SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.5, Oct. 2003

7. 第8回誌上討論 「次世代線材開発プロジェクトの進展」


 Y系あるいはNd系(HTS)厚膜テープは高温磁界特性が本質的に優れ、次世代線材の最有力候補と目されており、日米欧で世界的な開発競争が繰り広げられている。本厚膜テープ製造法の先鞭をつけたのは日本勢だが、米国勢はそれを急追して高性能厚膜テープ(短尺)の開発に成功している。最近では、日本勢がそれを巻き返し、さらに欧州勢が加わるという展開である。当SUPERCOMでは、3年前に「次世代線材プロジェクト」(本誌Vol.7, No.1に掲載)を取り上げたが、今号ではこの間の進展をNEDOが推進する「超電導応用基盤技術研究開発」プロジェクトを中心にレビューし、今後実用化に向けての展望について討論したいと思う。

 今回の誌上討論参加者は、本線材開発プロジェクトに参加している次の24吊の方々(敬称略・氏吊50音順)である。

  青木裕治 昭和電線電纜技術開発センター・主査
  秋田 調 電力中央研究所狛江研究所・電気物理部長
  雨宮尚之 横浜国立大学大学院光学研究院・助教授
  飯島康裕 フジクラ材料技術研究所・主査
  石山敦士 早稲田大学理工学部電気/情報生命工学科・教授
  和泉輝郎 超電導工学研究所線材研究開発部・主任研究員
  岩熊成卓 九州大学超伝導システム科学研究センター・助教授
  鹿島直二 中部電力電力技術研究所・主任研究員
  木須隆暢 九州大学大学院システム情報科学研究院・助教授
  齊籐 隆 フジクラ材料技術研究所・金属材料開発部長
  佐伯正治 国際超電導産業技術研究センター・調査企画部長
  坂井直道 超電導工学研究所材料物性研究部・主任研究員
  塩原 融 超電導工学研研究所・線材研究開発部長(次世代線材開発プロジェクトリーダー)
  菅原義弘 ファインセラミックスセンター材料技術研究所・主任研究員
  田島節子 超電導工学研究所・材料物性研究部長
  田中靖三 国際超電導産業技術研究センター・標準部長
  中里克雄 超電導工学研究所・開発研究部長
  長屋重夫 中部電力電力技術研究所・超電導グループ長
  藤野剛三 SEI住友電気工業エネルギー環境技術研究所・主査
  本庄哲吏 超電導工学研究所線材研究開発部・主任研究員
  前田敏彦 古河電工研究開発本部メタル総合研究所メタル加工品開発センター・主査
  安田健次 超電導発電関連機器・材料技術研究組合・交流機器技術部長
  山田 穣 超電導工学研究所吊古屋超電導線材開発センター長
  渡部智則 超電導工学研究所吊古屋超電導線材開発センター・主任研究員

1. 高性能長尺線材プロセス開発

Q1:先ず初めに①IBAD法による本研究の必要性と狙い(目標)について簡単に述べていただきたい。次いで②従来の経緯と現在の到達点(Jc, Ic, 長さ、製造スピードetc.)③今後の課題とその対応策(Icアップ、スピードアップ、歩留向上etc)④日米欧の対比と実用化に向けての展望(試用計画、実用時期)等についてお伺いしたい。

 山田さんには本研究の狙い①に答えて頂き、飯島さんと渡部さんは、各々フジクラとSRLの立場から設問②~④にお答えください。

A1-0:本研究の狙い(山田)

 皆さんご承知のようにすでにフジクラでは、本方法により100mの長尺化に成功しており、長さの点で最も実績のある製法である。米国のロスアラモス研、IGC社、ドイツのゲッチンゲン大学でも数mから10m級の線材作製に成功している。すなわち、長尺化の点では最も有望な手法であり、長尺化によるYBCO線材の実用化を目指す本プロジェクトでは、プロジェクト全体の牽引役となることを要求される。

