SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.2, April. 2004

11. 書評 『超伝導の夢*超伝導研究の最前線とその未来』


 社団法人未踏科学技術協会・超伝導科学技術研究会編  株式会社 アドスリー、2003年発行

 本書は、未踏科学技術協会の超伝導科学技術研究会(会長、太刀川恭治 東海大学教授)が2002年6月22日(東京大学)に開催したシンポジウムの内容を、同協会の木村茂行氏がご尽力されて単行本として纏められたものである。シンポジウムの趣旨から、超伝導の今と未来を一般の方が理解しやすいように工夫した内容になっている。最近、「超伝導はどうなっているの、本当に役に立つの?《という質問を受けることが多いが、そのような方には是非、読んで戴きたい本である。また専門書ではないが、超伝導の当事者にとっても切実感をもって一気に読める内容である。

全体は「超伝導の未来《、「超伝導の今《、「室温超伝導は出現するか!?《の3つの章に分けられている。

 第1章「超伝導の未来《では最初に北澤宏一氏(科技団:現、科学技術振興機構)が自然エネルギー(風力、太陽光等)を有効に活用するために、世界的な超伝導ケーブルネットワークの構築を提案している。豊富な情報収集能力を活かして、エネルギー問題、環境問題を議論し、さらには交通、情報ネットワークにも言及していて説得力のある内容になっている。また、山崎芳男氏(早大)からは超伝導スピーカーのお世話になっているが、そのエネルギー変換効率は1%以下という低さであるという。高温超伝導の応用というのは、このように思わぬところから展開されてくるかも知れない。

第2章「超伝導の今《では、線材開発と物質開発の日本のエースが3人登場する。まず、線材開発では日本発の高温超伝導物質ビスマス系の線材開発で常に世界をリードしてきた住友電工の林和彦氏と、今世界的に厳しい競争が繰り広げられているイットリウム系 Coated Conductor研究開発の発端となったイオンビームアシスト(IBAD)の飯島康裕氏(フジクラ)である。二人とも淡々とした記述であるが、日本の産業界の貢献度が如何に高かったかがよく理解できる。三人目が、21世紀に入ってMgB2という最大の発見をした永松純氏(青山学院大)である。Nature誌に掲載されたこの大発見が永松氏の卒業論文であったというのは有吊なエピソードであるが、論文には書けない裏話も知ることが出来る。MgB2に限らず、新超伝導物質発見に至る話はいつでもエキサイティングで面白い。

第3章「室温超伝導は出現するか!?《は、鯉沼秀臣氏(東工大)が司会、内田慎一氏(東京大学)、小林速男氏(分子研)、谷垣勝己氏(大阪市大)、野原 実(東京大学)がパネラーとなったパネルディスカッションの集約である。この種の議論はとかく保守的(特に日本では)になりがちであるが、内容的には自由な討論が行われていて大変面白い。銅酸化物で局部的に室温超伝導が実現している可能性(内田)、新タイプの分子性超伝導体の探索(小林)、クラスター系での室温超伝導の可能性(谷垣)、BCSの壁の見直し(野原)等々、材料屋にとっては元気の出る話である。当然、何人かのパネラーがベル研のFET超伝導体に触れることになったが、その顛末については新ためて野原氏が閑話休題として本の中でも触れている。

なお上記3章以外に、「はじめに《の項で太刀川恭治氏が超伝導研究開発の現状と展望を、また「おわりに《で木村茂行氏が超伝導への新しい研究者の参入を呼びかけている。分かりやすい解説書と専門書の間の橋渡しとして、多くの若い研究者に是非読んで戴きたい。

(東北大金研:戸叶 一正)