SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.6, Dec. 2003

10. 国際超電導シンポジウム(ISS2003)会議開催される
*つくば国際会議センターで


 第16回国際超電導シンポジウムISS2003(国際超電導産業技術研究センター:ISTEC主催)は、つくば国際会議センターにて10月27日から10月29日まで15ヶ国、637人が参加して開催された。本会議は、米国、欧州、中国・韓国などアジア太平洋地域からの参加者が多く、発表件数は口頭123件ポスター321件合計444件の多数にのぼり、全体として盛会であった。高温超伝導が発見されてから16年が経過しており、目に付いたのは応用研究の発表が増えていることで、16年に亘る高温超伝導(HTS)研究開発の成果を実感させる有意義な会議であった。

 初日の会議は、ISTEC/SRL田中昭二所長の開会挨拶に続いて、2件の特別基調講演と6件の基調講演が行われた。

 特別基調講演では先ず、電中研の秋田部長が「電力応用に於ける高温超伝導技術《と題して講演した。電力システムを規定の周波数及び電圧で運転する為には、十分な発電量と並んで送電線系統が緊要技術である。システムの信頼性を維持する為、送電線の継続的開発と設置が必要であるが、超伝導技術はこのような長期の投資を回避する魅力的な電力機器を提供できる。その一例は、電力システムを安定化するSMESであり、送電系統の弱い部分にSMESを設置することにより、新しい送電線を建設することなく送電系統の許容容量を改善できる。もう一つの例は、送電系統の短絡電流を効果的に制限できる超伝導限流器である。これら機器の世界的開発状況をレビューした後、我国のHTSケーブルの開発状況(東電/住電の100m長ケーブル、ACEプロの500m長ケーブル)を紹介し、管路式HTSケーブルの特徴である短いリードタイムのメリットを強調した。次いで、ノースロップ・グラマン宇宙技術研究所のJ. Spargo博士は、「米国の超伝導デジタルエレクトロニクス《と題して主に、高バンド巾・高スループットの有線及び無線通信応用と高性能プロセッシング向けRapid SFQデジタル技術の開発状況をレビューした。ノースロップ・グラマン社がHTMT用マイクロプロセッサー(60,000JJ)を試作し、20Gbit/s,5mW/ケの動作を確認中。光信号クロックによりΔ-Σモジュレ−タも開発している(4065JJ構成、中心周波数2.23GHz、バンド巾20.8MHz、SN比49dB)。今や最速のデジタルSFQ回路が最小の消費電力で動作していると語った。