 このプロジェクトでは、本グループはフジクラ、SRLからなり、IBAD法により金属基板上に配向性の酸化物中間層を作り、その上にPLD法によりYBCOの超電導層を作製して線材化を実施するが、上記の点から、長尺化の安定製造と高特性化を第1の目標として開発を進める。また、本方法の改良すべき点として、製造速度が遅いことが上げられる。IBAD法の工程では、0.5-1m/hrで、PLD法で1m/hr程度である。今回のプロジェクトでは、この点も改良すべく、種々検討を行う。すでに、SRLからPLD法セリア蒸着(セルフエピタキシー)で中間層の作製時間が従来のIBAD法の数分の1になるとの実験結果も出されており、着々と成果が上がっている。

 さらに本方法によるIBAD基板は、優れた配向度をもっており、安定して長尺化が可能であるので、この基板を用いて低コスト長尺線材グループの製法開発にも協力する。

 ご承知のようにIBAD法には、以下の大きなメリット、特徴がある。1)イオンアシストによる結晶配向技術は、フジクラで発見された日本独自の技術である。2)これを高速化、高配向化できるPLDセリア技術もSRLで発見された日本独自の技術である。この2つは、将来の産業化を考えた際には、日本の国家プロジェクトとして技術開発を進める意義が大きい。また、3)結晶粒が数十nmと小さく、km級になる長尺線材でのパーコレーションによる電流の減衰が小さい。4)PLD法もIBAD法も原理的には非常に単純な方法であり、他の製法に比べて調整すべき実験条件は少ない。これらのメリットを生かしながらプロジェクトで開発を進め、今度の最大の問題である安定長尺製造、製造速度向上(コストダウン)を行っていく。

A1-1:フジクラの取り組み(飯島)

 IBAD法は世界で最初に提案された次世代線材の構成方法であり、基本特許を日本が有しているという点で世界的な開発競争において有利な展開を可能としている。現在ではたくさんの次世代線材構成方法が知られているが、本方法は金属テープの結晶粒界の影響をほとんど受けない利点があり、安定して高特性を得るという点において極めて有効である。過去においては酸素雰囲気で長時間使用可能なイオンソースの製作が困難であったが、近年大型で長寿命のイオンソースが開発可能になり、100mを越える線材開発が可能となってきている。これまでに当社で作製した長尺線材としては、Jc =0.6MA/cm2, Ic =74A, 長さ46m、及び、Jc =0.8MA/cm2, Ic =38A, 長さ100mに達し、Icと長さの積として3800Amが達成され、線材として最低限必要な長さを示し得る段階に近づいている。長さについては、機器に適用するのに必要となる500m級の開発が十分見込めるようになってきた。今後はJc及び膜厚の向上が必要だが、昨年SRLにてCeO2キャップ層形成によりJc特性が改善できることが示されて、当社においても短尺線材でJc =2.9MA/cm2を得、Icについては実通電で190Aに到達している。長尺線材においても、80m長ほぼ全長でJc =1.6MA/cm2が得られることを確認した。

 IBAD法において今後最も大きな課題となるのは生産速度である。現在当社では中間層、超電導層ともに概ね1m/h程度で生産しているが、実用的な生産速度とするには概ね5~10倊程度は引き上げる必要がある。当社はかつて使用していたYSZに比べ配向速度が速いGd2Zr2O7中間層を見出しているが、前述のCeO2キャップ層による配向性向上技術はこの点でも大いに助けになると考えられる。超電導層の形成においては当社はPLD法を用いているが、PLD法も生産速度向上が最大の課題となっている。これについてはこれまでに培った知見に基づき原料収率と生産速度を大幅に改善する工夫を検討している。

 以上、当社における現時点でのIBAD法線材開発の取り組みを簡単に述べたが、今後実用化に至るためにはより一層のIc特性向上、生産速度の向上によって通電電流あたりのコストを下げることが求められている。これらの点については海外においても活発に研究が進められており、米国ロスアラモス研においてはMgOを使用することで中間層を薄くすることに成功し、Y-123膜の高膜厚化による特性向上についても独逸のゲッチンゲン大、及び米国ロスアラモス国立研において3mmを越える厚さにおいてJc >1MA/cm2を維持し、1cm幅あたり400Aを越えるIcが報告されるなど、今後日米欧の開発競争にさらに拍車がかかるものと予想される。

