SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.6, Dec. 2003

7. シリコン系超電導体の同位体で機構を解明


 新しい超電導体が出現した場合、その機構がどういうものであるかは非常に興味あることである。この意味では、1990年代後半に出現したC60系超伝導体とSi46超伝導体の2種類のクラスタ系超電導体は、C60系超電導体は、超伝導臨界温度が非常に高いこと、Si46系超電導体に関しては、純粋なシリコンネットワークで初めての超電導体であることで、歴史的に非常に重要な超電導体であるといえる。

 超電導体の機構を知るためには、同位体効果、比熱、磁気、フォノンなどいくつかの重要な実験がある。C60系超電導体に関しては1992年に大阪市立大学(当時NEC基礎研究所)の谷垣勝己教授らのグループ、ベル研究所のDonMurphy研究員などのグループをはじめ、幾つかのグループによりC60系超電導体に関する同位体効果の実験やNMRの実験が行われ、それらの測定結果から、高周波領域のフォノン(~1000K)が主に介在するBCSタイプの超電導体であるという認識が得られている。しかし、Si46系の超電導体に関しては、これまでその機構を理解するための詳細な実験がなされていなかった。この理由は、13C同位体に対して30Si同位体は非常に入手し難いこと、ならびに組成を制御した合成が極めて困難であったからである。そのために、Si46系超電導体が広島大学山中等により報告されたのが1995年であるにもかかわらず、今年に到るまでそのような実験が無かった。1992年の報告に引き続き、谷垣勝己教授等のグループは、慶應大学清水智子氏(B4)、伊藤公平助教授、大阪市立大学寺岡淳二助教授、吊古屋大学守友浩助教授、広島大学山中昭司教授との共同研究で、28Siおよび30Siの同位体を用いた超電導同位体効果の実験を行った(Nature Materials, 2, 664-666 (2003), New& Views)。その結果、α=0.08~0.12の値が観測された、この観測値とラマンによるフォノンの観測周波数から誤差を十分に考慮したMcMillanの式にもとづく解析を行い、物理変数λ=0.79~1.2、m*=0.23~0.31を得ている。得られたm*はかなり大きい値であるが、その他の実験結果と、同位体効果の実験誤差を考慮して、本超電導体の機構が、フォノンを介在とするBCSの上限に位置すると結論している。Pennsylvania State UniversityのV. H. Crepsi教授は、C系とSi系の2種類の超電導体がどちらもBCS超電導体の仲間入りをしたと評価している。

 重要なことは、C60 系超電導体の場合には、空気中で上安定な物質であるため高精度な比熱の実験などが行われていないが、今回の実験では、超電導臨界温度での比熱の飛び、臨界温度以下の比熱の温度関数、磁化率測定など、詳細な種々の実験を行いその結果として、総合的な判断から本物質系がフォノンを介在とするBCS超電導体に分類されると、帰結していることである。特に、Tc以下での比熱の温度依存性からは、この超電導体がs波の超電導体であるこことを明確にしている。

 大阪市立大学の谷垣勝己教授は、「今回のSiクラスタ系超電導機構を決定するために、多くの重要な実験が行われて、総合的な観点から、真の超電導機構が理解されたものといえる。曖昧な点があるとすると介在するフォノンの周波数であろう。今後中性子実験ならびに、電子―格子相互作用に関する計算などが行われて、フォノンに関してさらにより詳細な情報を知ることができることが期待される《とコメントしている。


図1 Ba8Si46に関する同位体効果と比熱


図2 Ba828Si46とBa830Si46にラマン

(マットサイエンス)