SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.4, August. 2004

2. 陽子ビーム収束用 超流動・超伝導四極電磁石18台の製作、試験完了_高エネルギー加速器研究機構、東芝_


 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東芝は、欧州合同素粒子原子核研究機構(CERN)が中心となって進めるラージハドロンコライダー(LHC)計画で陽子ビーム衝突実験のための磁気レンズ用に18台の超伝導四極電磁石を製作し,その性能評価試験を完了した。この超伝導電磁石は、1 m当たりに換算すると215 Tという大きな磁気勾配を発生させ、陽子ビームを磁気レンズの効果により絞り込んで衝突させるために使用される。また電磁石は、冷却性に優れた超流動液体ヘリウムにより約-271 ℃ (1.9 K)に冷却され、ニオブチタン超伝導線材では性能限界となる9 T以上の最高磁場を発生させることができる。

LHC計画は、国際協力で進められており欧州を中心として米国、日本等が参加する巨大科学実験プロジェクトであり、陽子(水素の原子核)を各々7兆電子ボルトに加速して正面衝突させる。この加速器は、円周27 kmにおよぶ世界最高エネルギーの加速器計画であり、2007年に完成の予定である。LHC加速器による実験によってビッグバン初期宇宙に迫る素粒子現象を探ることができ、物質の質量起源を説明するヒッグス粒子の発見が期待されている。  東芝は、KEKにおける基本開発を引継ぐ形で1999年から実機大のプロトタイプ開発を経て、2001年から実機の製作を開始し、本年3月までに実機18台の製作を完了した。またKEKでは、電磁石の試験を1.9 Kの超流動液体ヘリウムを発生可能なテストスタンドを用いて実施し、すべての性能確認を成功裡に完了した。

この超伝導四極電磁石は、全長7 m、内径70 mmの口径内に四極磁場を発生する。表1に詳細な電磁石諸元、図1, 2に電磁石外観と断面写真を示す。全長6.6 mの超伝導鞍形コイルが中心孔を取巻く様に配置され、非磁性構造部材を介して上下2分割の鉄ヨークを一体化し、効率良くコイルの電磁力を支える構造となっている。陽子ビームを正確に衝突させるためには高精度の四極磁場を発生することが必要で、主要部品を10 m単位の製作精度でコントロールすることにより、均一度が1万分の1という磁場勾配精度を達成している。

製作、全数運転定格以上の230 T/mまで試験した電磁石は、米国のフェルミ国立研究所に送付され、断熱真空容器に組込まれ、スイス・ジュネーブ近郊にあるLHC加速器の4箇所の衝突点における陽子ビーム収束用として据付けられる。 またLHC計画への日本の協力としてKEKと東芝で開発・製作された粒子検出器に用いられる超電導ソレノイド電磁石は、すでに現地での据付が開始されている。

 東芝 京浜事業所の高野廣久氏は「LHCの粒子衝突点に据付けられる高精度な超流動冷却四極超伝導電磁石を世界に先駆けて実現した意義は大きい。これもKEKの指導と高精度な主要部品を提供して戴いた材料・部品メーカーの努力のお陰である《とコメントしている。

                               


表1 LHC-超伝導四極電磁石諸元表


図1 超伝導4極電磁石断面図


図2 超伝導四極電磁石

(宇宙起源)