SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.2, April. 2004

1. 推進用アキシャルギャップ型高温超電導モータの回転に成功*船舶の推進や風力発電に期待
_北野精機、東京海洋大学、福井大学_


 高温超電導モータは、現用のモータに比べて静かで小型・軽量・高トルクであり、しかも部分負荷で高い効率に加えて、従来の超電導機器のように液体ヘリウム温度までの冷却を必要としない推進用電動機として期待を集めており、次世代の低環境負荷型エコシップをはじめ広く船舶の推進や発電設備、産業用を目的として欧米で活発に開発が進められている。

北野精機(株)、東京海洋大学海洋工学部の和泉充教授および福井大学工学部杉本英彦教授は、高温超電導バルク磁石を液体窒素で冷却、渦巻き型電機子コイルで着磁する技術を高温超電導回転機に応用して、機器設計、冷却機構の研究を行ってきたが、このほど界磁磁石を液体窒素によって冷却する実証同期モデル(図1)の回転試験に成功した。モータはブラシレスのアキシャルギャップ型であり、バルク体を液体窒素に浸漬しないで効率よく冷却することが可能であるばかりか、固定電機子と回転界磁子を交互に積層させて径方向のサイズを大きくすることなく高出力化が可能な設計となっている。この成功は、バルク磁石を回転界磁磁石とする高温超電導モータの実機への適合性を高めたばかりか船舶のポッド推進器や、風力発電用の発電機への適合化にはずみをもたらす。

高温超電導バルク磁石(図2)は、(財)国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所で開発され、すでに数社で商品化されている。この磁石は、RE-Ba-Cu-O高温超電導体(REはGd,Sm,Yなどの希土類元素)の中に、非超電導相を分散して溶融成長させた高温超電導体のかたまり(バルク)であり、高性能永久磁石よりも大きな磁場を捕捉(着磁)させることができる。液体窒素で冷却した場合は最大3テスラであるが、さらに低温に冷却することによって捕捉磁場は上昇する。

北野雅裕社長らは、平成14年度東京都中小企業振興基金共同開発助成事業「小型舶用強磁界回転界磁子冷却技術の開発《(提携先:和泉充 東京海洋大学海洋工学部教授)として、福井大学杉本英彦教授の協力を得てGd系バルク高温超電導体を回転機に実装したままで、効率よく1テスラを超える高い磁界を着磁させる研究を行った。

この成果にもとづき環境にやさしい電気推進船の推進性能向上に資する高温超電導モータを目的として要素技術開発を重ねてきた。電気推進船は原動機で発電した電力を用いてモータでプロペラ(スクリュー)を回転させる。現在、欧米ではクルーズ船やタンカーなどで急速に普及しており、省エネルギー、NOx、SOx、CO2、微粒子などの有害排出物の低減に威力を発揮している。モータは効率が悪いが低コストの誘導機やメンテナンスが難しい永久磁石同期機であり、また20MW級では200トンに達するため、この小型化が望まれている。欧米では高温超電導線材コイルを界磁磁石とする大型モータの開発が進行している。これによれば200トンが69トン程度、体格も3分の1程度に小さくなる。また、鉄心をつかわないので軽く、効率も高い。また静かなモータであることも特徴である。欧米のモータでは液体ネオンやヘリウムを使うが、それでも4.2Kまで冷やす必要がないので冷凍機コストも低い。

今回のリリースのモータでは線材を使用しないでバルク高温超電導磁石を使用したことが特徴。この成果は、平成14年度補正経済産業省創造技術研究開発費補助金(大学連携型)と平成15年度シップアンドオーシャン財団研究開発補助金の支援を得て、北野精機が中心となって産学連携研究によって高温超電導モータの機器設計と製作を進めてきたもの。

先行する欧米が発表している舶用高温超電導モータはラジアル型であるが、これと設計形状の異なるアキシャルギャップ型の電機子・高温超電導バルク界磁磁石の配置を福井大学の杉本英彦教授が担当し、回転界磁子を構成する多数個の高温超電導バルク磁石をその特性に合わせて冷却する構造を東京海洋大学の和泉充教授が担当、モータ全体の機械・機器設計と製作を北野精機株式会社の三木 寛基氏の開発チームが担当した(図3)。モータ本体とは異なるが、モータ内部に実装された電機子コイルに最適なパルス電流を与えて回転界磁子の高温超電導バルク体を着磁させ、界磁磁石として機能させるために必要な大電流パルス着磁電源の設計・製作を国立広島商船高等専門学校電子制御工学科助手の井田徹哉博士が行い今回の成功に導いた。 モータの回転が確立されたことから、今後、バルク磁石の性能向上と連動して冷却、着磁、界磁・電機子構造の最適化を行いさらなる高性能化をめざす。バルク磁石は冷却温度と方法によっては10テスラを超える磁石となることから、今後の研究によってはどのようなモータとなるのか興味深い。

現在のアキシャル型実証機の設計仕様は15kWで720rpmであるが、300kW級では、従来機比3分の1程度の小型減容化が見込まれる。欧米では、船舶推進用を目的にメガワット級の高温超電導モータの開発が進行しており、たとえば200トンのモータが69トンと著しい軽量化と小型化がアナウンスされている。今回の成果はわが国における推進用高温超電導モータの本格的開発段階の端緒となるものである。

村上雅人芝浦工業大学教授(国際超電導産業技術センター超電導工学研究所特別研究員)は、「バルク高温超電導体を界磁磁石としてモータ内部に実装したまま冷却した後、近接する電機子コイルにパルス電流を流して磁界を発生させることによって、バルク超電導体に強力な磁場を捕捉させ界磁磁石とすることができるモータの確立は、船舶のポッド推進器に限らず風力発電機等、バルク高温超電導モータの幅広い産業応用の道を切り開くもので、非常に重要なブレイクスルーである。また、ブラシのない回転界磁型のアキシャルギャップ型モータは、舶用推進用高温超伝導モータで先行する欧米の設計と異なる独創的なものであるばかりか、径方向の大きさを変えないで高出力化が可能である点も推進効率の観点から注目できる。また、液体窒素等で回転界磁子を完全に浸漬して回転時の搊失を生じるような構造でないこと、また、液体ヘリウム等によってさらに低温に冷却にすることも可能な冷却系の設計であり、冷媒の選択と捕捉磁場の向上によって革新的なモータとなる可能性を秘めた傑作である。今後の研究開発の発展が楽しみである。《と語っている。

なお、今後のバルク磁石の性能向上については、東京海洋大学は、国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所と、越中島オフィス海事交通共同研究センターで研究を行っていく予定である。

                               


図1 推進用アキシャルギャップ型同期バルク高温超電導モータ(東京海洋大学実験)


図2 バルク高温超電導体


図3 アキシャルギャップ型バルク高温超電導磁石同期モータ本体

(深川越中島)