LPEによるガーネット膜育成では、まず、秤量した原料酸化物を混合し、白金坩堝内で時間をかけて昇温する。ガーネット成分が完全に融解するよう飽和温度より100℃以上高い温度で撹拌、静置する。その後、融液を成膜温度に降温した後、GGG単結晶基板を水平に保ちながら融液の表面近傍の位置で予備加熱して融液に浸す。基板を回転させながら数分保持して所望の膜厚に育成させる。膜厚は成長時間に依存し、通常、数mmである。この後、融液から基板を引き上げる際には、液離したあと表面の融液を高速回転で振り切り、低速回転に戻してゆっくり炉から取出す。高速回転による融剤の除去は完全ではないので、希硝酸液などによる洗浄を行っている。
通常、融剤に溶けたガーネット成分は過飽和な状態で結晶成長するが、過冷却度(飽和温度Tsと成長温度Tgの差)のとり方で、(Bi,Lu)3(Fe,Ga)5O12膜は複雑な磁気的、結晶学的特性を示す。これは、Lu3+よりイオン半径の大きいBi3+の置換量によるもので、膜の格子定数afもそれに従い変化し、GGG基板の格子定数asとの差で、垂直磁化膜や面内磁化膜が形成される。そのうえ、この膜は実際の超電導材料の評価の際、冷却される。低温X線回折測定により、両格子定数は温度の低下とともに小さくなり、この膜の格子定数差も変化する。室温で面内磁化のものが低温で垂直磁化になりやすい膜もある。従って、実際に使用する温度領域を常に考慮に入れながら成膜する必要がある。その他にも、結晶表面組織や欠陥分布は、成膜時の回転数や成膜時間に依存し、GGG基板に存在する欠陥にも影響される。最後に、作製した(Bi,Lu)3(Fe,Ga)5O12膜にミラーをつけ、YBCO/IBAD超電導線材の磁束侵入の様子を観測した結果を図2に示す。
盛岡超電導技術応用研究所の腰塚直己所長代理は、「面内磁化をもつBi置換鉄ガーネット膜を自前で作れるようになった意義は大きく、この膜は超電導体だけでなく磁気の関係する記録媒体やデバイスの検査への応用等、様々な活用が期待できるであろう。《と述べている。
図2 40KにおけるYBCO/IBAD線材の磁束密度分布の観察結果
(はやて)