SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.4, August. 2004

10.〈特別企画・温故知新〉


 スーパーコム70号によせて

事務局より執筆のご依頼をいただきましたが、スーパーコム誌も発刊以来12年を迎えようとしております。その間を振り返りますと、話題の中心であった銅酸化物系超伝導体について基礎研究面で大きい進展が得られるとともに、応用面でも着実な進歩が得られました。わが国内外で数百m長のBi系超伝導送電ケーブルの試験が成功裡に進められ、次世代Y系超伝導線材の開発も100 m超の高性能テープが作製されております。一方、金属系超伝導線材の利用では、リニア山梨実験線やSuper-GM発電機の運転が成功し、超高磁界NMR分析装置が実現し、核融合や加速器分野等における大型応用も進みました。新しいMgB2超伝導体についても基礎研究から、線材化、薄膜化へと研究が進んでおります。更に冷凍機直冷型超伝導マグネットが実用化されて超伝導の利用が身近となり、磁気科学の新分野も生まれました。このように10年単位で見ていただけると際立った進歩が得られるのが超伝導の特徴です。これらの発展の気運にスーパーコム誌も大きい貢献をされました。

超伝導はエネルギー、情報、バイオ・医療、輸送等の先端技術分野で縁の下の力持ちの大切な役割を果たします。したがって超伝導分野では、地味で継続的な研究開発がもとめられます。新物質探索や材料プロセス等の基盤研究では、無から有は生じないので、氷山の一角ではありませんが、地道な研究によってのみ顕著な機会が訪れます。手がかりをたどって進むうちに、予期しない明るい道が開かれることがあります。応用面でも継続的な技術の積重ねが前述のような進歩が得られた源になっております。そして応用のニーズが材料の進歩をもたらし、たとえば大型機器で求められる性能を達成するために、線材の製造ラインが整備され、品質管理技術が進歩しました。その成果は、他の応用分野における超伝導のレベルアップに大きい波及効果をもたらしました。

このように超伝導は新物質の探索から始まり、材料科学と応用関連技術の研究開発を経て実用につながる総合的な科学技術分野を形成しております。個人的なことで恐縮ですが、私が超伝導の興味を持ったのも、低温に関心が有ったわけではなく、物理、材料、電気・電子等の融合分野にあって、新しい応用につながる点にありました。しかし総合分野であるために、はじめに触れたように、実用の域に達するまでに長期間を要するものと思われます。今後の超伝導の研究開発では、基盤研究面でのチャレンジによるブレークスルーと、応用面での着実なレベルアップの両面で成果が生まれるよう、バランスよく一層強力に推進することが望まれます。そしてその原動力となるのは、研究者と技術者の純粋な情熱と熱意でしょう。超伝導の間口も大きく広がりましたが、長い目で見ると本格的な応用への道はまだ半ばであり、いわば青年期にあると感じます。今後も引続いて内外で大きい進展が予想されますので、スーパーコムの誌面もさらに賑やかになることを期待しております。

                               

(東海大学・工学部 太刀川 恭治)

「21世紀は超伝導の世紀《

23 KのTcを0.1度上げるのに苦労していた時代に、予期せずLa2-xBaxCuO4というTcが30 Kの物質が発見された(1986年)。その後は矢継ぎ早に、窒素の沸点77 Kを超えるYBa2Cu3O7-x、Bi、Tl、Hg等の銅酸化物が発見され、常温超伝導体発見も夢ではないという風潮が漂いはじめ、それまで私が経験したことのない超伝導フィーバーが起こった。超伝導という言葉もしばしばメディアで報じられるようになり、常用語として定着していった。しかし、Tc ~ 135 Kを持つ水銀銅酸化物の発見以降、Tcの上昇が止まり、高温超伝導の開発は低迷している。最近、中性子散乱や放射光(主としてSPring-8)を使った種々の実験で高温超伝導体中のd-波的超伝導ギャップの大きい方向で電子(ホール)*格子相互作用が強いことが分り、高温超伝導においてもクーパー対を作るのに格子振動の寄与の大きいことが明らかになりつつある。高温超伝導の発現機構の解明もあと一歩というところにきており、実現する日も近いと思われる。これを基にしてより高いTcを持つ高温超伝導体が発見されることを強く信じている。

