAの終了時点では、1位:フジクラ (日本) の13230 Am (105 m×126 A)、2位:SRL-NCCC (日本) の8335 Am (182 A×46 m)、3位:IGC Super-power (USA)の7000Am (70 A×100 m)で製法はいずれもIBAD-PLD法である。この中で、特にSRL-NCCCは新しいマルチプルームによるPLD法 (MPT-PLD: Multi-Plume & Multi-turn PLD)を提案して図のような高いIcの線材を得ている。 また、他の製法では短尺試料によるIcが大幅に向上している。順に、Los Alamos National Laboratory (LANL)の多層膜による1400 A (PLD)、ThevaのDyBCOによる486 A (Evaporation)、SRL-Tokyoの413 A (TFA-MOD)、IGC Super-powerの407 A at 75 K (CVD)、American Superconductor (AMSC)の380 A (TFA-MOD)である。長尺線材においても、これらのレベルまでのIcの向上が期待できる。特に、低コストな製法と言われるTFA-MOD法やCVD法は今後の大型設備の導入が順調にいけば有望であろう。  長尺化の進展が著しい一方、磁場中でのJc特性の向上も熱心に検討されている。人工ピンのセッションでは、BaZrO3、Y2O3、Y-211相などの微細な析出物をPLD法などによりYBCO膜に混入させることによる、大幅なJcの上昇が報告された。Oak Ridge National Laboratory (ORNL)、Air Force Research Laboratory、京都大学などから発表があり、磁場中のJcだけでなく、角度依存性なども改善していることが示された。また、吊大からは低温成長させたSmBCO中にSmとBaの濃度ゆらぎ領域が存在することが示され、Kansas大のWuからTFA-MODの微細ポアがピンニングに効く可能性を指摘した。

 写真に示すように、参加10カ国からの100吊を超える参加者は、オーラルセッション、ポスターセッション、また、深夜のランプセッションで活発な議論を行った。

―事業化の展望とYBCO線材の売り出し―

Towards Industrializationのセッションでは、AMSC、IGC-Super、THEVA、フジクラ、住友電工、昭和電線、中部電力などのメーカー各社が現状の総括と今後の展望について述べた。IGCはIBAD-MgOで10 m/hの高速成膜を達成していること、MOCVDで10.7 m/h (5 m長、Ic = 100A)、6.7 m/h (60 m長, Ic = 100~150A)を達成したことを発表した。AMSCは、4 cm幅の導体を年間10~20kmを製造できるpre-pilot plantが進行中であること、2007年には300 km/年のpilot plant装置の導入予定があることを披露した。住電はBi線材の実績からYBCOの製造速度も最低50 m/hは必要であること、現状10 m/hをさらに向上でき、かつ両面製造も可能であることを報告した。中電は、SMESからのコスト計算で$25 / kAmが必要であり、CVDでコストの大半を占める原料費が商業化に伴い現状の1/100になれば十分狙えるコストターゲットであることを紹介した。フジクラは、現状の500~1000 mを狙う IBAD装置の大型化計画を示し、また、最近のYBCOコイル試験結果からIcの異方性改善が将来のコイル応用に重要であることを示した。以上に対して、THEVAのPrusseitはベンチャー企業らしく、価格はあくまで需要と供給により決まるもので、現在のコストターゲット議論に疑問を呈していた。これは一面真理であるが、反面、現有のプロジェクトには必要な項目であるので、それぞれの立場により違うコメントが出てくるのは仕方がないと言えよう。ちなみに、ThevaはYBCO線材を売り出した模様である。

今回のCCAでは、線材の長さ、Icなど基本性能では日本の成果が目立っていたが、幅広テープ、スリッテイング、安定化銅の蒸着など、超電導層形成後の後工程では米国のグループが進んでいるようである。次回は、2005年10月に米国サンタフェで開催される。                 

          


図1 YBCO線材のIc ×L値の最近の進展


図2 活発なパネルデスカッション(人工ピン)   盛況だったポスターセッション

                   

                     

(超電導工学研究所 山田 穣)