SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.3, June. 2004

2. 世界最高性能の永久電流モード高温超電導マグネットを開発
_東海旅客鉄道、東芝_


 JR東海は超電導リニアモーターカーのコストダウンや信頼性向上を図るため、平成11年度から高温超電導材料を用いたリニア用超電導磁石の開発を進めているが、このたび平成13年度よりISTEC((財)国際超電導産業技術研究センタ*)を通じNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)からJR東海が受託した超電導応用基盤技術研究体の研究において、極めて良好な磁場減衰性能を有する世界最高性能の高温超電導マグネットの開発に成功した。なお本マグネットは、(株)東芝によって製作された。

 平成11年度に開発を開始するに当たっては、起磁力、耐振性能、冷凍機消費電力量等は当然のこととして、取り扱い性を含めて現行の山梨実験線用NbTi超電導磁石と同一以上の性能・機能を確保しつつ、高温超電導のメリットを活かした磁石製作・運転コストダウンを図ることをコンセプトとし、性能的に最も適用可能性が高いと考えられるBi2223銀シース線材を用いた伝導冷却方式永久電流モード高温超電導磁石の開発が最終的なターゲットとなった。最初に小型コイルの試作を行い、Bi2223銀シース線材のレーストラック形状での高占積率巻線技術の開発や応力印加時の疲労特性評価等、実機大コイル製作のための技術確立が行われた。この中で、永久電流モードが実現できるレベルの低電流減衰を達成するためには、高温超電導線材のn値を初めとする超電導特性が、10-9V/cmオーダーの低電界領域まで保証されていることが必要であることが明らかになった。また併せてYBCO薄膜を用いた高温超電導磁石用熱スイッチ式永久電流スイッチの開発、伝導冷却用高冷凍能力GMパルス管冷凍機の開発、熱侵入を減らし冷凍機負荷を軽減するための着脱式電流リードの開発等が実施された。

 一方平成13年度からの受託研究においては、山梨実験線用超電導磁石と同一の起磁力(750kA)、外形寸法を有する永久電流モードマグネット(コイル数は山梨用4個にたいし1個)を製作し、冷却性能、通電性能(磁場減衰性能)、耐振性能、電磁加振特性等を評価し、コイル中心磁場1.5T以上、磁場減衰10% / day以下を実現することが目標となった。コイルの製作は、Bi2223銀シース線材を4枚バンドルしたものをレーストラック形状にパンケーキ巻線し、それを12枚積層、パンケーキ間接続した後、ステンレス製のコイルケースに組み込んで行う。製作の全ての過程において各コイルのI*V特性を測定し、10-9V/cmオーダ*ま で特性劣化が生じていないことの確認が実施された。完成したコイルには永久電流スイッチを取り付けてクライオスタットに収紊し、2段GMパルス管伝導冷却冷凍機及び着脱式電流リードを組み込んで1コイルマグネットとしている(図1)。評価試験においては本マグネットを冷凍機で20K以下に冷却して定格の532Aを通電し、起磁力750kA、コイル中心磁場1.5T以上が得られることを確認した。永久電流モード時の磁場減衰は約0.44% / dayであり、目標を大きく上回る優れた性能が得られた(図2)。定格通電状態で行った電磁加振試験(リニア走 行時相当の電磁外乱をマグネットに印加する試験)においても過大な振動は発生せず、また磁場減衰に対する影響も見られなかった。さらに、定格通電状態のコイル単体に対してアクチュエータを用いた機械加振を行い、±15 gまでの耐振性能を確認している。すなわち適切な構造設計がなされれば、高温超電導材料が苛酷な条件下での使用にも耐える可能性が検証されたことになる。今後JR東海では山梨実験線走行用高温超電導磁石の設計検討、及び低コスト化のための開発を進めていくこととしている。

上記記事について、JR東海リニア開発本部の寺井元昭氏は「今回リニアなどの用途において充分に永久電流モードとして使用できる低磁場減衰マグネットが実現したことで、高温超電導応用分野を大きく拡げていく可能性が示されたと言える。今回の成功の大きな理由の一つは、高Ic、 Jeで、かつ10-9 V/cmまでの高n値を保証した線材が供給されたことである。研究開発や実用化のプロセスにおいて必要となる線材が、必要な量だけ、かつ安価に供給される環境が今後整えば、今回示されたように高温超電導の応用開発が一気に進んでいくことが期待できると言えよう。《とコメントしている。                      

                                     


図1 1コイルマグネット構成


図2 定格通電時における磁場減衰特性

(のぞみは叶う)