SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.2, April. 2004

12. 近刊書 『高温超伝導体(上)*物質と物理*』


 過去17年間の高温超伝導体研究の根幹を見通す待望の教科書) 応用物理学会超伝導分科会スクールテキスト、2004年3月発行、本文255頁、定価3,000円(超伝導分科会会員及び学生2,500円)

 「彼(B.T,Matthias)が繰り返し強調していたとされる言葉は次のように伝わっている。“新しい超伝導体を探すのに、どうして他の人が調べているところ(物質群)ばかりを追いかけるのか?それでは、失くしてしまった家の鍵を街灯の点いた明るい道でのみ歩き回って探すことに等しいのではないか?”(Matthias)《(本書の第2章「高温超伝導体の夜明け《(岸尾光二)からの抜粋)。

「余談になりますが、著者が大学院生だった1986年の10月のある日のこと、北澤宏一先生から入手されたばかりのBednortzとMuller(IBMチューリッヒ研究所)の論文のコピーを見せられ、意見を求められたことがありました。高温超伝導の発端であり、ノーベル賞受賞につながった大変偉大な論文だったのですが、著者の一読した限りの印象では、観測された超伝導らしき現象はさておき、物質の化学式がBaxLa5-xCu5O5(3-y)となっていたことから、この論文の質を疑ったものでした。《本書の第4章「高温超伝導体の化学《(下山淳一)から抜粋。

さて、本題。高温超伝導体が発見されて17年が経過する。高温超伝導発見当初から研究に携わった我々の世代にとっては「17年はあっと言う間《であったが、まわりに目を向けると、発見当初、小・中学生だった世代が、現在、研究の最前線で活躍している現実がある。さらに、膨大な数の論文・印刷物の氾濫がこの分野の混沌(chaos)を増幅している。17年の間に生い茂った葉や伸びた小枝に遮られて、若手研究者が高温超伝導体研究の太い幹を見通すことが至難となっている。「巨像《の全貌を眺めたいのに、どんな本・論文から読み始めれば良いのかさえわからないと途方に暮れる人も多いのではないだろうか。本書はそのような人へのガイドブックである。上巻は物質と物理を題材とした以下の15章で、高温超伝導体発見当初からこの分野に携わった15人の執筆者の力作である。なお、「高温超伝導体(下)*材料と応用*《も企画中である。本書をHigh-Tcフィーバーの思い出とともに読む世代、多くの方々に読んでいただき、超伝導分野の再活性につながれば、と願うしだいである。

物質編 1. 高温超伝導体発見以前(戸叶一正) 2. 高温超伝導体の夜明け(岸尾光二) 3. 高温超伝導物質(安達成司) 4. 高温超伝導体の化学(下山淳一) 5. 高温超伝導体セラミックス試料作製(山本文子) 6. 高温超伝導体単結晶育成(田中功) 7. 高温超伝導体薄膜作製(内藤方夫)

物理編 8. 高温超伝導の舞台 CuO2面(野原実) 9. 高温超伝導体の電気的・磁気的・熱的性質(寺崎一郎) 10. 高温超伝導体の電子状態:光学特性(田島節子) 11. 高温超伝導体の電子状態:光電子分光(山本秀樹) 12. 酸化物高温超伝導体のフォノンtアイソトープ効果(新井正敏) 13. 高温超伝導体の超伝導状態*臨界磁場・磁場侵入長・準粒子伝気伝導など*(前田京剛) 14. 高温超伝導体の超伝導状態*トンネルとSTM:発生機構解明への直接的手段(津田惟雄) 15. 高温超伝導体のジョセフソン効果と超伝導状態(鈴木実)

(東京農工大学:内藤方夫)