A1-2:SRLの取り組み(渡部)

 超電導工学研究所吊古屋高温超電導線材開発センターでは、昨年11月に大型のIBAD装置を、今年2月に大型のPLD装置を導入し、長尺線材作製技術開発に注力する体制が整ってきた。IBAD装置導入ではフジクラにご協力をいただき、現在は長尺線材作製と、実製造に有益な線材作製技術の開発を当センターの目標として日々、努力しているところである。現在までに「セルフ‐エピタキシー」と呼ばれる、IBADバッファー層上に極めて高度に2軸配向した平坦なCeO2第2中間層を従来のIBAD層より短時間にPLDで形成することを可能にした手法を開発した。この手法により、IBADプロセス1m/h、PLD-CeO2で5m/hの組み合わせでDf (面内配向度)半値幅7~9°、長さ55mの中間層を形成した。また、PLD-CeO2層を第2中間層とした配向基板は、PLDのみならず非真空プロセスの超電導層形成にも使用が可能で、プロジェクトには基板提供という形でも貢献している。YBCO超電導層は、厚さ1mmまで成膜した短尺試料でIc =100Aを達成し、Jc =4.4MA/cm2もYBCO層の厚さは薄い試料ながら達成した。長尺化に関しては、10m長に渡って前述の中間層上にYBCOを成膜して高度な2軸配向を得たものの、通電特性は今後さらに改善が必要である。

 プロジェクト目標の達成に向けてセルフエピタキシャルPLD-CeO2による高Ic、高速化の技術開発を進めているが、最大の課題は超電導層の高Ic化と長尺化の両立、すなわち長尺の通電特性を向上することである。現在、YBCOの長尺成膜条件の適正化を図るとともに、基板両面に超電導層を形成し、線材全体でIcを増大させることも検討しており、IBAD中間層を10m程度金属基板の両面に形成する技術を既に開発した。また、IBAD中間層の形成速度が1m/h程度であるため、線材作製速度の向上も大きな課題である。前述のPLD-CeO2層はIBADプロセスに比して高速成膜が可能であることから、我々はIBAD層の厚さを減じ、PLD-CeO2層の中間層に占める比率を上げることで高配向を維持して中間層全体の成膜速度の向上を図っている。

 IBAD基板は米国ではロス・アラモス国研、欧州ではゲッティンゲン大学が中心に開発を進め、10m級の線材を開発している。IBADとPLDを組み合わせた線材作製プロセスは、現在長さや安定した特性を得る上では最も進んだプロセスといえる。我々の開発している線材は超電導交流基盤プロジェクトで機器応用に向けた評価を実施していただく予定になっており、応用機器の観点で線材を評価する段階に移行していくことは実用時期が近づいてきたことを示すと考えている。

2. 低コスト長尺線材プロセス開発

Q2:最初に①本研究の必要性と狙い(目標)について簡単に述べていただきたい。次いで②従来の経緯と現在までの到達点(Jc, Ic, 長さ、製造スピードetc.)、③今後の課題とその対応策(Ic, スピード、歩留アップ)、④各製法の特徴及び可能性(特にコスト面)、⑤日米欧の対比と実用化に向けての展望等についてお伺いしたい。

 和泉さんには本研究の狙いについて述べていただき、前田さんは主として配向金属基材技術開発について、青木さんはMOD技術開発について、本庄さんはSRLの取り組みについて、鹿島さんはMOCVDについて、藤野さんはHoPLD高速成膜についてお答えください。

A2-0:必要性(和泉)

