SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.6, Dec. 2003

5. 超電導限流器・簡単構造で高速転流スイッチを実現!
_東京電機大・産総研物質プロセス研究部門_


 東京電機大学の柳父悟教授、修士2年内藤裕司氏、修士1年清水巌氏と産業技術総合研究所物質プロセス研究部門の熊谷俊弥博士らの研究グループは、このほど、高温超電導体を用いた限流器の開発に成功したと発表した(電気新聞10/30、日刊工業新聞10/30、電気新聞10/30、日本工業新聞10/31、電波新聞11/1)。近年の超電導薄膜生成技術の向上に伴って、超電導限流器の開発は超電導体のクエンチ後に高い抵抗値、限流器全体の省スペースを期待できる薄膜を使用した抵抗型限流器にシフトしつつある。これまでに超電導薄膜を使用した限流器では、過電流による薄膜の溶断を防ぐために超電導薄膜・機械スイッチ・並列分流インピーダンスで構成される限流器が検討されている。この構成では従来の抵抗型限流器のように超電導素子を限流用インピーダンスとしてではなく系統故障検知に用いることによって系統故障時における超電導薄膜の消費エネルギーを小さくし、薄膜の溶断を防ぐ。しかし、この構成には高速で確実に動作する機械スイッチが上可欠で、例えば高速遮断器を適用すれば限流器全体が格段に高価になり、実現は困難であった。

 同研究グループらは、この構成において系統故障発生後0.01秒以内での超電導素子の切り離しが可能な超電導限流器の試作・実験に成功した。この構成では、問題となるスイッチ部分を市販の真空バルブと金属板だけで構成しており、非常に簡易構造である(図1)。

 図中③の真空バルブは下側が固定接触子・上側が可動接触子であり、可動接触子に電流通電経路とは絶縁されるようにアルミ板を固定している。この『真空バルブ+アルミ板』構成の周囲に通常の電線でコイルを巻き、これを分流インピーダンスとして構成してある。過電流により超電導体がクエンチして並列コイルに分流すると、コイル周囲に磁界が発生し、その磁界を利用してアルミ板を反発駆動させ同時に真空バルブを開極させる。この構成では通常の遮断器におけるリレー時間が上要で、電磁反発により超電導体のクエンチと同時に駆動されるので、コンパクトで確実に動作する高速スイッチングが可能である。同研究グループでは、この構成で超電導素子をBi2223/Agシース線材とYBCO超電導薄膜を使用して動作実験を行い、両者を比較した。図2(a)はBi2223/Agシース線材の実験結果で、同線材をインダクタンスが小さくなるように巻かれたコイルを使用している(使用線材長56m、Ic≒20A)。(b)はYBCO薄膜の結果であり、2cm×2cm角、膜厚0.25mmの薄膜1枚を使用した(Ic≒100A)。同図(a)は超電導素子が銀で被膜されているために超電導体のクエンチ後の抵抗値は銀で決まってしまい、高い抵抗値を得ることができない。一方、(b)のYBCO薄膜は金属保護膜を使用しない状態で通電した(薄膜は経済産業省Super-ACEプロジェクトにより開発され、産業技術総合研究所で作製されたものを使用)。

 図2では各部の電流と反発板のストロークを描いている。本構成では、並列コイルに流れる電流が凡そ650Aを超えた附近で反発板が得る電磁反発力が真空バルブの自閉力を上回るように、並列コイルの巻数を調整してある。図2(b)ではYBCO薄膜のクエンチ後の抵抗値が高いため、薄膜のクエンチと同時に大部分の電流が並列コイルに分流して真空バルブを駆動している。この構成は、真空バルブを電磁反発駆動させるために必要量の電流を並列コイルに分流させることが動作の条件であり、それにはクエンチ後の超電導体の抵抗値が大きい方が都合が良く、この動作実験においてもBi2223/Agシース線材56mに対して2cm×2cm角の薄膜が非常に大きな抵抗値を示し、この構成に薄膜超電導体を適用する有用性を確認できた。また、(b)ではAC50Vで実験を行ったが、YBCO薄膜は破断することなく複数回の実験に耐えており、薄膜に流れる過大電流の通電時間を短縮することで破断を防ぐことができていると予想できる。研究グループの柳父教授は「薄膜の破断を防ぐために金属保護膜を被せることで結果として薄膜の抵抗値を下げてしまうが、この構成では薄膜を高い抵抗値で使用できる可能性があるため、超電導限流器の大幅な省スペース化・冷却コストダウンにつながるだろう《と語った。今後、同グループでは同様なYBCO薄膜を用いて本構成の詳細な検討を行う予定。

             


図1 試作限流器の外観


図2 動作実験結果
(左)Bi2223/Agシース線材(線材長56m) (右)YBCO超電導薄膜(2cm×2cm角1枚使用)

(Naipon)