 基調講演では最初に、D.C.Larbalestier教授(ウイスコンシン大)は、MgB2 のHc2がdirty limitの予測値を大幅に上回る最近のex-situ薄膜による実験結果を報告した。これは2ギャップ超電導体であることによる上純物散乱の増加により説明できる(Mgサイト置換によるπイントラバンド散乱+Bサイト置換によるσイントラバンド散乱)。今後Nb3Snに代わる超伝導材料になり得るし、丸線も製造できると述べ、聴集の大きな反響を呼んだ。問題点はあるものの、Al 及びCドーパントの有望性の示唆を含めて、久し振りに今後の展開に希望を持たせる発表であった。R. A. Hawsey博士(オークリッジ国立研)は、米国に於ける厚膜導体の開発状況をレビューした。一例として、RABiTS基板上にLZO/CeO2の中間層を形成して、Jc =1.7MA/cm2 (77K, 自己磁界)を達成。ASC社がCeO2/YSZ中間層で、Ic=495A/cmW, Jc=3.8MA/cm2を達成した。次いで10m長テープを製造し、24本の1.25m長テープに分割してオークリッジ国立研に供給、並列接続したケーブルのIc値=4200A、n値=28であった。中尺ながら目標Ic値300 A/cmWを上回り、Jeについても目標値10,000A/cm2 (65K, 3T)に近づきつつある。テープ長達成時期に付いては、100m/ ’03 ~ ’04; 100-1000m/ ’06 ~ ’07と述べた。超電導工学研究所の塩原融部長は、次世代線材に関する日本の開発状況をレビューした。前期プロジェクトで0.8MA/cm2以上のJcを持つ100m長テープを既に開発しており、新プロジェクトでは1)IBAD/PLD法による高性能線材開発と2)RABiTS/SOE,MOD,MOCVD法による低コスト線材開発の二方向で開発を進める。1)関係ではCeO2/GZO中間層で半値幅3°, Jc =1.0MA/cm2を達成している。2)関係ではTFA-MOD法でIc 210A、Jc 1.5MA/cm2,SOE法で夫々120A,1.3M A/cm2を達成したと述べた。本プロの開発目標として長さ500m、Ic 300A 、コスト8円/Am、製造速度5m/hを挙げた。吊古屋大学の水谷宇一郎教授は、超伝導バルクの合成及びその応用に関する最近の進展状況をレビューした。Y123,Sm123,Gd123が熔融育成法により60mm径まで合成できるようになり、磁界捕捉特性も77Kで2T以上(7T/40K)の値が得られている。応用関係では、液体酸素温度での磁気浮上実験や17T/29Kの磁界捕捉実験とパルス着磁法による磁気分離用実験船の製作・試用など実用段階を迎えていると述べた。C. P. Foley博士 (Australia's Commonwealth Science & Industrial Research Organization)は、鉱物資源探査用SQUIDの開発について報告した。最初にLTSの rf-SQUIDを用いた一次グラジオメータの実例(オーストラリアで実施中)を紹介した。HTSのSQUIDについては、77Kで動作する新規の軸方向グラジオメータを開発して、環境ノイズの大幅な低減を確認したと述べた。日立中央研究所の塚田啓二主管研究員は、心磁画像装置用LTS及びHTS SQUIDシステムの開発状況を報告した。最初に自社開発による64ChのNb-SQUIDシステムを紹介した。一次グラジオメータを8×8 Matrixに配列し、10fTの高感度を実現。HTS SQUIDについては、STO基板にY系層を形成した薄膜を用いた磁束計を、4×4 Matrixに配列した16Chシステムで70 fTの高感度が得られたと述べた。

 2-3日目の会議は、物理・化学、バルク/システム応用、線材/システム応用、薄膜・デバイスの各セッションに分かれて討論が行われた。各セッションの参加者に寄稿戴いた各報告を以下に掲載することとする。閉会に当って田中所長は、2004年11月23-25日新潟市トキメッセで次回会議を開催する予定を明らかにした。

(高麗山)

1. Physics & Chemistry

 本会議には、最近は有吊人はあまりこなくなったが、代わりに若手を中心に自由に議論できる雰囲気がある。参加者が比較的少ないので、多少欠けている分野もあるように思われるが、ポイントを押さえたプログラムとなっており、いくつかの重要なトピックスについて詳しく聞くことができる。このような会議も非常に重要であり、他の大型の国際会議と相補的な役割を果たしていると感じた。参加者は日本人が圧倒的に多いが、若手研究者を含めて国際的な発表の機会が得られることも非常に大事であると思われる。以下では、Physics and Chemistryのセッションのうち、招待講演を含む口頭発表を中心に本会議で議論されたものをまとめて紹介した。

1)フォノン:この会議の1つの焦点は、フォノンに関するものだった。これはミニシンポジウム“Interactions in Superconducting State of High-Tc Cuprates”の中で行われた。

 最近の話題の1つである、ARPESの分散関係における折れ曲がり(キンク)に対する講演が2つあった。1つはスタンフォード大のShenのグループのA. Lanzara(UC Berkeley)による講演であり、もう1つは東北大高橋グループのT. Sato(Tohoku Univ.)による講演である。

 Lanzaraはキンクの同位体効果について講演し、O16とO18の試料によりキンクの位置がずれることを紹介した。このように、高温超伝導体において何らかの同位体効果があり、格子の自由度がキンクに関与していることは明らかであるが、それだけでは理解できないような分散関係の酸素質量依存性も見られている。たとえば、キンクより高エネルギー側で、分散関係はO16とO18で平行移動しているように見える。これはキンクが、そのエネルギーを持つフォノンとの電子格子相互作用によるものであると考えると理解できない点である。

