SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.4, August. 2004

5. リニア搭載パルス管冷凍機長時間安定動作!_JR東海、アイシン精機_


 東海旅客鉄道(JR東海)とアイシン精機は共同で超電導磁気浮上式リニアモーターカー(以下、リニア)車載の超電導磁石システム冷却用パルス管冷凍機を開発し、山梨実験線での実車搭載による適合性・耐久性評価試験を2003年6月より継続している。

 現在、山梨実験線での実走行で試験・評価されているリニア用の超電導磁石システムは液体ヘリウムで浸漬冷却され、その輻射シールドは液体窒素により冷却されている。それら寒剤の蒸発を抑え、液体として保持するために、クライオスタットに取り付けられた小型冷凍機による再凝縮が行われている。従来はその小型冷凍機として液体ヘリウム用(4.2 K)にはスターリング冷凍機またはGM冷凍機とジュールトムソンサイクルとの組み合わせが用いられ、液体窒素用(77 K)にはスターリング冷凍機またはGM冷凍機が採用されている。JR東海とアイシン精機はその液体窒素凝縮用(77 K)の冷凍機に従来の冷凍機より優位性・適合性の高いと期待されるパルス管冷凍機の車載化の検討、開発を進めてきた。  リニアへの車載冷凍機として求められる主な要件は次の点である。

① 屋外で用いられるため外気温、風雨など周囲環境の変化が厳しい中での耐環境性 ② 地上コイルとの相互作用による±10 Gにも上る大きな振動に対する耐振動性 ③ 強磁場下での冷凍機作動における冷凍能力確保 ④ 限られた車上電源容量内で所要冷凍量を生成する高効率性 ⑤ できるだけ短時間に確実に保守が実施できる保守容易性

 パルス管冷凍機の特徴は周知のように低温部分に可動部がなく、機械的な故障要因が少ないことに因る高信頼性と室温部品のみが消耗部品でありメンテナンスが容易で短時間に実施可能であることである。この特徴が上記の車載冷凍機への要件で優位性があり、さらに最近の同冷凍機技術の向上でその実現性が高まったことが、その開発着手へのきっかけとなった。

 今回の開発は前述のように超電導磁石システム用冷凍機のうち、液体窒素用(77 K)のみパルス管冷凍機に置き換え、その適合性評価を目的とした。従って、液体ヘリウム側冷凍機はGM冷凍機と組み合わされたジュールトムソン冷凍機となっている。即ち、冷凍機への高圧ヘリウムガスを供給する圧縮機はGM冷凍機とパルス管冷凍機に共用運転することになる(図1)。この条件はパルス管冷凍機に対しては、従来の液体窒素用GM冷凍機との互換性を要求するもので、動作周波数や圧力条件の最適値が異なる2つの異種冷凍機の並列稼働という比較的厳しい制約条件のなかで行われた。  開発されたパルス管冷凍機は1段のGM型(パルス管冷凍機には圧縮部の形式によりスターリング型とGM型とに分類される)で、基本的な仕様を表1に示す。

表1にあるように冷凍機の冷凍能力としては77 Kで冷凍出力150 W以上が要求されている目標仕様であるが、試作された冷凍機では液体窒素の凝縮能力として約170 Wが観測された。そのときの消費電力としては約5.5 kWである。また、電気ヒータによる熱負荷評価で運転条件をこの冷凍機特性に合わせて最適調整した場合は冷凍出力として195 Wが4.2 kWの消費電力で得られている。この冷凍能力(効率)は従来のパルス管冷凍機と比較しても高いものである。 上記の高効率性能はパルス管内のガス位相制御方法の最適化とパルス管高温端の放熱構造の工夫による熱搊失の低減により得られ、またパルス管および蓄冷器の低温端の断熱的な耐振支持により耐振動性を向上し、バルブモータの磁気遮蔽により磁場中駆動を可能にしたとのことである。

 開発されたパルス管冷凍機は2003年6月に山梨実験線に車載され、その実走行での適合性、耐久性試験が開始された。今年(2004年)7月現在までで、累積稼働時間は8,500時間を越え、引き続き、耐久性の確認を行っている。また、メンテナンス作業も実車上で行われ、保守性についても引き続き課題を抽出し、よりよい冷凍機にしていくとしている。                                  

                               


図1 リニア車載冷凍システム模式図 (パルス管冷凍機搭載状態)


表1 車載パルス管冷凍機の仕様

(パルスの達人)