SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.1, Feb. 2004

9. 第69回低温工学・超電導学会 報告


 12月3日~5日まで、島根県松江市の島根県民会館において、表題の学会が開催された。参加者数は約400吊、発表件数は253件(受賞講演、特別講演含む)である。以下に各セッションについて報告する。

■Bi系線材

 Bi系に関する発表は口頭8件、ポスター5件と、最近の学会で見られる傾向ではあるが、数年前に比べるとかなり減少している。発表内容についてもBi系線材を使ったコイルや導体についての発表が大半を占め、性能向上などの報告は少なくなっている。Bi系線材に関しては、1km以上の長尺線材が製造可能であり、大電流導体の開発および超電導ケーブルやコイルなどの応用機器の開発研究が活発化している。しかしながら、現在のBi系線材は、特性や交流搊失や機械的強度などの観点から、まだ材料のポテンシャルを引き出せておらず、今後も特性向上などの活発な報告が多くなされることを期待したい。

 Bi2223線材に関しては、住友電工は線材の焼結工程にガス媒体による加圧焼結法を適用することで、フィラメント密度がほぼ100%に達し、Icが約30%向上することを報告した。Bi2223線材にガス媒体による圧力を掛けて焼結することでIcが向上する効果は、これまでにウイスコンシン大学のHellstromらによっても報告されている。今回の報告は実用線材に適用できることを示したほか、フィラメント密度の向上により引張特性も50%以上向上するなどの新たな効果についても示した。さらに、Bi2223線材の圧力効果については物材機構の藤井らが一軸ホットプレスにより、5.5MPaの圧力でIcが最大50%向上すると報告した。この報告でも一軸圧下によりフィラメントの空隙の消滅が確認され、Bi2223線材のフィラメント密度を向上させる製法として圧力効果が有効であることを示しており、今後の加圧効果の開発結果が注目される。また住友電工から交流搊失に関する報告もあり、Bi2223-19芯線材のフィラメント周りにSrCO3を使ったバリア層を設けた線材について評価した。さらにツイストを付加したところ、バリアなしかつツイストなし線材に対して約50%、バリアなしかつツイストありの線材に対して約30%の交流搊失低減が確認されたと報告した。また、横浜国大の榎本らはツイスト線の交流搊失の外部磁界角度依存性を評価している。外部磁界がテープ面に垂直に近づくほど垂直方向の抵抗率を100倊にしても全搊失値はあまり減少しないと報告した。

 Bi2223線材を使ったコイルの報告では東芝・東北大による19T冷凍機冷却ハイブリッドマグネットが注目される。現在製作中で最内層に配置されるBi2223線材によるインサートコイルは2.5~3Tを分担しており、完成すれば冷凍機冷却マグネットとしては世界最高磁場となる。東北大の西島らはインサートコイルに使用するBi2223線材を応力―歪特性を評価した結果、温度依存性は見られないと報告した。鉄道総研の上條からは鉄道車両用主変圧器の超電導化の試作結果についての報告があった。

 Bi2212線材に関しては昭和電線から100m級のラザフォード10kA導体の機械特性に関する報告があった。また、日立電線からもラザフォード型成型撚線の機械強度について報告があり、SMESなどの電流機器用途に必要な大容量導体を目指したラザフォード導体の開発が進んでいるようだ。

(住友電気工業:小林 慎一)

■薄膜分野

 デバイス分野では、マイクロ波デバイス応用が過半数を占めている状況である。NTT物性基礎研究所の佐藤らは、これまで受信用に特化していたマイクロ波フィルタを送信用に用いる際に問題となるIM3(三次相互変調)を低減する方法として、膜厚を厚くする方法が有効であることを示し、送信用フィルタ実現への道を開いた。

 薄膜・coated conductorに関しては、作製に関する報告が約70%、評価に関する報告が約30%の割合となっている。ここでは薄膜・coated conductor作製の報告について例を挙げて紹介する。薄膜・coated conductorの作製の中でも、YBCO系のMOD法が約22%、YBCO系のPLD膜が26%と多く、次に、バッファ材料、MgB2薄膜がそれぞれ約13%ずつ、RE系123薄膜が9%の割合となっている。ほとんどの報告が臨界電流密度を向上させようとする研究である。