 一方で、既存の高温超伝導体を用いて、エネルギー問題、環境問題等の実用に結びつく開発研究を促進することも重要である。応用に関しては超電導コミュニケーションに数多くの記事がすでに掲載されている。当面考えられるのは、超伝導線材と超伝導デバイスの開発であろう。Bi系超伝導線材やREBa2Cu3O8-xを使ったcoated conductorの開発の進歩は著しく、既に多くのところで実用化しつつある。例えば、送電線、MRI、リニア・モーターカー等である。また、強磁場を作って、高分解能NMRでタンパク質等の構造解析に用いられるようになるであろう。SQUIDやフィルター等の開発も勢力的に行われている。横須賀にある地球シミュレータは世界最速の素晴しいスーパーコンピュータであるが、大量の電力を消費する。日本を始め、世界でもこのクラス以上のコンピュータを作る計画が進んでいるが、単一磁束量子(SFQ)等の超伝導を使って消費電力の少ない超高速のスーパーコンピュータができることを切望する。このように、将来のエネルギーや高度情報化社会の問題を考えるとき、超伝導体が半導体と協力し、また、半導体に代わって高度社会に貢献する日も近いと思われる。

 現在我々が行っている、高温超伝導によるテラヘルツ波(f = 1012 /sec)の話をさせていただこう。テラヘルツ波は生物医学、情報科学等で重要であるにもかかわらず、強度の強い連続発振源が無いため、まだ実用化には至っていない。そこで我々は、高温超伝導体が固有ジョセフソン接合の性質を持っていることを利用して発振させることを考えた。この接合中の励起状態であるジョセフソン・プラズマの振動数はテラヘルツであり、超伝導ギャップ中に現れ、ランダウ減衰が弱いので励起されたプラズマは電磁波を放射して減衰する。外部磁場をかけ、ジョセフソン磁束を導入し、これに電流を流すと磁束は高速度で動き電圧を発生する。この電圧はジョセフソン効果により振動電流を誘起し、テラヘルツの振動数を持つジョセフソン・プラズマを励起する。高温超伝導体そのものがcavityとなって、外部電流によって挿入されたエネルギーは、ジョセフソン・プラズマの定常波としてその中に蓄えられ、その一部がテラヘルツ電磁波として外部へ放射される。Bi2Sr2CaCu2O8+xのパラメーターを用いて外部へ放射されるテラヘルツ波強度が3~20 W/cm2にも達することが、世界最速の地球シミュレータにより初めて求められた。テラヘルツの周波数は外部電流により変わるので可変である。

 高温超伝導は、キャリヤー濃度を増加することにより絶縁体から金属になる狭間の状態で、電子の電荷、スピンや格子振動の間に非常に大きな相関が発生し起こる現象である。高温超伝導の発現機構を解明することは、固体物理にとっても重大で、興味の尽きない問題である。また、高温超伝導では秩序パラメーターの位相が上思議な振る舞いをし、色々と奇異な電磁現象を引き起こす。今までに想像できないような有用な現象が起こることも夢ではない。超伝導研究に対する国家並びに企業の益々の支援を切にお願いしたい。

                               

(物質材料研究機構 立木 昌)

時代に適した研究開発への意識改革を!

超電導科学ならびに低温科学の応用に関する研究・開発は、全体的にみれば、最近とみに沈滞してきている。この分野の研究・開発費がプロジェクトの分も含めて一時期より大幅に減少してきており、研究・開発人口も、特に産業界で急速に減少しつつある事実がこのことを裏書きしている。

 このような事態に陥った原因は、はっきりしている。半導体技術、バイオ技術、情報技術など20世紀中に発展を遂げた技術は、みな30年程度で大規模な産業化に成功した。しかし、1970年代から急速に発達し始めた超電導・低温技術は、1980年代に高温超電導体の発見があったにも拘らず、30年経っても大幅な産業化に成功せず、それに、1990年代の上況とそれに続く現代の経済低成長が追い討ちをかけているからである。

 しかしながら、環境に優しい超電導・低温技術が、期待される発達を遂げれば、21世紀におけるキー・テクノロジーの一つとして社会に大きな貢献をするであろうという事情は変わっていない。さらに、わが国は超電導・低温技術に関する国際標準化の面で幹事国を務めていて、今後この分野の産業化が大きく進展すれば、現在果たしつつあるこの役割がわが国の優位性を築く上で有力な武器の一つになり得る可能性をも秘めている。ただ、超電導・低温技術の基礎・基盤研究に従前にも増した研究費やマンパワーが注ぎ込まれることは、もはや期待できない。私たちは、この事実を真摯に受け止めて、夢の実現に向けての今後の方策を探るべき時期にきている。