 本プロジェクトでは、プロセス開発の一つの柱としてこれまでの実績に基づいて上述されたIBAD-PLD線材が選択されている。同法は、高配向性と共に細粒であり長尺高特性の観点からは優れた線材であることは周知の通りであるが、製造速度やコストの観点から見ると課題が多いのも事実である。もちろん、長尺線材が実現できればSMES等の高付加価値応用への展開は可能になると考えられるが、例えばケーブル等のそれほど磁場中等での高特性は望まないがコストが低くなければいけない応用に対しては、その要求を満たすにはハードルは非常に高いと言わざるを得ない。ここに、低コスト長尺線材プロセス開発の必要性がある。広い分野での実用化を目指して、これまでプロジェクト内外で取り組まれてきたプロセスの中から、低コスト(特性及び長さ当たりのコスト:円/Am)が期待できるプロセスを厳選し、絞り込んだ最適な組み合わせにより、もう一つの柱である低コスト長尺線材プロセスを確立する事が目的となる。ここでは、適当な競争と協力のバランスを必要とする研究体制が必要となる。ステップとしては、当初2年で上述の絞込みを行い、後半の3年間で500m級線材装置を開発し、目標達成を目指すことになる。

A2-1:配向金属基材(前田)

 二軸配向Niテープをcoated conductorの基材として用いる手法は米国のオークリッジ国立研(ORNL)を中心に研究開発が進められてきたが、日本では金属基板に配向性を必要としないIBAD法(フジクラ)やISD法(住友電工)による開発が主流となっていた。古河電工では、第I期超電導応用基盤技術開発プロジェクトの中で、配向金属基板とそれを用いたYBCO線材の開発を、SOE(Surface Oxidation Epitaxy;表面酸化エピタキシー)法を中心に進めてきた。基板の製造長としては、純Ni配向基板、SOE基板ともに100 m級の作製が可能となった。

 線材特性の面では、第5回誌上討論(2000年8月)の段階でSOE基板を含めたNi配向基板上で1 MA/cm2以上のJc(77.3 K)は得られていなかったが、その後SOE-NiO層上の酸化物キャップ層としてPLD-BaZrO3を採用することで、短尺ではあるがPLD-YBCO層のJcとして1.3 MA/cm2を超える値が得られた。10 mm幅のテープでIcは137 A以上であり、特性面ではほぼ実用的な値に到達した。

 第Ⅱ期超電導応用基盤技術開発プロジェクトでは古河電工は「基板技術開発」を担当し、従来のNi配向基板の課題を解決し、長尺基板を低コストで作製する技術開発を行う。そのためには早期に基板材質や加工法などを絞り込む必要があり、プロジェクト内各機関との緊密な連携のもとで開発を進める予定である。純Ni配向基板では面内配向度を示すDf の値で7~8°とほぼ充分な高配向度が得られている。しかし、機械的強度が上充分であるとともにその強磁性が交流搊失の増大の原因となるなどの問題点が指摘されており、Ni-Cr、Ni-V、Ni-W 等の合金テープ化やNi-Cr合金などの高強度コア材のNiクラッド化等の手法による高強度化と低磁性化の実現を図っている。本質的にコスト面で優れた手法であるSOE法については、長尺高配向化と合金基板、クラッド基板での高配向性の維持が課題と考えられ、その解決のために、現在明確には理解されていないNiO表面酸化層のエピタキシャル成長メカニズムの検討を進めている。さらにSOE基板も含めた配向基板全般の今後の開発課題としては、配向度の向上は言うまでもないことであるが、それに加えて表面平坦度の向上、結晶粒の微細化などが JcやIc向上に向けて重要となるものと考えられる。

 次に米欧の状況であるが、配向基板を用いた線材開発では特性面で米国が一歩リードしている感があり、Ni-W 基板を用いた開発がORNLを中心に精力的に進められ、100~200 A/cm-width級の数m長線材が作製されている。しかし多くの場合非常に複雑な多層バッファ構造を採用している点が問題と考えられる。欧州における最近の注目すべき成果としては Ni-W 基板上の単一CeO2バッファ線材における高特性線材の開発が挙げられる。ENEA(伊)によるPLD-YBCO(0.3 µm)/PLD-CeO2/Ni-Wで1.2 MA/cm2(Varesi et al., Supercond. Sci. Technol. , 2003, 498.)の後、ごく最近のEUCAS2003では同じくイタリアのEDISONから単一CeO2バッファ層上の YBCO層(共に蒸着法)でJc = 2.6 MA/cm2(Ic = 220 A/cm-width)が報告されたようである。

