SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.5, Oct. 2003

9. 第6回欧州応用超伝導学会(EUCAS2003)報告


 9月14日から18日まで、イタリア、ナポリ郊外のソレントのヒルトンホテルにおいて、表題の学会が開催された。ソレントは歌でも良く知られる、地中海岸の風光明媚なリゾート地で、温暖な気候の下、丘にはレモン畑が広がるのどかなところで、意外なほど治安も良かった。近くのカプリ島に息抜きに出かけた参加者もかなりいたようである。

 さて、隔年開催のEUCAS会議であるが、今回の参加者は800~900吊程度と、相変わらず欧州最大の盛況ぶりであった。プログラム上の発表件数は13件の基調講演を含めて955件で、うちエレクトロニクス関係が35%, 線材、磁石関係が同じく35%、システム応用が12%、MgB2関係が7%強で、その他(約11%)には、物質、磁束、RE123バルク育成などが含まれる。

 本会議はMüller教授 (チューリッヒ大)の超伝導対称性の最近の理解に関する基調講演に始まった。相変わらずの矍鑠とした講演で、本会議の趣旨に合わせるため少し無理気味に応用を意識してのコメントも添えられた。また、Chu教授(ヒューストン大、香港科技大)は基調講演で液体水素を使っての超伝導応用が有望であることを強調した。将来、燃料電池の普及によって水素の需要が増し、供給基地、輸送ラインができるなど液体水素が現在より劇的にポピュラーになることを背景とした議論で、もちろん超伝導材料の特性が液体水素温度(20.3K)ならば広い応用に十分であることも発想の起源になっている。

 Coated Conductorの製造方法や特性、微細組織に関しては、本号の特集と重複するので省略するが、欧米と比べて日本のプロジェクトの特徴は開発長さ(100m)と、中間層の短時間育成に表れている印象を受けた。なお、世界最高級の特性を示す導体を開発し会社も設立したFreyhardt教授(ゲッチンゲン大)によれば、現在の技術で100m長の導体で400~700A/mm2のJeが実現可能なレベルにあり、コストについては2005年に50ユーロ/kAm、2010年に10~20ユーロ/kAmを目指したいとのことである。

 Bi(Pb)2223線材については、最近AMSC社の製品がIcの点で優位に立っているが、今回、特にintergrowthとして存在するBi(Pb)2212相を減らすことが高Jc特性発現のキーになっていることが指摘された。なお、展示コーナーでは中国のInnova Superconductor Technology社が1km長のBi(Pb)2223導体を置いて盛んに宣伝していた。Icの点では77K、自己磁場下で90A程度ではあるが、価格が気になるところである。

 Bi2223相の大型単結晶は、NTT基礎研でフローティングゾーン法によって作製されて以来、東大でも生産できるようになっていたが、ジュネーブ大のFlükiger教授のグループはこれに続いたばかりか、PbをドープしたBi(Pb)2223の大型単結晶の育成にも成功したことを報告した。原料棒にPbを加えるほか溶融帯の直下にPbOを入れたリング状の坩堝を置きこれを700°Cに加熱することによって溶融帯からのPbの飛散を抑制するというユニークな工夫を施し、Biサイトの11%程度をPbが置換した2223相単結晶を得ている。気になる臨界電流特性であるが、Pb置換によって逆に若干悪くなるという結果で、これについて発表者のGiannini氏は、「今回作製した単結晶ではPbの置換によって異方性が低下したことよりも結晶性が改善し欠陥が減ってしまった効果が大きいのではないか《と、コメントしていた。Bi2223単結晶は成長に3ヶ月も要することから、地震が多い日本では生産効率が極めて低く研究者を悩ませているが、スイスでの量産には期待できそうである。これに関連して、東大の杉岡らはレーザー集光方式のフローティングゾーン装置を開発し、高い温度勾配のもと、c軸がわずかに傾いた数十mm幅でa軸方向に長いドメインがb軸方向に並んだBi(Pb)2212単結晶が育成でき、従来のBi(Pb)2212単結晶よりも優れた臨界電流特性を示すこと、さらに大型のBi2223単結晶も2~3週間程度で育成できることを報告し、この発表には学会からポスター賞が与えられた。Bi2212コイルによる高磁場発生では新たな進展があり、19.85Tの常伝導磁石中で5.20Tの磁場の発生に成功したことが、Schwartz(米国強磁場研)により報告された。この内挿コイルは外径166mm、内径38mmのもので、内側の2層のパンケーキコイル、外にソレノイドコイルという3層のコイル構成になっている。20T級のバックアップ磁場下で5T強の磁界発生はもちろん最高記録であり、Bi2212コイルの超高磁場発生の可能性を具体的に示した成果である。

 RE123溶融凝固バルクについては、Eisterer (Atomic Inst. of Austrian Univ.’s)らがバルクの表面を少しずつ削りながら捕捉磁束密度分布を調べることによって内部のJc分布を評価した結果を報告した。種結晶からc軸方向に成長した領域がab面方向に成長した領域よりJcが低いことが明らかになったが、その原因は確定していない。211相の分布や濃度には明らかな違いがあるが、酸素欠搊と合わせて考察する必要があり複雑である。このほかCRISMAT-ENSICAENのNoudemらは、溶融凝固前のバルク焼結体にドリルで十数個穴を空けてから溶融凝固する新しい作製法を発表した。穴の大きさは1~5mmで、穴を設ける狙いは結晶成長時の応力による結晶性の低下の抑制と、後熱処理時の酸素拡散距離の短縮である。穴があるにもかかわらず種結晶から見事なシングルドメインの結晶が成長しており、臨界電流特性は穴を空けないものと比べて全く遜色ない。大型の溶融凝固バルク作製においては、酸素アニールに莫大な時間を要せず、また穴に低融点金属などを流し込むことによって機械的強化が可能であることから、かなり有望な手法と思われる。

 ナポリ大のGennaroらはMgB2の2つの超伝導ギャップを反映してボルテックスコアのサイズに2種類あり、25K以上の高温でピンニング力の磁場依存性が高磁場で変化することに影響していると説明した。このほか、MgB2への有効なピンニングサイトの導入に関しては、昨年Dou教授(Wollongong大)らが発見したSiCドープ効果が各所で確認されたほか、極微量のAl置換も有効であるとの報告もあった。MgB2線材については、2社が展示を行っており、Columbus Superconductor社(イタリア、ジェノバ)の200m長Niシース単芯テープや多芯丸線(最高55芯)が目を引いた。

 この学会は口頭発表が4会場パラレルで進行され、またポスター発表も各回150~200件に対して90分しか時間が無かったため、上記以外の重要な報告をかなり漏らしていること、ご容赦いただきたい。

(東京大学、下山淳一)