SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.6, Dec. 2003

1. 世界最高の60kA級HTS電流リード開発に成功
*ITERでの使用に目処
_日本原子力研究所_


 日本原子力研究所は、トカマク型核融合炉の超伝導コイルに用いる電流リードに高温超伝導体を応用する研究を進めてきた結果、世界最高の60kAを通電できる高温超伝導電流リードの開発に成功した(図1)。この性能は国際熱核融合実験炉(ITER)での使用要件を満たすものである。

 電流リードは、極低温(4K)に置かれた超伝導コイルに室温から電流を供給するための電気機器で、超伝導コイルの安定な運転に上可欠のものであるが、従来方式の銅線を用いた電流リードでは約300Kの温度差による熱侵入が大きく、新しい電流リードの開発が期待されていた。高温超伝導体を用いることにより熱侵入が軽減できることから、数百A級高温超伝導電流リードは早くから実用化されていたが、60kA級の大電流化にはいくつかの技術的課題があった。

 この課題とは、自己磁場による臨界電流の低下対策、大電流による接続部の発熱低減、クエンチ等異常時の温度上昇抑制である。今回開発した新型電流リードでは、次の方法で技術課題を克朊し、60kAを安定して通電することに成功した。

①銀合金シース型ビスマス系高温超伝導テープ線材を円筒状のステンレス鋼管の溝に埋め込む構造を考案し(図2:特許申請中)、超伝導臨界電流値を低下させる磁場成分(テープに垂直方向で電流値に比例)を抑制するとともに、異常時の温度上昇の抑制に成功した。

②電流リードの銅線部と高温超伝導部の接続部には機械的な強度を確保するため溶接構造を採用したが、この部分は比較的電気抵抗が高くなり、大電流化による発熱が問題であった。溶接部を限られた空間で最適分割することで、実効的な電気抵抗の低減に成功した。

 本開発では、先ず10kA級電流リードを試作して①を実証し、今回②の工夫により、さらなる大電流化を図り、ITER超伝導コイルに必要な60kAの電流を流すことができる電流リードの開発に成功した。60kA通電時の条件は、HTS部最高温度:40K、HTS部磁場:1220G(周方向、テープ面に平行)320G(半径方向、テープ面に垂直)、銅部冷媒供給温度:20K、銅部冷媒流量:3.37g/sである。60kA通電では、電流リードを冷凍するための消費電力を従来方式の約1/3に低減できたことも実証した。超電導磁石研究室長奥野清氏は、「高温超電導体で大電流応用の実用化ができたことが大きな成果である。核融合のみならず、現在開発が進められている電力貯蔵システムなど大電流を必要とする分野で、高温超伝導体の応用を加速するものと期待する《とコメントしている。


図1 開発した高温超伝導電流リード


図2 大電流化のために考案した高温超伝導部の構造

(GP7)