 我が国における配向基板を用いた線材は、現状では特性や線材長の面でIBAD法線材の後塵を拝している。しかし、配向基板線材の評価は多くの場合PLD-YBCO線材について行われている。今後はall-Japan体制のもと、基板、バッファ層、超電導層等の最適プロセス組み合わせが追求されていくことになり(例えば、昭和電線によりall-MOD線材の開発が進められる)、その結果としてより高い特性を有する配向基板線材の低コスト製造プロセスが実現されるものと期待している。

A2-2:MOD法(青木)

 MOD法は、有機金属塩を含む原料溶液を基材の表面に塗布した後に焼結する事で結晶化させ、薄膜を得る手法である。唯一の障害と考えられていたYBCOの結晶を熱処理プロセスのみで如何に基板面内に対して配向させ得るかという問題も、原料にTFAを使用する事で簡便に配向膜を得る事ができ、短尺試料であればMA/cm2を越えるJcを持つ膜の作製は当初考えていたよりも容易にできる事がわかっている。

 国内では、SRLと昭和電線がTFA-MOD法による線材開発を担当している。昭和電線は配向Ni(合金)基板をメインにバッチ方式による長尺化の検討を行っている。それに加えて中間層もMOD法で作製する検討を行っており、All-MOD法が確立した暁には気相法による中間層を使用しない事からコストの面で非常に有利になると考えている。現状、中間層は長さ1mの配向Ni基板上にDf < 9°のCe-Gd-O膜ができており、All-MOD法の明が見えてきた所である。またバッチ式熱処理については、焼成時に線材を巻付けるドラムの場所に無関係に短尺試料でJc >MA/cm2級のものが得られており、焼成条件を上手く設定すればバッチ式熱処理でJc>MA/cm2で長尺線材の焼成が達成できると考えている。

 製造速度については、1mを越える試料が作製出来ていないので具体的な数字はまだ議論できないのではないだろうか。長さ的に10mを越える技術が確立すれば確度の高いお話ができると思う。

 バッチ式の熱処理については、電気炉内部に長い試料を入れて焼成してみる事が第1に考えられる。バッチ式熱処理の場合、Reel to reel方式と異なり炉内に投入する線材の量によって反応時に発生するHFガスの量が異なる為、長尺化に合わせた焼成条件を最適化する事が必要になるからである。

 また溶液の塗布時間が本プロセスの製造速度に影響する。単純に塗布速度を上げると厚塗りになってしまうので、溶液の金属含有量と粘度に合わせた塗布速度の調整が必要だが、製造速度の向上は可能と考えている。

 TFA-MODプロセスに関して正確なコストを予測する事は、現状難しいと思う。実用線材の作製に照らした製造設備のコストが算定できない事、原料溶液が試作品レベルの段階であり工業製品としての価格の落とし所が判らないからである。しかし、All-MODプロセスを確立する事ができれば、十分に線材コストを下げる事が出来ると考えている。

 従来、米国でも次世代線材の開発はIBADなどの気相法がメインであったが、線材コストの面からMODプロセスへの注目が高まっている。この数年は一般企業の設備投資が見込めない為に10~100m級の線材長で研究が推移するようだが、米国では100A級のIcが数多く報告されているので長尺化に本腰を入れた時が脅威だと考えている。中間層についてもオークリッジ研究所やサンディア研究所で精力的に行われており、米国に引き離されない様、早い時期に追着き長尺化が停滞している次期に凌駕できるよう努力したいと考えている。

A2-3:SRLの取り組み(本庄)

