SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.6, Dec. 2003

4.MgB2線材でNb3Sn線材に匹敵する上可逆磁界を達成
 _物質・材料研究機構_


 物質・材料研究機構のグループは、パウダー・イン・チューブ法で作製したMgB2テープが23Tの高い上可逆磁界Birrを示すことを見出した。同グループは、これまで文部科学省の振興調整費によってMgB2の線材化研究を進めてきており、今回の成果もその研究の一環として得られた。これまでの単結晶等の測定から、MgB2の上部臨界磁界Bc2はNb3Snなど従来の金属系超伝導体とくらべてかなり低い値が報告されていたが、今回MgB2線材でNb3Snに匹敵するBirrが得られたことから、MgB2の応用に関する論議が活発化しそうだ。

 線材は、MgとBの混合粉末を金属管に充填して加工、熱処理をするin situ法で作製した。ただし、同グループの方法は通常のMg粉末の代わりにMgH2粉末を原料に用いるもので、これは従来から物材機構が行ってきたもの。MgH2粉末を用いることでMgB2生成の反応がより速やかに進み、高いJcが得られるとしている。MgH2粉末を市販のB粉末と混合して金属管(純鉄)に充填し、冷間にてテープに加工した。なお出発混合粉末には5~10原子%のSiC微粉末を添加している。このSiC微粉末の添加は、以前にオーストラリアWollongong大のDou教授らのグループが試みて、Jcの改善に効果があると発表していたもの。テープ加工後アルゴン雰囲気中において、600℃で1時間の熱処理を行った。この熱処理温度は、通常のin situ法MgB2線材の熱処理温度である800-900℃よりもかなり低いが、熱処理温度を600℃まで下げることにより、Tcが若干低くなるものの、より高いJcが得られるとしている。さらに低温、短時間の熱処理は、線材製造コストの面でも有利である。

 このようにして作製した線材の臨界電流特性を4.2K、磁界中で同機構の強磁場ステーションに設置されているハイブリッドマグネットを用いて評価した。SiCを添加したテープにおいては、10Tにおいて20,000A/cm2を越えるJc値が得られ、この値はMgB2線材としては世界最高レベルであるとしている。またJcが10A/cm2となる磁界でBirrを定義すると、無添加線材ではBirrが17Tであるが、10原子%のSiC添加により23TにまでBirrが向上した。この23TのBirrは、ブロンズ法による市販のNb3Sn線材の上部臨界磁界Bc2に匹敵する値である。磁界はテープ面に平行に印加しているが、本テープにおいてはMgB2結晶の方位はランダムなので、印加磁界の向きによるBirrの異方性はないとしている。単結晶においては、4.2KにおけるBc2がB // a,b面で14T、B // c軸では3T強と報告されているので、今回得られた無添加テープ、SiC添加テープともに、Birrは単結晶のBc2よりもかなり高い。これについて、同機構 超伝導センター 酸化物線材グループの熊倉浩明氏は、「今回得られた線材のTcは~34Kと単結晶等に比べてかなり低く、それだけMgB2には多くの欠陥が導入されていると考えられる。この欠陥によってBc2が上がり、Birrも高くなったのではないか。MgB2では従来のNb3Snなどに比べてBirrやBc2の制御が容易なように思える。すでに薄膜では40Tを越えるBc2が報告されていることから、線材のBirr(Bc2)も、もっと上がるのでは《と話している。

                     

(nhk)