 一方の佐藤は、Bi2212、Bi2201、電子ドープ系など、様々な物質についてARPESにおけるキンクを調べ、キンクは磁性起源のものであろうと結論した。たとえば、Bi2212ではキンクは antinodal方向のみであり、かつTc以下でしか見られない。また中性子散乱のresonance peakが見つかっていないBi2201ではキンクが見られないこと、電子ドープ系では、ホットスポット付近でキンクがみられる、などの証拠を挙げた。結論としては、キンクの問題に関して両者の決着はついておらず、今後の比較検討が必要であろうという感じである。

 Tcの同位体効果について、H. Keller (Zurich)が詳しい比較を行った。その結果は、やはり同位体効果は確かに存在するであろうということである。Tcは明らかにO16の試料とO18の試料で異なる。さらに、磁場侵入長の温度変化もT = 0まで同位体効果を示す。この後者の実験結果は、通常のBCS理論とは矛盾している。

 N. Tsuda (Tokyo Univ. Science)は電子格子相互作用の情報をトンネル・ジャンクションの実験から評価するという最近までの理論を紹介し、それから様々な物理量がうまく導き出せることを議論した。また異常な温度依存性を示すフォノンモード(ソフト化)について、L. Pintschovius (Karlsruhe)が中性子散乱を、J. Mizuki(Spring8/JAERI)が非弾性X線散乱を、H. Uchiyama (ISTEC)がHg系について発表した。とくにオーヴァードープ領域で、ソフト化が消失し同時に同位体効果もほとんどゼロになることが示された。またN. L. Saini (Roma)はEXAFSによる局所的なCu-Oの変位を示した。

 結局、現在の実験結果はフォノンがなんらかの役割をしていることを示している。今回講演はほとんどなかったが、ストライプ状態もその1つであろう。ただし、フォノンが高温超伝導の主要なメカニズムであるかどうかは、いまだ上明である。今後、ドーピング依存性、温度依存性などを詳しく見ていく必要があると思われる。高温超伝導体では、今までの研究から、擬ギャップや hot spot, cold spotなど(π,π)の波数を持つ励起(現在の理解では反強磁性ゆらぎ)が重要な役割を示していることが明らかになっている。フォノンによって、この特徴的な波数の励起があるのかどうかが今後の焦点であろう。

2)新しい超伝導体群:もう1つの焦点は、ミニシンポジウム“A New Turn of Strong Correlation Physics”として行われた、様々な新しい超伝導体であった。

 まずMgB2であるが、プレナリー講演でD. C. Larbalestier(Wisconsin-Madison)が、電気抵抗の高いMgB2において非常に高いHc2(33T)を見出したとして話題を呼んだ。またMgB2については2種類の超伝導ギャップがあると考えられており、それについてS. Tsuda(ISSP)が2種類のフェルミ面と2つのギャップの話、Y. Ohashi(Tsukuba)が理論的に2つギャップがある場合の状態密度を議論し、S. Lee(ISTEC)はBをCに置換することによって、化学圧力の効果以上のものが見られたとした。

 次に、βvanadium bronzeについてY. Ueda(ISSP)が現在の実験のレヴューを行った。8GPaの圧力をかけて、電荷秩序状態が抑圧された後に9Kの超伝導が発現する。この超伝導が、電荷ゆらぎによるものか、反強磁性ゆらぎによるものか注目される。

 J. D. Thompson(Los Alamos)は、PuCoGa5の結果を紹介し、スピンゆらぎの理論によって理解できるであろうということを議論した。結局スピンゆらぎの特徴的な温度スケールT_SFをコントロールすることにより、CeCoIn5とPuCoGa5の違いが理解できるであろうと結論した。

 NaxCoO2は2002年に見出された超伝導であるが、これについてK. Takada(NIMS)が現状を紹介した。とくにBr2を用いることによりbilayer-hydrate相を作ることができることを示した。とくにTcが4.5K以外に2Kの相があるかもしれないことを報告した。

 PrOs4Sb12のスクッテルダイトの超伝導に関して、K. Izawa(ISSP)は磁場中の熱伝導度の実験から超伝導に2相あることを示した。この物質はPrを含む重い電子系の超伝導体であり、4重極のゆらぎによる超伝導ではないかということで注目を集めている。