 超電導工学研究所線材研究開発部では、低コスト化が可能なTFA-MOD法によるY系酸化物超電導材料の線材化技術の開発に取り組んでいる。TFA-MOD法とは、フッ化物を含む(トリフルオロ酢酸塩:TFA)原料溶液を基材テープに塗布し、熱処理(仮焼・焼成)をするだけの簡便な非真空成膜プロセスであり、パルスレーザ成膜(PLD)法など気相からの成膜プロセスに対して大幅な低コスト化の実現が期待されている。その基材テープには、多結晶のハステロイ合金テープ上にIBAD法により面内配向を有したGd2Zr2O7中間層を形成し、その上にPLD法によりCeO2中間層を形成したテープを使用している。我々は開発初期の段階において膜厚0.15µmではあるがJc=2.2MA/cm2、Ic = 33A/cm-width(@77K,0T)の実用レベルのJcを達成することができた。その後、高Ic化のために厚膜化の検討へと移行した。しかしながら、同プロセスでは膜を厚くするとJcが急激に低下するとの報告があり、その要因の解明に取り組んだ。その結果、Jcを下げることなく数回の塗布と仮焼を繰り返すことにより膜を厚くできるマルチコーティング法を開発した。このプロセスの適用により、それまで米国AMSC社の0.4µm(Jc = 1.9 MA/cm2、Ic = 71 A/cm-width)が最高であったが、膜厚1µm(Jc = 1.6 MA/cm2、Ic = 153A/cm-width)を達成した。この成果は高Jcを維持したまま多結晶金属基板上での厚膜形成を実現したことにより、日米で開発競争が続いているY系超電導線材プロセスにおいて大きな前進をしたことになる。現在、同プロセスによる厚膜化は、膜厚1.5µm(Jc = 2.0 MA/cm2、Ic = 300A/cm-width)まで進んでおり、更なるJcおよびIc特性の向上が期待できる。さらに、厚膜化と並行してテープを連続して熱処理するReel to Reel式による長尺化の検討を行っている。 長尺化に対する大きな課題は、線材を均一に反応させるために線材の長手方向に垂直にガスを流す(横流し)方式を電気炉に組み入れることである。SRLではこのような装置開発を2次元の流体解析により設計・製作を行い、200A級線材(Ic=210A、0.25m)の作製に成功した。Reel to Reel式は作製方法及び設備の構造上長さの制限が無いため、本装置の開発により米国AMSC社(Ic=184A、10m)より遅れている長尺化に対するSRLの進捗は今後一層加速できると思われる。また、製造スピードの高速化について同プロセスにおける仮焼時間の短縮に取り組んだ。これまで、1回の仮焼時間に20時間程度を費やしていたが、仮焼時に発生するHFガスの量を半減する新しい原料開発により、その時間を1/10に短縮することができた。この結果、本焼成における製造スピード(0.3m/h)が律速となるため、今後は焼成の高速化に対する装置開発及び新たな作製条件を模索していく予定である。更に本プロジェクトの目標値[Ic:200A、長さ:200m(H17年度末)][Ic:300A、長さ:500m、製造速度:5m/h、コスト:8円/Am(H19年度末)]をクリアすべく、開発を進めていく。

A2-4:MOCVD法(鹿島)

 中部電力では、瞬時電圧低下補償をターゲットとした超電導電力貯蔵装置(SMES)の開発を進めているが、今後、本装置の普及を図るためには、機器の低コスト化が上可欠である。このため当社では、イットリウム系超電導線材開発をSMESの低コスト化を実現可能とする技術として位置付けており、その研究開発に鋭意取り組んでいる。本プロジェクトでは、当社がこれまでに自社研究として進めてきた多段CVD法による長尺線材プロセス開発を発展させ、超電導応用機器実用化に向けて必要上可欠な500m級の超電導線材開発を目指す。CVD法は、低真空プロセスであり、大型レーザー等の高価な構成部品を必要としないため、初期コストおよびランニングコストの面からも優位性を有すると考えている。

 昨年までに自社研究として、イットリウム系線材成膜の高速化・長尺化の課題に対して、CVD法を用いた多段合成技術の確立に成功し、これまでに、6段のリアクタを有するCVD装置により、合成速度10m/hで、10時間の連続合成を行い、100m長の超電導線材の合成に成功している。現在は、本プロジェクトの中で、IBAD基板を含む各種基板上への線材合成を開始したところであり、その結果については、近く学会等でご報告させていただく予定である。

