詳細については放送技術誌、2004年6月号、101~105ページに記されているので興味をお持ちの方は参照されたい。この報告によれば、作製された超伝導フィルター装置は幅430 mm、奥行530 mm、高さ200 mmで重量40 kg以下の小型のもので、5 W級のパルス管冷凍機が搭載されている。これによってモジュール化された超伝導フィルター2個を含む真空容器が70 Kに冷却される仕組みになっており、YBa2Cu3Oy薄膜をフィルター回路の導体部分に使用した12個のマイクロストリップ線路共振器で構成されている。なお、誘電体基板はサファイアである。フィルターの仕様は18チャンネル(504.143±2.8 MHz)に合わせたものであるが、17, 19チャンネルといった隣接するチャンネルの周波数帯との間のガードバンド幅はわずか0.4 MHzしかなく、この間で30 dB以上信号を減衰させることが目標になっている。この目標値は自局の送信波の回りこみによる信号の質の低下を考慮して設定されたものである。今回試作されたフィルターはこれを十分に満たす急峻なスカート特性を示し、17, 19チャンネルに相当する妨害波信号の共存下においても、十分な干渉妨害の抑制効果が認められたとのことで、超伝導フィルターの地上波デジタル放送中継放送所での実用の有効性が実証されたと言ってよいであろう。
地上デジタル放送は1998年に英国で始まり、その後急速に先進各国で普及しているなか、日本では2011年にこれに完全移行する計画になっている。その際には、重要な通信パーツとしてこの超伝導フィルターが用いられる可能性が高まったようである。なお、今回の開発について、超伝導の通信応用に詳しい埼玉大学の小林禧夫教授は「今回の発表は、超伝導フィルターを組み込んだ通信システムが、移動体通信システム以外の分野でも有効であることを実証しており、その技術的成果は高く評価される。この結果、マルチメディア化の時代的要請の中でますますひっ迫する無線周波数帯を有効に活用するための必須の技術として、超伝導フィルターは今後多方面への応用が期待される。《とコメントしている。
(JAP)