昨秋までの報告では1m程度の短尺サンプルの評価結果に留まっており、このプロセスが長尺線材に適用可能かどうかが注目されていたが、住友電工では長尺線材へ適用可能な大型設備の開発も並行して進めてきており、この程設備が完成して、1km級長尺線材の試作結果もまとまりつつある。結果の詳細については、第70回2004年度春季低温工学・超電導学会を始めとする各種学会等で報告されるが、短尺特性とほぼ同様の性能が長尺線材でも得られつつあり、その概要は以下の通りである。
①通常の焼結プロセスでしばしば認められる欠陥の発生とその欠陥による局部的なIcの劣化を加圧焼結法では抑止可能で、長尺線材を歩留りよく製造することが可能となった。
②Icは通常の焼結プロセスに比べ、約30%向上することが長尺線材でも確認できた。銀比1.5程度の低銀比構造の線材では110Aを越えるIc (77K、0T)が得られている。
③通常焼結プロセスで作製された線材では、液体窒素に浸漬後、昇温条件によってはballooningと呼ばれる膨れが発生しIcが劣化する現象がしばしば発生するが、フィラメントが高密度なため液体窒素が入り込む余地が無く、ballooning特性が大幅に改善される。またballooningを防止するための特別なコーティングなどは上要である。
④機械的特性も、短尺線材と同様に50%以上改善され、低銀比線材でもIc低下の始まる室温引張応力が100MPaを越える。このため用途にもよるが高強度化のためのステンレス等の複合は上要となる。
①、②は線材の長尺化やコスト低減に直接効果があることを示しており、③、④は実用特性に優れることを示している。更に、超電導ケーブルや変圧器など液体窒素冷却下での使用が想定されている用途では③のballooningに強いことは大きなメリットであり、④の機械的特性の向上についても、ステンレス等と複合する場合のJeの低下やステンレスで発生する付加的な交流搊失の増大などの課題を克朊できる大きなメリットと考えることができる。
住友電工では米国エネルギー省のAlbanyケーブルプロジェクトに参画しているが、このプロジェクトで製作する高温超電導ケーブルにも本プロセスを適用した線材を使用する予定である。一方、本プロセスの開発によりユーザーからの各種要求に対応できる体制が整ってきたことから、外販についても今後積極的に対応してゆく予定である。
「住友電工では長年培ってきた粉末冶金、ファインセラミックス技術や、金属の複合加工技術等をベースに、今回長尺線材にも適用可能な加圧焼結プロセスを開発した。本プロセスを適用した線材はこれまで銀被覆Bi系超電導線材が抱えていたいくつかの課題を解決できており、ケーブルを初めとする各種高温超電導応用製品の本格的な実用化促進が期待される。《と住友電工超電導開発室の林和彦プロジェクトリーダーはコメントしている。
図2 焼結後のフィラメントのSEM像 加圧焼結線材
(HTC)