SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.3, June. 2004

4. 液体窒素温度、5 Tの強磁場下で約20万A/cm2の臨界電流密度を達成  *JSTプロジェクト“人工ピンの導入”
_京大、吊大、山形大、東大、電中研_


 REBa2Cu3Oy(RE123; REは希土類元素)超伝導薄膜は高い超伝導転移温度(Tc)と上可逆磁場(Birr)のため、超伝導線材応用に向けた研究が盛んに行われている。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の研究プロジェクトとして京都大学工学研究科材料工学専攻、吊古屋大学工学研究科エネルギー理工学専攻、山形大学工学部電気電子工学科、東京大学工学系研究科超伝導工学専攻、電力中央研究所電力技術研究所の学産連携グループにより進められている「ナノ組織制御による高臨界電流超伝導材料の開発《(研究代表者:松本要、京都大学工学研究科)の研究において、同グループは、従来は困難であった液体窒素温度、5 Tの強磁場中で20万A/cm2の実用的な臨界電流密度(Jc)を持つ希土類系高温超伝導膜の開発に成功したと発表した (平成16年3月12、 13日付け日経新聞、中日新聞、東京新聞、その他)。

 一般に高温超伝導体は結晶異方性が強く、特に結晶のc軸方向に平行に磁場を印加した場合に超伝導が最も弱くなる。その中でRE123高温超伝導体は、c軸に磁場が印加された場合でも、77Kにおいて7Tを越える高いBirrを有しており、次世代の超伝導材料として注目を集めてきている。しかし現状の高温超伝導体は磁束量子の振る舞いにより、磁場中のJcが制限されてしまうという問題があった。高温超伝導体の広範な応用のためには磁場中Jcを増大させることが上可欠であるが、そのためには磁束量子のピン止めが重要な鍵を握っており、磁束量子の動きを止めるための効果的なピン止め点を高温超伝導体中に導入することが長年の重要課題となっていた。

本成果はこの問題を解決するブレークスルー技術につながるものである。すなわち高温超伝導薄膜中に自然に導入される従来のピン止め点と異なり、工学的にデザインされたピン止め点を導入する人工ピン技術(APC: Artificial Pinning Center)によって、超伝導薄膜の大幅なJc特性の改善を行おうというものである。人工ピンは次元性を考慮して、図1に示すように、1次元ピンや2次元ピン、そして3次元ピンに分類される。人工ピンの基礎研究の中から、現在、様々な興味深い結果が得られつつあるとのことであるが、今回の成果はこの手法の一部によるものである。

同グループにおいて開発されているRE123膜は、パルスレーザ蒸着法(PLD法)を用いてMgO基板上に堆積されたもので、化学組成はSm1Ba2Cu3Oy(Sm123)、GdBa2Cu3Oy(Gd123)、ErBa2Cu3OyやEuBa2Cu3Oy、および(Yb、Nd)Ba2Cu3Oyなどの混晶系RE123膜などである。図2に77Kで測定したSm123膜、Gd123膜のJc-B測定による磁場中超伝導特性(B // c軸)の結果、さらに比較として4.2Kで測定した実用NbTi線材の結果を示す。B(印加磁場) = 0 T、測定温度77 Kで比較した場合、Sm123膜、Gd123膜は一般的に報告されているY123膜の結果と同様に数MA/cm2の値を示す。しかしSm123、Gd123ともBirrは10Tに達しており、その磁場中Jc特性はY123と大きく異なる。B = 5 T@77 Kで比較した場合、従来報告されているY123薄膜の値(数万 A/cm2)に比べ大幅に向上していることが明らかである。Sm123膜はJc ~1.7×105 A/cm2(77 K、 5 T、 B // c)、Gd-123膜はJc~2.0×105 A/cm2 (77 K、 5 T、 B // c)と高い値を示しており、これらの値は4.2KのNbTi線材(Jc~3.0×105 A/cm2 @4.2K、 5T)に匹敵する値である。

Sm123膜の断面TEMによれば、微細に層状成長したCu2O層や欠陥なども観察されているとのことであるが、特にc軸配向Sm123(Sm1+xBa2-xCu3Oy)層中のSm/Ba置換量xが約百ナノメートル間隔に0~0.14の範囲に揺らいでいることが確認されている。高温超伝導バルク材料の研究からこの範囲のSm/Ba置換量によってTc が40~90 Kと大きく変化することが知られているが、同様にRE123膜中で、Sm/Ba組成比の変化により超伝導層内部にナノサイズの非超伝導層が混在していると考えられている。 STEM(走査型電子顕微鏡)観察からも、このSm/Ba組成比が化学量論組成に比べ大きい領域(Smリッチ層)が円状(50nm程度)に分散していることも確認されており、3次元的な人工ピン止め点が導入されていると考えられる。

研究代表者の松本助教授は、「我々が開発中の人工ピン技術はナノテクノロジーと薄膜技術によって高温超伝導体のJcを飛躍的に向上させようというもので、これ以外にも1次元、2次元ピンの導入実験が進行中である。これらの人工ピン技術は、現在、日米欧や中国、韓国で盛んに研究開発が進んでいるイットリウム系高温超伝導線材の作製プロセスにも十分適用可能なもので、 2010年前後から活発化すると予想される高温超伝導体の電力・産業応用への展開に資するものと期待している。《とコメントしている。          


図1 各種人工エピンの概念図


図2 開発したSm123、 Gd123膜のJc-B特性

(科家)