 私たちは、今まで、超電導材料が内在する素晴らしい魅力に惹かれ、それを活かす立場から応用の可能性を探ってきた。確かに超電導でないと実現できない機能は貴重であり、その方面の研究・開発は今後も精力的に行うべきであろう。しかし、他技術と競合する製品の場合、研究・開発する側がユーザーの立場に立って考える姿勢が徹底していなかったように思われる。傾きかけた企業の再建に成功した例をみるまでもなく、今後は研究・開発戦略を出口の面から見直すべきあろう。ユーザーの立場から見ても本当に魅力的な応用の可能性に対しては、研究・開発費もマンパワーもなんとかなっていくのではないだろうか。勿論、そういう方向での検討は既にやりつくしたという感想を抱いている方々も多いかもしれない。しかし、結果として何も得るところがなかったとすれば、それは発想転換や意識改革に失敗したからだと他分野の人たちから言われても仕方がない。

私たちの低温工学協会では、最近、このような危機感に基づいて、研究・開発の活性化に向けての再検討を積極的に始めようという機運が生じてきている。

今までのように応用ありきで性能向上・コスト低減に努力するだけではなく、付加価値の増大をも図って多機能化を目指すべきだとか、医療や磁気分離のように生活に密着した民生応用をも他技術との連携を図りつつさらに開拓すべきだとか、いろいろな意見があり得るだろう。いずれにせよ、分野自身がある意味で危機的状況に陥っている現状では、まずは、分野全体の叡智を結集して、総合的・組織的に今後の戦略を再検討すべきであろう。 永らく続いた上況もぼつぼつ底をついたのではないかと言われ始めている。超電導・低温技術の研究・開発がこの明るい見込み情勢を利用して再び上昇気流に乗れるかどうかは、 私たちが新しい意識改革を成し遂げて、今後の経済低成長時代に適した研究・開発方策を立て、それを実行できるかどうかにかかっている。超電導・低温技術の灯が消えることなく、今後益々明るく輝き続けることを期待したい。  

                               

(低温工学協会長 山藤 馨)

いざ! 見切り発車を

3歳のお嬢さんにヴァレーを踊ってもらって、このお嬢さんのは本物ではないなんて云ったら笑われるに違いない。でも、将来、ヴァレリーナにしたいなら、ぎごちなくともその頃から踊らせるのは将来につながるかもしれない。

 高温超電導材料を、人間の何歳に当てはめるかは、きっと人によってまちまちなのだろうが、でも、まともな数え方なら誕生以来20歳。ちょっとは見込みがあるように見えるようになった。それなら、ちょっと踊ってみてはいかが。

 ということで応用超電導の世界での見切り発車をしませんか。

 というとお前は最新の「低温工学《誌を見てないな、と云われそう。巻頭言にJR東海総合技術本部長関さんの「高温超電導磁石の開発に成功して《がある。ある時点で使える素材を使って、その素材のぎりぎりの特性を利用して機器・装置の試作、開発をする、いや、毎会計年度ごとにステップを進ませる見切り発車試作開発をやりましょう、ということです。今、設計技術、製造技術は大抵の試作・開発に応えてくれる。

超電導磁石を動かすなんて、なんてバカなこと考えるのだ、という時代から、その超電導磁石が時速500キロ超でぶっ飛ぶ今まで、開発の初期、超電導磁石のコンセプトが固まるまでは、日進月歩の、悪く言うならいつまでたっても、これでどうぞと言ってくれない材料屋との一年毎のPLAN、DO and SEEの繰り返しだった。見切り発車の連鎖だったと思っている。

 成功の声が挙がる高温超電導磁石だが、幅広い応用超電導の展開にとっての見切り発車の促進剤になってほしい。

 なんて書くと転向したか、なんて云われそうだから、最後に本音を付け加えると、高温超電導体が酸化物であるということとその臨界温度が高い、ということで拭い切れない疑問があることを云って置きたい。どうせ、毒舌期待の原稿依頼だもの………

 まず、これまで超電導材料が金属・金属系であることを基礎にして超電導磁石を使った応用超電導技術が展開してきた。そこに使われている超電導線が超電導材料であるためには、高温超電導材料屋さんにとっては相当に俗っぽい手が加わらなくてはならない。その手というのが高温超電導体にはなじまないと思うのだ。さて、その手というのは簡単なものではないのでここには書かない。興味があるなら「低温工学《誌の先月号のわたしの「随想《を見てほしい。別刷りがあるのでご希望の向きには差し上げるので申し越し願いたい。

 二つめ。物理的状態というものは温度が高くなるほど揺らぎが大きくなる、と理解している。高温超伝導体があいまいな臨界状態を持つのは、最初からわかりきっていたこと。結局は高温超伝導性を中途半端高温超伝導状態で使うことになっている。それよりもいい加減さそのものを利用することを考えたほうが面白いのではないかな。ノーベル賞をもらえるかもね。                    

                               

 (前湘南工科大学 荻原宏康)