SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.2, April. 2004

6. 第3高調波誘導法による超電導バルク・厚膜試料の臨界電流密度の非破壊測定
_産総研_


 大面積超電導膜における臨界電流密度 Jc を非破壊的に測定する方法として、膜の直上に小コイルを置いて交流磁界を印加し、それによって誘導される電圧の第3高調波成分を測定する方法が用いられている [1]。独立行政法人産業技術総合研究所の電力エネルギー研究部門では、これまで、この誘導法の測定原理を明確にするとともに、Jc の周波数依存性を調べることによって電流電圧特性を測定した [2, 3]。さらに、この方法を拡張してバルク超電導体や厚膜の Jc の非破壊測定に応用できることを理論的に示すとともに、溶融法 YBCO 試料や Bi-2223 厚膜試料について実験を行って、測定法として確立した。

 この方法では、超電導厚膜(またはバルク)試料の直上に直径が数ミリメートル径の小コイルを、軸を試料面に垂直に置き、交流電流 I0cosωt を流して交流磁界を印加する(図1)。コイル両端には、コイル電流自身と超電導体に流れる誘導シールド電流によって交流電圧が誘起されるが、超電導体の非線形応答のため、基本波の他に第3高調波電圧 V3cos3ωt も現れる。馬渡康徳主任研究員による理論計算から、振幅 V3 は I0 の2乗に比例し、Jc に反比例することが分かった(比例定数はコイルの形状と巻数、配置から計算される)[4]。図2に、Bi-2223 厚膜試料(膜厚 d = 0.36 mm)での測定例を示す。コイル電流が小さい範囲で V3 は I0 の2乗に比例し、理論を裏付ける実験結果を得たため、その比例係数から Jc を求めることができた。なお、この V3 は超電導体中への交流磁界の侵入により生じ、表面から磁界侵入距離 λ0 ≈ 0.1 mm までの部分の Jc (surface Jc) を測定することができる(図1の第1機構)。コイル電流 I0 をさらに増加させると、ある閾値電流 Ith において突然V3 の増加率が減少し、プラトーを経た後また増加に 転じる。これは、Ith において交流磁界が厚膜の裏面を突き抜けたためであり、臨界電流密度と膜厚の積 Jcd が Ith にほぼ比例する。この第2の機構によっても Jc を評価することができるが、この Jc は厚膜試料の厚さ全体での平均値 (total Jc) となる。誘導法で得られたこれらの Jc 値の妥当性を検証するため、試料振動型磁化測定装置(VSM)を用いて直流磁化を測定し、得られた Jcm と比較した(図2挿入図)。誘導法で得られた Jc は、磁化法で測定した Jcm より少し高い値を示したが、これは、誘導法の Jc 測定時の電界が磁化法と比べてはるかに高いことが原因であり、その点を考慮すると、両者の一致は満足すべきものである。実験を担当した山崎裕文グループリーダーは、「今回開発した方法により、超電導薄膜のみならずバルク・厚膜でも、大きな超電導体の局所的な臨界電流密度を非破壊で簡単に測定することができ、コイルを走査すれば、これらの特性の分布を評価することも可能である。今後、製品化を図り、普及を目指したい。《と言っている。

<参考文献> [1] J. H. Claassen, M. E. Reeves & R. J. Soulen, Jr., Rev. Sci. Instrum. 62, 996 (1991). [2] Y. Mawatari, H. Yamasaki & Y. Nakagawa, Appl. Phys. Lett. 81, 2424 (2002). [3] H. Yamasaki, Y. Mawatari & Y. Nakagawa, Appl. Phys. Lett.82, 3275 (2003). [4] Y. Mawatari, H. Yamasaki & Y. Nakagawa, Appl. Phys. Lett. 83, 3972 (2003).


図1 第3高調波誘導法による超電導バルク・厚膜試料のJc測定の模式図


図2. Bi-2223 厚膜での測定例。(挿入図)直流磁界中で測定した誘導法 Jc(実線)と磁化法Jc(破線)、輸送法 Jc(ゼロ磁界)の比較

(塞翁が羊)