SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.5, October. 2004

9.世界で初めてマウスの心磁図測定に成功 * 遺伝子操作疾患モデルマウスの機能マッピングに途を開く ー_早稲田大学、産業技術総合研究所_


 早稲田大学の電気・情報生命工学科は産業技術総合研究所と共同して、マウス用生体磁気計測装置を開発し、世界で始めてマウスの心磁図測定に成功した。開発した小動物用生体磁気計測装置の特徴は、小型のSQUID検出コイルと短いリフトオフを用いることで実現した、高空間分解能である。また、マウスの心磁、および脳磁計測に必用な、非磁性のマウス固定具、ガス麻酔導入器、保温ベッドを備えている。

マウスはすでに遺伝子配列がほぼ明らかになっているため、遺伝子操作によって多種の疾患モデルマウスが育成され、疾患の発現機構の解明をはじめ、予防法や新薬、治療法の研究・開発のために欠かせないものとなっている。これらの動物実験においては主として免疫染色化学や血管・心臓の形態変化観察等の侵襲的計測手法が用いられている。これらに比較して心磁図や脳磁図計測などの生体磁気計測は非侵襲・非接触計測であるため、経時変化を観察するには非常に有利である。また、マウスは極めて小さいため、電気生理学的に心機能や脳機能分布を観察するには現在の電極は大きすぎて電位計測は上可能である。マウス用生体磁気計測装置の開発により、マウスの心機能マッピングが初めて可能となった。

彼らは図1のような低温超伝導小型SQUIDを用いたマウス用生体磁気計測装置を開発し、これを用いて健常(Wild type)マウスの心磁図を計測した。SQUIDには外径1 mm、内径100 μmのワッシャー型の検出コイルが使用されている。SQUIDを真空層内に設置し、厚さ100 mのサファイアガラス窓の使用により、最短リフトオフは700 mに抑えられている。結果として空間分解能は約500 mとなっている。一回の液体ヘリウムチャージによって、約半日の計測が可能である。SQUID は1チャンネルで、マウスは非磁性走査台上に置かれ、SQUID の下を移動する。装置は電磁シールド室内に設置された磁気シールドボックス内に設置されている。

この装置を用いて月齢3ヶ月と9ヶ月の健常マウスの心磁図が測定された。9ヶ月齢マウスの心磁の強さは3ヶ月のものに比べて40%程度弱くなっている。月齢とともに心機能が衰えることが知られているが、測定結果はこの知見と一致している。図2に計測された両マウスのR波時刻における心磁図を示す。

装置を開発し心磁図を測定した早稲田大学では「今回の成果により、疾患モデルマウスの磁気計測による機能マッピングの端緒を開くことが出来た。今後、心疾患モデルマウスの磁気計測を行い、日本での患者数が最も多い心疾患の治療など医療への貢献をしたい《と抱負を語っている。また、ドイツのPTBのTh. Schurig博士は「マウスのクリアな心磁図マッピングの計測に成功したことは素晴らしく、ドイツにおける遺伝子操作・薬物誘発疾患モデル小動物の医療応用研究にも励みとなる。《とコメントしている。  

                               


図1 マウス用生体磁気計測装置


図2 月齢3ヶ月(左)と9ヶ月(右)マウスの心磁図 (10pT/line)

(花鳥風月)