 長尺・高速化技術に関しては、プロジェクト目標レベルに対して、従来技術のスケールアップにより、十分実現可能であると考えている。課題としては、線材の高Ic化が挙げられる。これを達成するには、高Jc化はもちろんのこと、超電導層の厚膜化が必要上可欠だが、本多段CVD法では、多段化、合成速度の最適化、マルチコーティング等、各種厚膜化の手法が考えられ、今後プロジェクトの中で、その詳細な検証を実施していきたいと考えている。

 海外では、米国IGC-Superpower社が、同じくCVD法によるイットリウム系線材開発を進めており、注目すべき多くの成果が報告されている。長尺・高速化に関しては、当社が一歩リードしている感があるが、今後も引き続き、高Ic化の観点からも、その研究開発動向に注目してきたいと思う。実用化については、コストが全てである。その中で我々の実施している多段CVD法による長尺線材作製プロセスは、成膜の高速性から実用化に最も近い位置にいる超電導層成膜プロセスであると考えている。今後のプロジェクトの中で、材料も含めた低コスト化研究を実施し、イットリウム系線材の実用化を目指す。

A2-5:HoPLD法(藤野)

 住友電気工業では高温超電導体の開発当初からYBa2Cu3O7-x (YBCO)以外のRE系超電導体の開発を、気相蒸着法を中心に進めてきた。開発を行ったRE系超電導体の中でもHoBa2Cu3O7-x(HoBCO)超電導体は、単結晶基板上の薄膜構造において4.6MA/cm2(77K,0T)のJc、375A/cm-幅のIc(77K,0T)を示し、YBCOと同等以上の超電導特性を有する事を確認している。また、同様の構造において高温多湿の環境下でYBCOよりも優れた耐性を示すことも確認している。

 超電導応用基盤技術研究開発・第1期(H11~H14年度)では、長尺金属基板上に中間層を介して超電導層を形成する線材構造において、超電導層としてHoBCOを採用した。超電導層の形成手法としてはパルスレーザ蒸着法(PLD法)を採用していたが、本手法においてHoBCOはYBCOよりも速い蒸着速度を示し、酸素分圧等の最適化によって最高では約5mm/分に達した。この高速成膜性により50m級の線材試作を実施し、1.8m/hの線材作製速度において1.8mmの薄膜を形成することに成功している。

 PLD法は気相蒸着法の中でもトップクラスの成膜速度を有することで知られているが、10mm程度の線材幅に薄膜を形成する現状の線材作製方法では、その材料収率は決して高くなく僅か数%であり、線材幅以上に広がるプラズマプルームは真空チャンバー内に飛散し、その粒子のほとんどは真空チャンバー内の汚染の原因となっている。PLD法においては材料収率を上げることが必須であり、このことが線材の作製速度を更に向上させ、PLD法の欠点の一つであるレーザ入射窓の汚染を低減することにも繋がると考えている。

 今年度(H15年度)より超電導応用基盤技術研究開発・第2期がスタートしたが、本フェーズにおいても第1期での開発成果を生かし超電導層の形成手法として主としてPLD法を採用している。また、本フェーズにおいてはコスト最終目標として8円/A・mが掲げられており、この観点からも材料収率の向上は必須であり、HoBCO線材作製速度の高速化と材料収率向上の両立を目指し開発を進めていく。

3. 長尺線材評価・可加工性技術開発

Q 3:下記の各テーマに対して、各々①研究の必要性、②研究の具体的内容、③期待される研究成果(高性能線材プロセス及び低コスト線材プロセスへのフィードバック)についてお伺いしたい。

 雨宮/木須先生にはJc分布について、雨宮/岩熊先生には電磁気特性について、各々お伺いしたい。石山先生には伝熱特性について、菅原さんには微細組織について、齊籐/長屋さんには機器適用性を踏まえた材料可加工性について、各々お伺いしたい。

