SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.3, June. 2004

5. 930 MHz 高分解能NMRマグネットが稼働開始
_NIMS/TML・神戸製鋼_


 独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)強磁場研究センター(TML)では、株式会社神戸製鋼所と共同で、世界最高磁場21.9 T(水素の共鳴周波数930 MHz)で動作する高分解能NMRマグネットを開発したと発表した。図1にその外観写真を示す。  NMRスペクトロメータは発生磁場の増加に伴い感度と分解能が向上するため、一般に発生磁場に相当する水素の共鳴周波数(磁場に正比例し23.5 Tで1000 MHz)で装置を呼称している。現在は構造生物学の分野を中心に800~900 MHzの上位機種が導入され、世界各国で強磁場NMRマグネットの開発が進められている。TMLでは、神戸製鋼所と共同で2001年に世界で初めて21.6 Tで動作する高分解能NMRマグネットを開発した。このマグネットは、理化学研究所と日本電子との共同研究の結果、世界最高の920 MHz高分解能NMRスペクトロメータとして稼働し、未知のタンパク質試料に関する立体構造の決定などに活用されている。 今回開発した930 MHz高分解能NMRマグネットは、先に開発した920 MHzマグネットと一部の改良点を除いて同じ設計が採用されている。920 MHzマグネットでは最も磁場が強くなる領域の内層コイル用線材に、ブロンズ中のスズ濃度を15 wt.%まで増加したブロンズ法Ti添加Nb3Sn線材が使用されていたが、今回は最内層のコイルについて、ブロンズ中のスズの固溶限(15.8 wt.%)を超えた16 wt.%スズ濃度のブロンズを使用したTi添加Nb3Sn線材が採用されている。スズ濃度の増加に伴って臨界電流密度が向上しており、同じ電流値をより少ない断面積で通電することが可能となった。このため、920 MHzマグネットと同じ運転電流で、930 MHzに対応する磁場21.9 Tを発生できる。

今回開発したマグネットは、NIMS桜地区に新しく建設された第二NMR実験棟に設置され、高分解能NMRマグネットの記録を更新する930.7 MHz (発生磁場21.9 T)で永久電流モードの運転を本年3月24日から開始した。発生磁場21.9 Tは、室温の試料空間(本マグネットの室温ボア直径は54 mm)を持つ超伝導マグネットとしても世界最高の値であり、超伝導マグネットで最も代表的な組み合わせであるNbTiとNb3Sn線材を使用したマグネットでも最高の値である。また、マグネットは工場試験を行わず、NIMSで最初に励磁されたが、全くクエンチすることなく930 MHzに到達しており、これも特筆すべき点である。

 現在、先端計測分析技術・機器開発の重要性が認識されているが、国産の技術によってNMRという重要な計測機器の最上位機種が開発されたことは、極めて重要な意義を持つ。先に開発された920 MHz 高分解能NMRスペクトロメータは、その優れた性能から分子科学研究所にも設置され、その他にも導入について国内外から問い合わせがきているとのことで、さらに上位の930 MHz NMRマグネットが開発されたことは、わが国のNMRスペクトロメータの開発を一段と加速することに なると期待される。

 NIMS/TMLの木吉司副センター長は、「NIMS桜地区には930 MHz及び920 MHzという世界第1位、第2位の最上位機種を含めて5台のNMRマグネットが設置され、国内有数のNMR施設となっている。これらは共同利用施設として既に一部開放されており、今後は、タンパク質の構造・機能解析だけでなく固体触媒など材料研究への適用を積極的に行って行きたいと考えている。また、今回の16 wt.%スズ濃度Nb3Sn線材はその潜在性能をすべて引き出しているとは言えず、あと半年時間があれば940 MHzないし950 MHzも可能であったと思っている。今後もNMRマグネットの発生磁場を向上するために、超伝導線材の開発を行って行きたい。《と語っている。

 


図1 930 MHz高分解能NMRマグネット

(ピカチュウのパパ)