 λ(BETS)2 FeCl4に関して、S. Uji(NIMS)がJaccarino-Peter効果という観点から整理して紹介した。この物質は磁場をかけることにより超伝導が発現するが、これはFeイオンが作ってしまう内部磁場を外部磁場がキャンセルするというメカニズムによるものではないかと考えられている。さらにClをBrに置き換え、負の化学圧力をかける事ができることを議論した。

 I. Yamada(Inst. Chemical Research, Kyoto)は高圧合成によりCa2CuO2Cl2+δを作製し、Tcが38Kにもなることを示した。またN. Musolino(Geneve)は高濃度PbドープのBi2212系を作製し、modulation freeの試料であることを紹介した。

 このように様々な超伝導体が最近続々と発見されてきている。それらは、それぞれ種々の物理現象と結びついているようである。例えばフォノン、電荷ゆらぎ、軌道ゆらぎなどである。いまのところ統一理論は存在しない。今後はもちろん室温超伝導しかないといえる。

3)高温超伝導体の物性:高温超伝導体の物性に関しても精密な実験結果が蓄積されてきており、新しい観点からの実験についての講演があった。

 I. Terasaki (Waseda, CREST)は熱電能の実験からdm/dTが求められることを示し、モット絶縁体近傍での電荷のダイナミクスを議論した。これは、今までの手法をうまく利用すれば新しい情報を得ることができるという非常に興味深いものである。

 H. Kitano (Komaba, Tokyo)はマイクロ波吸収による光学伝導度を求め、超伝導ゆらぎとともに、異常なω依存性があることを示した。この物理的原因についてはわかっていない。

 T. Sasagawa(Adv. Mat. Sci., Tokyo, JST)は異方的な圧力下での実験を示し、ストライプ状態が一軸圧力によってコントロールできることを示した。

 ジャンクションの実験については、T. Nojima (Tohoku)がYBCO/LaAlO3/LmnOのジャンクションにより、スピン偏極させたキャリア注入について紹介し、Y. Asano (Hokkaido)はゼロエネルギーピークの分裂に関する理論の紹介を行った。

4)理論:理論については、K. Kuroki(Univ. Electro-Communications)およびT. Yanagisawa(AIST)は、ハバードモデルを用いることにより高温超伝導のd波がうまく説明できることを示した。ただし、d波以外の場合には、3次摂動の理論と量子モンテカルロの結果は食い違っている。擬1次元系では、繰り込み群の計算ではp波が指摘されているが、量子モンテカルロにおいてはf波かd波が出るとされている。今後の詳しい発展が望まれる。

 M. Kohno(NIMS)はハバードモデルにおける電荷自由度を議論し、Tachikiらによって議論されているオーヴァースクリーニングの効果があることを示した。

 一方のt-Jモデルの立場からの講演は、T. Tohyama(Tohoku)およびK. Tsusui(Tohoku)によるものがあった。擬ギャップの問題、およびRIXSの実験に関する理論について、t-t’-Jモデルにより実験とコンシステントな結論が得られることが示された。

 最後に今回の会議の全体をまとめると、未だに(または新たに)答えるべき疑問が数多く存在し、それらが整理されてきたといえる。1つはフォノンの役割である。また今会議ではあまり議論がなされなかったが、擬ギャップの起源についても残されている。擬ギャップが反強磁性ゆらぎによるものか、超伝導ゆらぎによるものか、d-density waveと呼ばれるものによるものか、ストライプ上安定性によるものか決着がついていない。また、STSで見られている上均一の問題も残されている。

 これ以外に新しい超伝導体を見つける努力は引き続き行われている。最近、立て続けに発表された新超伝導物質の発見を見ていると、今後の発展が非常に楽しみである。

(東京大学:小形正男)

2. 線材

 Wire & Tapes/ System application のセッションではオーラルで30件、ポスターで95件と多くの発表があり非常に活発な議論が行われた。中でもREBCO系の次世代線材の発表が数多くあった。ここでは次世代線材のプロセス関連を中心に主な発表をまとめる。

