SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.5, October. 2004

7.「TFA-MODプロセスの最近の進展 _超伝導工学研究所_


 TFA*MOD法は一般的なMOD法と同様に、高価な設備(高真空チャンバー、レーザー等の熱源等々)が上要である利点と共に、中間生成物に炭酸塩ではなく弗化物を経由することから低温処理が可能であり金属基板上での超電導層形成技術として適したプロセスである。また、この弗化物からの反応において水蒸気を取り込みフッ化水素を放出する所謂コンバージョン系の反応であることに起因して厚膜配向化が比較的容易であり、高特性が期待できる有望なプロセスでもある。

世界の動向としては、この方法を最初に開発し、線材化への着手が早かった米国が先行し、後発の日本が急追している状況にある。もちろん欧州でも幾つかの機関で研究を行ってはいるものの上記の二極に比べ、特性、長さの両面で大きく水を開けられている状態である。米国では、開発者であるMITとORNL及びAMSC社が共同で開発を進めてきており、最近ではAMSC社が精力的に長尺化に取り組んでいる。これまでの基本構造は、図1(a)に示す通り、配向基板上に複数の気相中間層を介して超電導層を形成するものである。一方、日本ではIBAD基板を用いた構造(図1(b))を基軸に開発が進められており、SRLと昭和電線がその開発主体となっている。以下には、日米の開発現状を項目別にまとめる。

高特性化に関しては、日本が一歩リードしており、先だっての2004ASCでSRLの報告では、マルチコート法により厚膜化し、焼成条件(水蒸気分圧、昇温速度、焼成時間等)の適正化と共に高配向基板の使用により413 Aを実現している(図2)。和泉氏によれば「厚みに対してまだ直線的にIcは向上しており、いくつかの課題はあるものの、さらに高いIcは期待できると考えている。《との事でした。米国では、AMSC社が詳細は明らかにしていないものの、短尺線材で330 AのIcを報告している。また、最近では磁場中での特性向上を目指して、ピン止め点導入法の開発を行っており(Ho,Y)2Cu2O5のナノドット微細分散に成功し、実際に磁場中特性向上を確認している。Rupich氏によれば「出発組成を変えるだけ。《とのコメントであったが、確認が必要であろう。

一方、長尺化に関しては、米国が先行しており、186 AのIcを持つ34 mの線材作製に成功している(図3)。最近の高特性長尺化の指標として用いられているIc x Lの積としては6324 Amである。この分野において、後発の日本では中々長さが出なかったものの、ASC2004では、SRLより119AのIcを持つ9 m線材の連続作製の報告があり、Ic x L積で1000 Amを越えるレベルに到達している。

さらに、高速化に関しては米国でAMSC社が幅広線材と切断技術の組み合わせにより高速化を図る計画を2004 Peer Reviewで示しており、2005年度には4 cm幅対応のパイロットプラントを完成させるとの事である。一方、日本ではやはりSRLがプロセス全体の中で律速ステップとなっている仮焼(低温処理)プロセスでの高速化の手段としてマルチコート&マルチターン装置を開発し、大幅な速度向上を果たしている。

上記の開発は、日米共に中間層に気相法を用いており、これがコスト高の原因として懸念材料となっている。現在、最も低コストが期待できるといわれているのは、超電導層だけではなく、中間層も含めて全ての層をMOD法により形成する技術開発で All-MOD法と呼ばれている。米国では、ORNLやSandia NLが中心となって開発が進められている。これまでは、基板の金属元素の拡散や表面粗さの制御の難しさによりJcで1 MA/cm2以上、Icで100 A以上がなかなか達成できない状態が続いていた。しかしながら、2004 Peer Reviewの報告では、LZOとCeO2の中間層厚さの適正化等により特性向上が図られ、短尺ながら初めてJc = 1.8 MA/cm2、Ic = 140 Aを得ており(図4)今後の展開が期待されている。これは、ORNLとAMSC社との共同研究の成果であり、開発担当のORNLのParans氏によれば「ひとつの目標値をクリアした事により、今後はAMSC社での長尺化への展開が進められるであろう。《との事であった。一方、日本では昭和電線がTFA*MOD法に上可欠なCeO2相にGdやNbを添加することによる新たなMOD中間層形成技術開発に取り組んでおり、最近、0.8 MA/cm2のJcを得ている。

TFA*MOD法による線材開発は上記の通り、日米二極を中心に激しい開発競争が繰り広げられておりその進展は目覚しいものがある。現状では、Ic x L積の指標で世界最高を持っているIBAD-PLD線材(13230 Am:フジクラ)の後塵をはいしているものの、その開発速度では猛追しているといってよく、潜在的なコストメリットを考えると最後に残り得る強力な候補として今後の展開が期待されるところである。     

                               


図1 基本構造(a) IBAD基板を用いた構造(b)


図2 面内配向度が異なる基板上に製膜したY123層のIcの膜厚依存性


図3 最近の米国における長尺線材の特性

参照:2004 DOE Peer Review AMSC 2G Scale-up資料より抜粋


図4  米国におけるAll-MOD線材の特性

参照:2004 DOE Peer Review AMSC 2G Scale-up資料より抜粋

(アントン)