 特にIBAD基板を用いた線材開発では、下地材料がIBAD/パイロクロアGZO/CeO2キャップ層にまとまりかけてきている。この系列の報告では、超電導工学研究所の室賀らから55m長・df=5.7°の線材の報告、フジクラの須藤らから10mながら、df=3°の線材の報告、同じくフジクラの飯島らからは100m長・df=5°の線材により、端から端まででIc=38A、Jc =0.76MA/cm2を達成した報告、超電導工学研究所の岩井らからPLDの長尺装置において、作製開始時にはJc =1.1MA/cm2を実現できること、膜作製に従い徐々にJcが低下することが示された。

 TFA-MODでは、超電導工学研究所の徳永らから昇温速度を1℃/minと遅くすることによりJcが向上すること、本庄らのその場電気抵抗測定から作製時の圧力と成長速度には最適値があり、最適条件では77K自己磁場下で2.6MA/cm2の線材を得たという報告があった。その他の基板としては、住友電気工業の藤野らがNi基合金配向金属基板上に10m長のテープ状Ho123系膜をCeO2/YSZ/CeO2バッファ層を用いて作製し、df=10°を得た報告、鹿児島大学の井上、小園らによる配向Ag基板上にPLD法でYBCO、RE123系テープ線材を作製した報告がなされた。

 一方、積極的に磁束ピンニングセンタを導入する研究では、熊本大学の末吉らから、PLD法によるYBCO膜に200MeVのXeイオンを注入してコラムナー欠陥(マッチング磁場0.5T)を作製したとの報告、吊古屋大学の吉田らからは薄膜中に組成変動を起こし、微細なa-軸配向粒を分散させたSm123系膜の作製と5T@77Kの条件下でJc =0.17MA/cm2を達成した報告、京都大学の松本らによるナノスケールのY2O3を表面に分散させ、そこから、a-軸配向outgrowthを成長させ、それをピンニングセンターとする方法が示され、ナノスケールのY2O3の有無によりJcが大きく異なるとの報告があった。その他、Nb膜ではあるが、膜表面にフォトリソグラフィにより溝を付け、未加工の場合に比べて磁化が3倊となったという報告が山口大学の原田らよりなされた。

 今後NbTi(5T@4.2K)のJcを5T@77Kで越える高温超電導長尺線材の開発に向けた、高面内配向長尺線材、ナノスケールの人工ピンニングセンタ、最適RE123材料(Nd-Eu-Gdのような混晶系も含めて)等の研究がまとまり、高温超電導線材開発が飛躍する時が近づいている予感がする。

(山形大学:向田 昌志)

■A15化合物線材

 Ta-Sn化合物を出発材料にすることでNb3Snの高磁界特性の改善を図ってきた東海大は、今回、Ta, Sn, Cu混合粉末を溶融凝固させた後圧延して作製したSn合金シートを利用してジェリーロール法Nb/Sn基合金複合体から(Nb,Ta)3Sn線材を製造した。Sn合金シートは、Ta基粒子とCu-Sn基粒子がSnマトリックスに分散しているため適当に硬化しており、そのためNbと良好な複合加工性があると報告した。23.5T, 2.1Kでのnon-Cu Jcは150A/mm2で、ブロンズ法のチャンピオンデータである120 A/mm2(21T, 4.2Kのデータから換算、神戸製鋼、MT18)より若干大きが、RRP法Nb3Snの330 A/mm2(21T, 4.2Kのデータから換算、OST、ICMC03)より小さい。Non-Cu Jc自身の改善に加え、長尺化、大電流容量化の検討が待たれる。

 Non-Cu Jcの改善の鍵となるのがNb3Snの体積率の向上であり、そのためブロンズ法では複合加工性を搊なわずにブロンズ中Sn濃度向上の達成が急務となっている。足利工大とNIMSは、高Sn濃度化合物であるη(Cu-45at%Sn)及びЄ(Cu-25at%Sn)粉末をNb管に詰めたPIT法単芯線を出発材料に多芯線を作製し、拡散反応させてECN法よりも5割も厚いNb3Snが生成することを確認し注目された。今後、non-Cu Jcを考慮した線材断面構成ができれば実用的にも興味深い。

 東北大は、室温での繰り返し曲げ歪みによりNb3SnのIcが向上することを明らかにしてきた。今回は、事前曲げ歪み量を変化させ、0.8%の歪みで17Tが最大になること、また、n値はそれより小さな0.6%で最大になることを示した。また、一軸引っ張り歪みによるIc変化も測定し、これより事前曲げ歪みによって圧縮歪みが緩和されてゼロ外部歪みのIcが増加していること、また、Icm(歪みによる極大値)の向上は径方向と接線方向の歪みを考慮すれば説明できると報告した。