 REBCOを二軸配向させて高Jc化させるために必須条件となる中間層の二軸配向化手法としては,IBAD中間層とNi基の配向基板を用いるものが主に報告されている。

 IBAD中間層の主な発表としては、Arendt氏(LANL)が、IBAD-MgO層を形成する前に無配向Ni合金基板上にAl2O3を成膜することによる酸素拡散防止効果について報告した。従来法ではNi合金基板上の初期層としてY2O3やSiNxを用いていた。これでは上十分であったがAl2O3は有効とのことである。IBAD-Gd2Zr2O7 (GZO)に関する報告はフジクラ、SRLにより報告が行われている。飯島氏(フジクラ)により報告されたイオンアシストビームの直進性についての検討結果から、現状の検討の範囲においては、ビームの広がりによる配向性の低下は見られないようである。また、CeO2(PLD)/Gd2Zr2O7(IBAD)の長尺化については室賀氏(SRL)らにより報告が行われ、Gd2Zr2O7上の高配向キャップ層としてはSelf-Epitaxy法によるCeO2が最も適しており、CeO2層が高配向した55m長の長尺基板テープを高速成膜することに成功したと発表した。YBCOの成膜については各種プロセスで検討されている。PLD法ではArendt氏(LANL)が、5mm厚の高Jc厚膜をIBAD-MgO上に成膜し、1000A/cm-w(@66K)が得られたと報告した。IBAD-Gd2Zr2O7上では飯島氏(フジクラ)が100m長線材作製に成功し、end-to-endで33AのIcを得ている。また鹿島氏(中部電力)はCVDを用いて、1m長テープで40AのIcが得られたと報告した。非真空プロセスであるTFA-MODを用いた検討では、和泉氏ら(SRL)がCeO2キャップ層つきのIBAD基板を用いて0.25m長で約200A (@77K)のIcを得ており、さらに短尺では292Aの高Icを報告している。

 配向Ni系基板を用いた検討では従来多数の合金が報告されてきたが、今回はNi-W合金を用いた検討結果が主に報告されていた。Rupich氏(ASC)はこの合金テープを用いてTFA-MOD法により10m長のYBCOテープを作製し、end-to-endで184A/cm-wの高いIcを得たと報告した。また、中間層、超電導層をMOD法で作製するALL-MODプロセスについてはParanthaman氏(ORNL)よりCeO2/La2Zr2O7/Ni-W基板上で0.6MA/cm2のJcが得られており、また長谷川(昭和電線)により、Ni系テープ上にMOD法で形成したNb添加Ce-Gd-O中間層によるJc特性の改善効果が報告された。

 全般的に、国内外において短尺試料での高特性化が進み、数10m級線材へのスケールアップのステージに移行しつつある。今後さらに長尺化、高特性化が進むと思われ、電力ケーブル、SMESなどの実用化に向けた検討が本格化することが期待される。

(昭和電線:高橋保夫)

3. バルク/システム分野

 今回のISSでの発表を大きく分類すると、材料の基本特性向上に関する報告が1/4、評価技術に関する報告が1/4で、残り1/2がバルク応用に関する報告であった。本節では、材料を中心にその概要を報告する。

 材料特性向上に関しては、原料として微粉砕したRE211粒子を用いることや、ZnOやZrO2添加することでJcの向上が報告された。特に(Nd,Eu,Sm)123系においては、77 Kで数十万A/cm2、液体酸素中(90 K)においても数万A/cm2の臨界電流密度に達し、液体酸素中での浮上やフィッシング効果などの実験も示された。また、バルク体に捕捉される磁場の大きさも向上しており、Gd123系においては、77 Kで3 Tを超える捕捉磁場を記録した。また、樹脂含浸と金属含浸を組み合わせて機械的特性と熱伝導を高めることにより、29 Kにおいて17 Tを超える磁場をY123系材料に捕捉させることができた。

 評価技術では、小型磁石とホール素子をバルク表面でスキャンさせることにより、バルクの上均一性を評価するマグネトスキャンという手法が興味深かった。得られる情報は表面近傍のみであるが、ホール素子の有効面積を小さくし、かつ試料との距離を狭めることにより、比較的微小領域の計測にまで使用可能と考えられる。また、着磁の際の発熱に関する報告もいくつか見られた。バルク体に磁場を捕捉させる際、超電導体内での磁束の運動により発熱が生じる。この発熱は高磁場を印加した場合やパルス着磁の際に特に顕著であり、時に数十度にも達する。ここでは、主に熱の発生箇所や磁場との挙動などについて議論されていた。

