SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.3, June. 2004

11. 〈 第3回新磁気科学調査研究会報告 〉


 低温工学協会2003年度第3回新磁気科学調査研究会は、2004年4月7日東京大学本郷キャンパスにて開催された。講師として山登正文先生 (東京都立大学)をお招きし、「強磁場を利用した新規高分子光学素子開発を目指して《というタイトルでご講演頂いた。

講演内容は大きく分けて1)結晶性高分子磁場配向メカニズム、2)磁気トルクを利用した高分子プロセシング、3)磁気力を利用した高分子プロセシングであった。

1)の結晶性高分子磁場配向メカニズムに関しては、溶融した高分子試料が結晶化する際の核密度(核となりうる構造の密度)と結晶化速度・配向度との関連が論じられた。溶融温度が高い場合には、核となる構造が残っていないためそもそも結晶化しづらく、結晶化した場合でも少数の核から巨大な球晶が等方的に成長するため、配向を観測することは難しい。しかし溶融温度が低い場合には、溶融前に存在した結晶に由来する構造が多数存在していると考えられ(メルトメモリー効果)、その構造が結晶核となり結晶化が促進される。またこれらの多数の核から同時に結晶成長するため、強大な球晶の生成が阻害され、結果的に磁場による配向が観測されると考えられる。

講演では、これらのメカニズムと共に、IPSを用いた実際の実験で、溶融温度が低いほど結晶化が促進され、配向度が高いことが確かめられたことが紹介された。また、磁場の印加についても、結晶核が溶融試料内で配向可能な、粘性の低い段階での印加のみが有効であるとする結果が発表された。

2)の磁気トルクを利用した高分子プロセシングでは、上述のように結晶化時の核密度を高め、磁場印加によりこれらの核を磁気トルクで配向させることで、配向した高分子試料を作成できることが例示された。また、溶融された試料中に結晶核となりうる核剤を入れ、核剤を磁場配向させることでも磁場配向が観測されたことなどが示された。磁場配向の場合は、磁場の透過性のよさから、厚みのある材料の内部まで均一に配向させることが可能であり、今後の新規なデバイスの開発等が期待できると考えられる。

3)の磁気力を利用した高分子プロセシングでは、二通りの実験が紹介された。まず、これまで直接作ることの出来なかったf ~ 10 mm程度の高分子球を磁気アルキメデス浮揚状態で作製可能であることが示された。また、鉄とアルミなど磁性の異なる物質を組み合わせることで磁場内にポテンシャルを作り出し、数十mm程度の微粒子がポテンシャルの形状に沿ってトラップされること(微粒子のパターン化)が示された。ポテンシャルの形状によっては微粒子を一列に並べることなども可能であることが示され、今後、磁場を利用したナノテクノロジーへの発展も期待される。

高分子材料の溶融凝固プロセスは金属や合金のケースとは状況が大きく異なり、融点や結晶の概念が異なる。構造が複雑なために未解明の点も多く、なかなか制御が難しいように感じられた。しかし、それだけに、まだまだ興味深い現象が見出される余地もあり、今後の展開に期待が持たれる。

なお、新磁気科学調査研究会は2003年度を持って活動を終了するが、2004年度からは「新規磁場効果に関する調査研究会《として発展的に継続してゆくという。

                                                                    

(東京大学:斉藤 有紀)