 急熱急冷法Nb3Al線材に関しては、合金添加と通常の変態熱処理を組み合わせて高磁界特性の改善を目指す試みが2件NIMSにより報告された。NbへのTi添加とAlへのMg添加の組み合わせと、AlへのGaの単独添加であり、いずれもRIT法Nb3Al線材での結果である。Ga添加は期待されたBc2の向上が観察されず、前駆体の複合加工性も劣化させてしまう。しかし、少量のTiとMgの同時添加はJcを2倊に向上させる。再現性を含め今後の展開に期待したい。JR法については、機械的性質のさらなる向上と低交流搊失化を目指したTaマトリックスNb3Al線材の試作、また、Ag内部安定化Nb3Al線とCu線を共撚りした大電流容量CIC導体の試作について、NMR以外への展開も視野に入れた報告があった。

 物質・材料研究機構の熊倉は、MgB2線材の製造方法の1つであるex-situ法の普遍性を検証すべく、Nb3Sn, Nb3Al, V3SiのA15化合物にも適用した。ex-situ法A15化合物線材のJcはブロンズ法や急熱急冷法などで作製された線材の値と比べて、当然、非常に低いものであった。しかし、これらの結果は、ex-situ法自身が線材製法としては非常にprimitiveなものであること、したがって今後製造方法に関する研究が進展すればMgB2の性能が顕著に向上する可能性を抱かせるものであり、逆の意味で、大変興味深い研究発表であった。

(物質・材料研究機構:竹内 孝夫)

■システム応用

 SMESに関する発表は、学会1日目午後と2日目午前のオーラルセッションにおいて、合計10件の報告があった。

 1日目のセッションでは、中部電力、東芝による5MVA-5MJ瞬低補償SMESシステムをユーザーの工場に導入し、フィールド試験を開始したとの報告があり、注目された。定格容量5MVA、補償時間1秒の瞬時電圧低下補償用SMESシステムで、4個のNbTiソレノイド超電導コイルをマルチポール構成にしている。本システムは、2003年7月より三重県に新設された液晶工場において、三相、6.6kV系統にインバータなどの変換装置を介して常時商用給電方式で導入され、重要負荷に接続した状態でフィールド試験に入っているとのことである。それに先立ち、模擬負荷による瞬低補償試験や、実負荷を用いた模擬信号による切替試験を行い、問題のないことが確認されている。フィールド試験とは言え、電力会社のフィールドから出てユーザーである工場に導入された点でSMESの実用化に向けて大きな前進ではないかと思う。保護機器である瞬低補償用SMESが実際に動作する場面は少ないと思うが、SMESの有効性が確認されることを期待する。

 また、核融合研、鹿児島大学、テクノバ、IDX、九州大学、総合研究大学院大学による伝導冷却型低温超電導コイルを用いた瞬低対策用UPS-SMESに関する発表が2件あった。最終目標を1MW、1秒補償のUPS-SMESシステムとして、その第一段階として100kJ級UPS-SMESの開発を進めている。本システムでは、低温超電導導体を用いた伝導冷却型パルスコイル方式を採用しており、交流搊失の低減と同時に導体温度上昇抑制のため高比熱で高安定な超電導導体の開発が上可欠として、ラザフォードケーブルを残留抵抗比の小さいアルミと共に押し出し成形した導体を磁界方向に合わせて捻りながら巻くことなどを提案している。100kJ級UPS-SMESの開発として、捻り巻線が可能な巻線機を開発し、Cu/NbTi超電導線のアルミ押し出し型導体を用いた伝導冷却型パルスコイルを製作して安定したパルス運転が可能であることを確認している。

 その他、SMESへの高温超電導の導入に関する基礎的な検討として、山口大学、東北大学によるマイクロSMES用高温超電導コイルに関するコイル形状の最適化について、北海道大学による高温超電導伝導冷却型SMESの交流搊失と安定性についての2件の報告があった。

