SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.4, August. 2004

9.地上デジタルビジョン放送用の超伝導フィルターが開発される_NHK、東芝_


 これまで本誌でも報じてきたように、低搊失、急峻な周波数帯選択性を誇る高温超伝導フィルターは、米国において既に携帯電話の基地局に普及してきており(本誌56号)、日本では2 GHz程度の高周波数帯でのIMT-2000、PHSとの混信防止のために超伝導フィルターの開発が進められているところである(本誌60号)。一方、国内の一部地域で開始された地上デジタル放送のネットワークにおいては、中継放送所に専用回線または放送波中継で送信する方式があり、特に後者は周波数帯利用効率やコストの面で優れるが、自局の送信波と受信波のチャンネルが隣接する場合の干渉を低減する必要がある。地上デジタル放送の周波数は従来のUHF帯で470~770 MHzと上記の携帯電話用の周波数よりかなり低いが、米国の携帯電話通信で超伝導フィルターが実績を挙げている帯域に近い。このような背景のもと、NHKと東芝は共同で地上デジタル放送の中継所用のYBa2Cu3Oy薄膜を使った受信フィルターの開発を進めており、その動作が狙いどおりの優れたものであることが報告された。

詳細については放送技術誌、2004年6月号、101~105ページに記されているので興味をお持ちの方は参照されたい。この報告によれば、作製された超伝導フィルター装置は幅430 mm、奥行530 mm、高さ200 mmで重量40 kg以下の小型のもので、5 W級のパルス管冷凍機が搭載されている。これによってモジュール化された超伝導フィルター2個を含む真空容器が70 Kに冷却される仕組みになっており、YBa2Cu3Oy薄膜をフィルター回路の導体部分に使用した12個のマイクロストリップ線路共振器で構成されている。なお、誘電体基板はサファイアである。フィルターの仕様は18チャンネル(504.143±2.8 MHz)に合わせたものであるが、17, 19チャンネルといった隣接するチャンネルの周波数帯との間のガードバンド幅はわずか0.4 MHzしかなく、この間で30 dB以上信号を減衰させることが目標になっている。この目標値は自局の送信波の回りこみによる信号の質の低下を考慮して設定されたものである。今回試作されたフィルターはこれを十分に満たす急峻なスカート特性を示し、17, 19チャンネルに相当する妨害波信号の共存下においても、十分な干渉妨害の抑制効果が認められたとのことで、超伝導フィルターの地上波デジタル放送中継放送所での実用の有効性が実証されたと言ってよいであろう。

地上デジタル放送は1998年に英国で始まり、その後急速に先進各国で普及しているなか、日本では2011年にこれに完全移行する計画になっている。その際には、重要な通信パーツとしてこの超伝導フィルターが用いられる可能性が高まったようである。なお、今回の開発について、超伝導の通信応用に詳しい埼玉大学の小林禧夫教授は「今回の発表は、超伝導フィルターを組み込んだ通信システムが、移動体通信システム以外の分野でも有効であることを実証しており、その技術的成果は高く評価される。この結果、マルチメディア化の時代的要請の中でますますひっ迫する無線周波数帯を有効に活用するための必須の技術として、超伝導フィルターは今後多方面への応用が期待される。《とコメントしている。                        

                               

(JAP)