SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.5, October. 2004

3. 100m級高特性Y系線材を開発、ソレノイド形式のコイル試験に成功    _フジクラ_


 フジクラは、高特性線材形成技術として期待できるIBAD法とPLD法を用いて、100 m全長のend-to-endで126 AのIc値を有するY123超電導線材の開発に成功した。Ic x L(長さ) の値は13,230 Amに達し、Y123系線材として初めて104 Amのオーダーに到達した。これは各種のモデル機器を試作するのに充分な大きさであり、同クラスの70 m長線材を用いて、Y123系線材として初めてソレノイド型マグネットの試作を行い、減圧窒素中66 Kにおいて、0.27 Tの中心磁界を発生した。これらの成果は、10月4日から8日にかけて米国フロリダ州ジャクソンビルで開催された2004th Applied Superconductivity Conference (ASC2004) にて発表され、Y123線材開発が新たな段階に入ったことを印象づけた。

フジクラは昨年100 m全長において38 AのIc値を達成しているが、今回は、CeO2キャップ層を用いた中間層の高配向化によりY123の面内配向性が = 3° 程度に向上したことに加え、全長にわたる膜の均一性を向上するノウハウを蓄積した結果特性を飛躍的に向上させることに成功した。図1に示すように、均一性を図る尺度であるI-V曲線のn値については、昨年の約17に対して今回は28を超えている。このように均一性が向上したことについて、フジクラ材料技術研究所主管部員の飯島康裕、 柿本一臣両氏は、reel-to-reel方式で連続形成する際に、限られた条件範囲内に収めた形で長時間安定合成するためのノウハウが向上してきたことを挙げている。高特性Y123膜を得るためにはa軸配向粒や界面生成物の発生を抑制するとともにas grownにおいて過度の酸素欠搊を防ぐ必要があり、膜が厚くなるに従いこれらをすべて両立する条件が狭く、また線長が長くなるに従い厳しい条件の安定性が求められる。さらに金属基板や中間層の表面状態の管理も長くなるに従い厳しくなる。図2に示すように、これらの蓄積により3年前に10m長の均一成膜の技術に到達し今回100m長において高特性を得る技術に到達した。IBAD法中間層については図3に示すように255 m長にわたって均一な2軸配向Gd2Zr2O7膜の成膜に成功している。これまで同社で達成したY123線材のIc x L の値は3年ごとにほぼ一桁向上してきているが、今後は現在の技術の延長で年度内に200 m長においてIc > 200Aを達成する目標で開発を進めているほか、2007年度までに500 mにする目標で新たなプレパイロットプラントを導入している。新規導入設備においては主に大面積成膜によって現在1~2 m/hのところを5~10 m/hの生産速度を確保するとともに、500 m長にわたってより安定した高品質膜の形成を行うための生産技術を開発する。

一方、フジクラはさらに70 m長で全長のIc値が約72 A (77 K, 0 T, 1 nV/cm)の線材を用いて、図4に示すようなY123線材を用いた初のソレノイド型コイルを作製した。テープ状の高温超電導線材をマグネットに構成する場合、機械的強度等を考慮してパンケーキ方式で製作されることが多いが、層間で接続部分が生じるほか構造上機械的・熱的に上利になるため、10 mm幅のY123線材を用いた場合においてソレノイド形式でコイルを形成できることを検証することを試みた。表1に示すような内径60 mmで22層構成のコイルを作製し、液体窒素中で励磁試験を行った結果、図5に示すように減圧窒素中66 Kにおいて、1 nV/cmのクライテリオンでIc = 114 Aを得、130 Aの通電下においてコイル中心磁場0.27 Tを得た。発生電圧のほとんどは内側から6層目において発生しているが、電磁界計算の結果この付近の端部では中心磁場の6割程度の大きさで約30度の傾斜磁場がかかり、線材の磁場角度依存性からコイル内において最も上利な条件となっていることから、ここでIcが決まっているとして図6に示すようなロードラインを引いてみると、短尺線材の磁場角度依存性から推定されるIc値とほぼ一致し、コイル巻き及び冷却励磁の過程で線材の劣化が生じていないことが確認された。今後は熱的・電気的安定性を考慮した導体構成を検討し、伝導冷却によるマグネット開発に繋げる。                           

                                 


図1 105 m長Y123線材の全長におけるI-V曲線


図2 フジクラにおいてこれまでに開発した線材のIc x L 値と目標値


図3 255 m長にわたって均一に形成されたIBAD法中間層


図4 IBAD法Y-123線材を用いて作製されたソレノイドコイル


表1 ソレイドコイルの緒元


図5 66KにおけるコイルのI-V曲線と中心磁界


図6 ソレノイドコイルのロードライン

(DB601)