SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.3, June. 2004

10.MgB2ジョセフソントンネル接合の実現?!        
_情報通信研究機構関西先端研究センター_


 2001年に発見された新しい超伝導物質二硼化マグネシュウム(MgB2)は、金属、化合物系超伝導体として最も高い超伝導転移温度を示していること、また常伝導抵抗率(数mWcm)や磁場侵入長(100 nm程度)が小さく、コヒーレンス長(数nm)が比較的長いことから、超伝導エレクトロニクス材料として大いに期待されている。しかし、MgとBの融点(Mg: 650℃、B: 2550℃)が大きく異なることとMgが非常に酸化しやすいことから、金属、化合物系超伝導のような薄膜の低温合成や積層薄膜の作成などには困難であり、酸化物高温超伝導と同様にMgB2積層薄膜とトンネル接合の実現の成否は、MgB2の超伝導エレクトロニクス応用の運命を左右していると言っても過言ではない。  

  情報通信研究機構関西先端研究センター超伝導エレクトロニクスグループは、2年前にMgB2 as-grown薄膜の低温合成とMgB2/AlN/NbNトンネル接合の試作に成功した。最近、MgB2薄膜の作製条件及び接合作製プロセスの改善によりトンネル接合の高品質化を実現した。 

  作成したジョセフソン接合は、単結晶サファイア基板上に下部電極にas-grown成長したMgB2薄膜、トンネルバリアに窒化アルミ(AlN)、上部電極に窒化ニオブ(NbN)を用いたMgB2/AlN/NbNトンネル接合である。接合の作製プロセスは、MgB2/AlN/NbN三層薄膜を同一真空中に成膜し、フォットリソグラフィと反応性イオンエッチング、ECRドライエッチング、リフトオフなどを用いた。MgB2薄膜を成膜したときの基板温度は、トンネル接合の作製を念頭に置いて200~ 300℃範囲内に設定され、成膜圧力やレートなどの成膜条件に併せて最適化を行った。薄膜の組成比は、Mg(DCスパッタ)とB(RFスパッタ)の放電電力を独立にコントロールすることによって制御されている。図1にはサファイア(0001)基板上で作成したMgB2/AlN/NbNトンネル接合のI - V特性とdI/dV - V特性の一例を示す。接合のサイズは20 μm × 20 μmである。電圧がゼロと4mVのところでそれぞれ明瞭な超伝導電流 と準粒子トンネリング電流が観測されている。三層連続成膜プロセスで作成したMgB2トンネル接合として、このようなシャープなギャップ構造を示したI - V特性は初めての例である。図2は臨界電流の外部磁場依存性である。図に示すように理想的なフランホーファパターンが得られており、良好なジョセフソントンネリングを示した。特に、AlNバリアの厚さが僅か1 nm程度にもかかわらず、接合がリーク電流の小さいI - V特性と理想的なフランホーファパターンを示したことは、表面平坦性のよいMgB2下部電極と均一なトンネル電流分布が得られていることを示唆している。MgB2が発見されて短い間にこのようなトンネル接合が作成されたことは、今後の次のステップでall- MgB2トンネル接合の実現も大いに期待されうる。                   

        MgB2は、現在の超伝導エレクトロニクス材料の主役Nbと将来に期待されている酸化物高温超伝導材料の中間に位置しており、Nbのギャップ周波数の限界と高温超伝導の積層化、集積化困難の壁を乗り越えるポテンシャルを有している。これからのMgB2薄膜、トンネル接合などの研究開発の進展は、MgB2の超伝導エレクトロニクス応用への鍵を握ることだけではなく、材料の物性解明などにも寄与しうるものと期待されている。          

  同グループリーダーの王鎮氏は「MgB2が発見されて3年弱の短い間に、このようなきれいなトンネル接合を作製できたことはall-MgB2トンネル接合の実現に大きな期待が持たされますが、いかに上部電極の初期成長膜の高品質化を実現できるかが成否の鍵を握っています。《と語っている。           

          


図1 MgB2/AlN/NbN トンネル接合のI -V, dI/dV - V特性


図2 MgB2/AlN/NbN トンネル接合の臨界電流*磁場依存

(W.S.)