SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.1, Feb. 2004

5. MgB2線材で世界トップレベルの臨界電流密度を達成
_JR東海、物質・材料研究機構_


 東海旅客鉄道(JR東海)と物質・材料研究機構のグループは、パウダー・イン・チューブ法で作製したMgB2テープで、世界トップレベルの臨界電流密度(Jc)を達成したと発表した(2003年度国際超電導シンポジウム[ISS2003]など)。

 MgB2テープ作製の一般的な方法はパウダー・イン・チューブ法であり、そのうち2つの方法が今までに報告されている。1つはin situ法で、MgとBの混合粉末を金属管に充填して伸線加工、熱処理する方法である。もう1つはex situ法で、MgB2粉末を直接金属管に充填して伸線加工する方法である。一般的に、ex situ法に比べて、in situ法の方が高磁場領域で高いJcを示すことが知られている。しかし、in situ法によるJcもまだ実用化のレベルには達していない。そのため、多くの研究機関でin situ法の改良について研究開発が行われている。従来から物質・材料研究機構が行っている方法では、市販のMg粉末の代わりにMgH2粉末を用いる方法があり、MgH2粉末を用いることでMgB2生成の反応がより速やかに進み、高いJcが得られるとしている。また、海外の研究機関では、ボールミルにより作製した超微細なMgとBの混合粉末を使用すると、粒子の結合及びJcの向上に効果があると報告している。

 今回開発した線材はin situ法で作製しており、通常のMg粉末の代わりにナノサイズMg粉末を使用した。ナノサイズMg粉末は、市販のMg粉末を用いて、アルゴンガス雰囲気で高温のプラズマにさらすことで蒸発させ、急冷する熱プラズマ法という方法により作製した。作製したMg粉末は非常に高純度で、また、その平均粒径は、市販のMg粉末が約50mmであるのに対し、約300nmと1/100以下のサイズである。このナノサイズMg粉末を市販のB粉末と混合して金属管(純鉄)に充填して伸線加工し、テープ加工後にアルゴンガス雰囲気において、600~650℃で1時間の熱処理を行った。なお、出発混合粉末には、Jcの改善に効果があると報告されているSiC微粉末を5~10原子%添加している。

 このように作製したMgB2テープを、4.2K、磁場中で臨界電流測定を行い評価した。その結果、SiC微粉末を添加したテープにおいて、10Tで25,000A/cm2を超えるJcが得られ、この値はMgB2線材としては世界トップレベルであるとしている。

 このナノサイズMg粉末を用いることでJcが向上する理由として、同グループでは次の3つの理由が考えられるとしている。まず、ナノサイズの超微細な粉末を使用することで、MgとBの反応がより均一に進み、得られたMgB2の均一性も向上した。次に、ナノサイズMg粉末の表面が市販のMg粉末に比べて酸化がより少ないため、MgとBの反応が促進されるとともに、MgO上純物の量が低減した。そしてもう1つは、結晶粒界のピン止め効果で、SEMによる観察を行うと、ナノサイズMg粉末を用いて作製したテープの粒子サイズが市販のMg粉末を用いて作製したテープより小さいことがわかる。このような小さい粒子サイズは、磁束ピンニングを向上するのに効果があると考えられる。

 物質・材料研究機構 酸化物線材グループの熊倉浩明氏は、「実用化までには長尺化、多芯化、超電導特性の更なる向上等、課題はあるものの、今回の成果は、MgB2線材の開発が、高磁場領域での応用に向けて一歩進んだことを示すものである《とコメントしている。また、東海旅客鉄道リニア開発本部の山田秀之氏は、「10~20K程度で使用できる安価な線材が確保できれば、各種の超電導応用への適用が期待される《とコメントしている。


図1 ナノサイズMg粉末の作製方法


図2 Jcの磁場依存性(4.2K)

(HY)