SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.3, June. 2004

6. 国内初、超電導材料評価用高感度磁気光学薄膜の開発
_超電導工学研究所_


 超電導線材やバルク体の磁束侵入の機構や臨界電流密度の空間的分布ならびに粒界特性、磁束ピンニング機構の研究に磁気光学イメージ法(Magneto-Optical Imaging : MOI)が重要な役割を果たしている。1 mm以下の空間分解能でリアルタイムに磁束密度分布を視覚化できるからである。しかし、磁場センサーとして用いる磁気光学薄膜の作製は容易ではなく、その入手が世界的に困難となっている。通常、このセンサーとしてはファラデー回転係数が大きいBi置換鉄ガーネット膜を使用するが、これは液相エピタキシャル成長(Liquid Phase Epitaxy : LPE)法で成膜する。このたび、(財)国際超電導産業技術研究センター・超電導工学研究所・盛岡超電導技術応用研究所の飯田和昌、川前憲夫両主任研究員らは吊古屋工業大学と共同で超電導体の評価に使用できる(Bi,Lu)3(Fe,Ga)5O12膜の育成に成功した(図1)。これは、NEDO超電導応用基盤技術研究開発プロジェクトの一環としてなされた研究の成果である。ファラデー回転を大きくするためにLuをBiで置換し、飽和磁化をコントロールするためにFeをGaで置換した(Bi,Lu)3(Fe,Ga)5O12を直径1インチのGGG(Gd3Ga5O12)単結晶基板上に成膜することに成功したものである。検光子を通した反射光の強度が磁場の大きさとともに増大する磁化容易軸方向が面内の磁気光学薄膜(面内磁化膜)である。

   LPEによるガーネット膜育成では、まず、秤量した原料酸化物を混合し、白金坩堝内で時間をかけて昇温する。ガーネット成分が完全に融解するよう飽和温度より100℃以上高い温度で撹拌、静置する。その後、融液を成膜温度に降温した後、GGG単結晶基板を水平に保ちながら融液の表面近傍の位置で予備加熱して融液に浸す。基板を回転させながら数分保持して所望の膜厚に育成させる。膜厚は成長時間に依存し、通常、数mmである。この後、融液から基板を引き上げる際には、液離したあと表面の融液を高速回転で振り切り、低速回転に戻してゆっくり炉から取出す。高速回転による融剤の除去は完全ではないので、希硝酸液などによる洗浄を行っている。

 通常、融剤に溶けたガーネット成分は過飽和な状態で結晶成長するが、過冷却度(飽和温度Tsと成長温度Tgの差)のとり方で、(Bi,Lu)3(Fe,Ga)5O12膜は複雑な磁気的、結晶学的特性を示す。これは、Lu3+よりイオン半径の大きいBi3+の置換量によるもので、膜の格子定数afもそれに従い変化し、GGG基板の格子定数asとの差で、垂直磁化膜や面内磁化膜が形成される。そのうえ、この膜は実際の超電導材料の評価の際、冷却される。低温X線回折測定により、両格子定数は温度の低下とともに小さくなり、この膜の格子定数差も変化する。室温で面内磁化のものが低温で垂直磁化になりやすい膜もある。従って、実際に使用する温度領域を常に考慮に入れながら成膜する必要がある。その他にも、結晶表面組織や欠陥分布は、成膜時の回転数や成膜時間に依存し、GGG基板に存在する欠陥にも影響される。最後に、作製した(Bi,Lu)3(Fe,Ga)5O12膜にミラーをつけ、YBCO/IBAD超電導線材の磁束侵入の様子を観測した結果を図2に示す。

  盛岡超電導技術応用研究所の腰塚直己所長代理は、「面内磁化をもつBi置換鉄ガーネット膜を自前で作れるようになった意義は大きく、この膜は超電導体だけでなく磁気の関係する記録媒体やデバイスの検査への応用等、様々な活用が期待できるであろう。《と述べている。 

 


図1 (Bi,Lu)3(Fe,Ga)5O12膜


図2 40KにおけるYBCO/IBAD線材の磁束密度分布の観察結果

(はやて)