SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.5, October. 2004

1. セルフシールド型800 MHz NMR用マグネットを開発!_神戸製鋼所 / JASTEC_


 神戸製鋼所とその関連会社であるジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(JASTEC)は、4.2Kで動作するセルフシールド型800MHz(18.8 T)高分解能NMR用マグネットを開発したと発表した。図1にその外観写真を、図2に800/54マグネットの漏れ磁場比較図を示す。NMRでは共鳴周波数は磁場に比例するため、一般にマグネットおよび装置を発生磁場に相当する水素の共鳴周波数(23.5 Tで1000 MHz)で呼称している。

現在は構造生物学の分野を中心に800 MHzや900 MHzクラスの上位機種が導入されるとともに、世界各国で強磁場NMR用マグネットの開発が進められている。神戸製鋼所は物質・材料研究機構強磁場研究センター(TML)と共同で2002年に920 MHzマグネットを、2004年に930 MHzマグネットを開発した。またJASTECは神戸製鋼所で開発された成果を活用して800 MHz以下のNMR用マグネットを年間約80台製造している。

超電導マグネットの中心磁場の強度化に伴い、マグネット周辺の漏れ磁場強度の増加および漏れ磁場領域の拡大が、大きな課題となっている。対策として800 MHz以下ではセルフシールド型が開発されてきた。しかしながら、今までの800 MHzのセルフシールド型マグネットは液体ヘリウムを真空ポンプで減圧して温度を2 Kに下げて運転するタイプであり、十分な停電対策が必要であると共に、2 K発生機構をクライオスタットに内蔵しているためクライオスタットの高さが高くなり設置室天井高さが課題であった。

神戸製鋼所ではTMLと共同でブロンズ中のスズ濃度を増加したブロンズ法Ti添加Nb3Sn線材を開発してきたが、ブロンズ中のスズの固溶限(15.8 wt.%)近辺までスズ濃度を増加させたブロンズを使用したTi添加Nb3Sn線材を採用して、コイル平均電流密度を増加することにより、今回4.2Kで動作するセルフシールド型 800MHz高分解能NMR用マグネットを開発した。主な仕様を表1に示す。マグネットはクエンチすることなく定格磁場を発生し、磁場安定度は、励磁10日後には10 Hz/hrを満足したことも特筆すべきことである。

現在、先端計測分析技術・機器開発の重要性が認識されているが、国産の技術によってNMRという重要な計測機器の上位機種が開発されたことは、極めて重要な意義を持つ。比較的導入が容易でありながら最高の磁場である800MHz高分解能NMR用マグネットに設置条件の緩和された低漏洩磁場型で4.2K動作のマグネットが開発されたことで、わが国のNMRスペクトロメータの開発とこれを活用したバイオテクノロジーの開発を一段と加速することになると期待される。

本開発を担当した神戸製鋼所電子技術研究所超電導研究室の濱田室長は「今回の成功は超電導線材から超電導マグネットまでを一貫して開発し製造している弊社のメリットを最大限に発揮した成果である。最高級の磁場を発生しながらユーザに負担をかけない製品を完成することができた。今後は中低磁場マグネットにおいても、さらに漏れ磁場領域を低減したマグネットを開発し、ユーザニーズに応えて行きたい。《と語った。                   

                               


図1 800/54SS 型マグネットの外観写真


図2  800/54マグネットの漏れ磁場比較図(0.5 mT 領域を示す概念図)


表1  800/54SS 型マグネットの主な仕様

(火の鳥)