SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.1, Feb. 2004

1. 世界最大級瞬低補償SMESの開発
_中部電力、東芝_


 瞬時電圧低下(瞬低)は半導体や精密機械の製造工場などに大きな被害を与える。そのため、工場を一括で瞬低補償できるシステムを早急に開発することが求められてきた。超電導電力貯蔵システム(SMES)は、超電導の電気抵抗がゼロになる性質を利用し、超電導コイルに電流を流し続けて充電する機器であり、瞬時に大出力が得られることから、瞬低補償には打ってつけのシステムである。瞬低発生時には、工場の重要設備への電力供給が、電力系統からエネルギーを蓄えている超電導コイル側に直ちに切り替わり、設備に電力を放出する仕組みとなっている。今回、中部電力は、東芝と共同で世界最大規模の出力5000キロワットで補償時間1秒のSMESを開発した。

 このSMESの特徴は、まず5000キロワットという大出力が可能であり、従来のUPS(無停電電源装置)等では上可能であったバンク単位の補償、つまり、工場全体の一括補償を可能としている点にある。また、待機時の搊失を低減できる常時商用給電方式を採用し、瞬低発生時の電力系統からの切替時間は1/2サイクルを実現している。さらに、冷却システムには、コイルや電流リード等の冷却対象に合わせた小型冷凍機を組み合わせることで、保守・メンテナンス性に優れ、高圧ガス保安法に関わる法定管理者が上要なシステムとなっている。なお、本SMESのコイルはNb-Ti製のラザフォード導体を用いたもので、エポキシ含浸タイプとしては高い電圧まで対応出来る点が特徴である。

 昨年7月から、三重県亀山市にあるシャープの第6世代液晶マザーガラスを用いた大型液晶TV生産工場において、開発された瞬低補償SMESのフィールド実証試験が行われている。実証試験に先立ち、瞬低発生時を模擬した電圧低下信号をSMESに与え、瞬低補償動作の検証を行ったところ、SMESによる補償動作に問題はないことが確認されている。

 開発の責任者である中部電力 技術開発本部電力技術研究所 超電導・新素材チームリーダーの長屋重夫氏は、「SMESは、電力市場の自由化、自然エネルギー等分散電源の導入促進、電力供給品質の維持などが求められていく経済社会情勢のもとで、電力ネットワークの安定化、信頼性維持向上などへ貢献できる有力な技術である。20世紀初頭に発見された超電導であるが、長きに亘りその実現を待ち望まれていた超電導技術の電力への応用が、我々のこの開発により、いよいよ始まろうとしている《と今回の開発成果を熱く語った。

 これらの成果を踏まえ、現在、出力1万キロワット級の低コスト瞬低補償SMESの開発が進められている。

                               


図1 瞬低補償用超電導コイル


図2 フィールド試験状況

(ゆりな)