 バルク体応用に関しては軸受け等基礎的な研究が数多く報告されていた。その内、磁気分離は分離効率が高く各種フィールドでの実用化が期待される。また、マグネトロンスパッタリングへの応用も、従来の装置ではできなかった材質や細孔への成膜が可能であるなど、超電導体利用ならではの特徴を有しており非常に面白かった。

(超電導工学研究所:坂井直道)

4. エレクトロニクス

 薄膜・デバイスの分野では薄膜、接合技術、量子計算、デジタル応用、SQUID等をはじめとして116件の発表があった。薄膜、接合技術等の分野でも興味ある発表や重要な発表が多数あったが、紙面の都合上、デジタル応用およびSQUIDの分野に絞って、特徴的な発表と傾向を以下に纏めた。

 LTS-SFQ回路の開発に関しては、米国でHTMT用マイクロプロセッサ6万JJ規模のFLUX-1、および0.8mmルールのFLUX-2が作製されているが、未だチップ全体の動作は確認されていない(Northrop Grumman)。国内ではNEDOプロジェクトのもとで、セルベースデザインに基づいて5000JJ規模のマイクロプロセッサ(横国大等)、2000JJ規模の2x2クロスバースイッチ等が確実に動作し(SRL)、それぞれ高速動作が実現されている。とくに後者は50GHzでの高速動作をオンチップで確認している。さらにこれらSFQ回路の作製に用いられた標準プロセスの上位プロセスとして、平坦化技術を援用して電源線1層と、配線層2層を付加した超電導層6層構造のプロセスを実現している(SRL)。この技術がSFQ回路に適用できれば、さらに高集積化が実現できると期待される。

 米国ではローパスのD-Sモジュレータだけでなく、ソフトウェア無線等を狙いとするバンドパスのD-Sも開発されている(IBM、Northrop Grumman )。光信号をクロック源とし、1:4DEMUXおよびカウンタを組み込んだ4065JJの構成で、中心周波数2.23GHz、バンド幅20.8MHz、SNR49dBを得ている。目標はバンド幅200MHzで精度14bitとしている。チップ間信号伝送用に半田バンプを用いたMCM技術では、容量等の微妙な調節によって、250GHzのバンド幅が可能なことが示された。周波数依存性を避けるため、チップ間信号伝送のドライバー側にDFQ(Double Flux Quantum)を用いる回路構成が提案された。国内でもa-Geとフラックスフロー・トランジスタを組合せた光入力が検討されている。a-GeとAu膜の接続では1psのパルスの短パルスとなるが、a-GeとYBCO膜では3ps以上に伸びる。

 64チャンネルのNb-SQUIDは心磁計として、多数の被験者の臨床診断データを得ている(日立)。健常者と心室粗動や心房粗動を示す被験者の間で、心磁波形の違いとしての相関が高い確率で得られている。これは心磁波形を2ヶ所に区分した場合の時間積分の差異(long QT syndrome)として捉えられている。16チャンネルの酸化物SQUIDは可動で簡易型の磁気遮蔽を装備し、雑音を抑えることによって実時間計測を狙っている。SQUIDを用いた地質調査やオーストラリアでの鉱物資源探査の実例が紹介された(CSIRO)。韓国におけるSQUID研究開発の現状が紹介されたが、Nb系接合技術の開発が日本より10年近く遅れたにもかかわらず、現在では3ヶ所の研究機関でSQUID装置を製作でき、10ヶ所の研究機関でSQUIDを用いた研究を進めている(KRISS)。この中には施術前後の心磁波形の計測を含む心磁計測が多額の予算を得て進められている。酸化物系SQUIDの応用として、ポリマーに埋め込んだ直径25nmのFe2O3微粒子をマーカに用いた抗体反応の計測(九大)、注射針など金属残留物の食肉への混入の有無を調べる装置の構築と試験(豊橋技科大)、微小動物の心磁を計測する試み(北大)など、実用に向けた試みが紹介された。

(超電導工学研究所:樽谷良信)