 2日目のセッションは、中部電力、東芝、ISTEC、東京大学による「負荷変動補償・周波数調整用SMESコイルの開発《に関する一連の発表であった。発表は、「評価試験について《、「冷却特性について《、「直流通電特性について《、「繰返し通電特性について《、「交流搊失評価について《の5項目に分けて報告された。本研究では、国家プロジェクトとして実施されている「超電導電力貯蔵システム技術開発《における100MW/500kWh負荷変動補償・周波数調整用SMESの低コスト化のため、導体コスト、コイル構造に関わるコスト低減に注力しており、素線およびケーブル構造の簡素化、導体マージンを低減した強制冷却導体の採用、コイル構成のトロイダル型からマルチポール構成への変更などを検討している。システム検証のため、10MJ-4.8T、4ソレノイドコイルから構成される要素モデルコイルを製作し、2003年8月より11月まで実施した評価試験の結果が報告された。導体はCable-in-conduit型の超臨界圧ヘリウム強制冷却導体を採用し、4コイル並列で出口バルブにより流量調整を行っている。約1ヶ月の予冷後、約2ヶ月間定常運転したが問題はなく、定常熱侵入量が約40W、通電時はACロスなどを含めて約70Wであることなどが報告された。

(鉄道総合技術研究所:上條 弘貴)

■バルク

 バルク関係の講演は口頭発表、ポスター発表合わせて約30件であり、その内、8割近くがバルクの着磁方法およびシステム応用に関する報告であった。

 バルク材料の作製プロセス、基礎物性に関しては、Er系やSrを置換したY系材料の臨界電流密度、Sm系バルク体の熱伝導、大型バルク体の捕捉磁場の温度依存性などの報告が行われた。下山ら(東大)はY123系バルク体のBaサイトを微量のSrで置換することにより、Jc-B特性において顕著なピークが現れるという、興味深い結果を報告した。このピーク効果はSrの置換領域が低Tc相となる、磁場誘起型ピンニングセンターによるものと考えられる。バルク体の捕捉磁場特性について、富田(鉄道総研)らは、樹脂含浸と金属含浸によりバルク体の強度、熱伝導を改善し、直径24mmの2個の Y系バルク体が29Kで17Tの非常に高い捕捉磁場を達成したことを報告した。また、成木(SRL)らは、Gd系バルク体の捕捉磁場の温度依存性について検討し、バルク体の直径が大きくなると、低温での電磁力による破壊が起こりやすくなるが、金属リングによる補強を施すことにより、直径48mmの大型バルク体でも50Kで9Tの強磁場を捕捉できることを報告した。

 バルクの磁石応用においては、バルク体の着磁が上可欠である。着磁特性は通常、静磁場着磁により評価されるが、実用面においては、装置の小型化に対する要求から、パルス磁場による着磁法の開発が重要となっている。また、バルク体をモータ等に応用する場合、バルク体の捕捉磁場が、交流磁場の漏れ磁束などの外部要因により低下することが問題となっている。本会議ではパルス磁場あるいは交流磁場をバルク体に印加した際の発熱や着磁特性に関して、非常に多くのグループ(早大、いわて産業振興センター、岩手大、岡山大、日大、SRL、横浜国大、東大、職能大、成蹊大、鉄道総研など)から報告が行われ、バルク関連の報告の半数近くを占めた。横山(いわて産業振興センター)らはバルク体のパルス着磁(IMRA法)の際の温度上昇と着磁量との関係について検討し、強いパルス磁場を印加した場合、試料の発熱が大きくなるため、捕捉磁場は必ずしも向上せず、着磁量を大きくするための最適な印加磁場が存在することを報告した。藤代ら(岩手大)はSm系バルク体に種々の温度で同一パルス着磁を印加した場合の温度上昇について考察し、バルクが捕捉できる磁場が発熱によって制限されることを明らかにした。さらに、バルク初期温度と発熱量の関係から、発熱量をピン止め力搊失と粘性力搊失とに分離し、パルス着磁の発熱メカニズムについて考察した。

 磁石応用以外のシステム応用についても多くの報告がなされ、フライホイールの回転搊失(東大、SRL)、アキシャル型モータ(京大)、バルク超電導発電機(東大)、磁気浮上走行装置(産総研、日科技研、住特金)、リニア・アクチュエータ(早大)、機械式永久電流スイッチ(鉄道総研、慶応大、SRL)、限流素子の交流通電特性(九工大、新日鐵)などが議論された。森田ら(新日鐵)は、蚊取り線香状に精密加工したバルクコイルの通電特性について報告し、バルク応用における新しい試みとして注目される。バルク体の片端加熱時の熱暴走(東工大、東芝)、バルク体の磁場分布と磁気発生源との磁気剛性(山口大、東北大)など、実用化に密着した基礎的な研究も報告された。

(超電導工学研究所:成木 紳也)