A3-1-1:Jc分布(雨宮) *磁気ナイフ法によるマクロスケールJc分布の評価*

 Jc分布といっても様々な空間スケールの分布が存在する。その中でも、マクロスケールのJc分布(数十~数百ミクロン以上の分解能の、線材全幅にわたっての分布)は、線材の交流搊失特性に直接影響を与える点から重要な特性である。そこで、磁気ナイフ法と呼ばれる方法でマクロスケールJc分布の評価を行う。磁気ナイフ法は、線材幅方向に分布を持った直流磁界を印加して磁界の弱い部分に電流を集中させて臨界電流を測定し、磁界の弱い部分を線材幅方向にスキャンして測定を繰り返し、その情報から数学的変換により幅方向の局所Jcを求めるという方法である。各種プロセスによって作製されたY系線材の幅方向Jc分布を評価して、その結果をプロセス改善のためにフィードバックする。また、測定された幅方向Jc分布と全交流搊失の実測値の関係について、線材電磁現象シミュレーションを通して研究することも計画している。

A3-1-2:Jc分布(木須) *低温レーザー顕微鏡によるJc分布特性*

 これまでの四端子法による電流*電圧特性評価や、磁気光学法による磁界分布測定によって、YBCO線材では電流はpercolativeに流れると共に、局所的Jcはかなり広い統計分布を有することが明らかとなっている。ここで、粒界等の電流阻害因子の影響が問題となる典型的な空間スケールは、数mm ~100mm程度であり、通常の四端子法の空間分解能に比べ何桁も小さい。一般に、Jcは試料両端の平均電界や抵抗率によって定義されるが、線材内での搊失は空間的にかなり局在しており、そういった空間情報を明らかとすることが電流制限機構を解明する上で上可欠となる。

 本研究開発では、レーザ光を試料表面にスポット照射する事によって局所情報をプロービングし、従来の四端子法の空間分解能を飛躍的に向上させることに既に成功している。本低温レーザ顕微法を用いて、様々なプロセスで作製された試料の局所的超電導特性を明らかにする。さらに、磁気光学法との相補的測定によってマイクロメータスケールでの局所組織の電流―電圧特性を明らかにすると共に、微細組織観察との連携によって局所組織との対応を明確化し、作製プロセスへフィードバックすることによって線材開発を支援する。

 本手法の確立により、数テスラ級の磁界中でのJc上均一の解明、各プロセスによって異なると予想される組織と搊失特性の解明とプロセス条件の最適化、線幅、膜厚などの素線構造の最適化、最終的な線材応用で重要となる巨視的スケールでの電流*電圧特性と局所特性との関係の明確化など、線材の作製プロセス開発から、線材応用に至る広範な分野への波及効果が期待できる。

A3-2-1:電磁気特性(雨宮) *機器内電磁環境下における線材交流搊失評価技術開発*

 多くの電力機器が交流で用いることを考えると電磁気特性の中でも交流搊失特性は実用上重要である。ここで問題となるのは、「超電導応用基盤技術研究開発」が基本的には線材開発のプロジェクトであるということである。すなわち、線材の交流搊失特性は本来、その線材が機器内でどのような電磁環境下で使われるかがわかって初めて決まるものであり、線材特性だけで交流搊失を議論することはできないという点が問題となる。そこで、本プロジェクトの中で「機器内電磁環境下における線材交流搊失評価技術開発」として、線材電磁現象シミュレーション技術と機器内電磁環境評価技術を組み合わせ、機器内の電磁環境下における線材交流搊失を評価する技術を開発する。すなわち、「現実には機器は未だ存在しない」という交流搊失評価上の障害を、コンピュータの中にバーチャルな超電導電力機器を実現し線材が置かれる電磁環境を理論的に求め、それに基く線材電磁現象シミュレーションにより交流搊失を求めるというアプローチにより解決しようというものである。これにより、プロジェクトの終了する5年後に、ただ長くて臨界電流が大きいだけでなく、本当に電気機器に「実用できる」線材が開発できるよう、プロセス技術開発へ望ましい線材アーキテクチャについての情報をフィードバックすることを目指す。もちろん、計算だけを行って現実から遊離することも問題である。そこで、シミュレーションと平行して実用電磁環境に近い「交流磁界下、交流通電」という状態での線材の全交流搊失の測定を行い、シミュレーション結果と比較検討していく計画である。

A3-2-2:電磁気特性(岩熊)  *YBCO線材の電磁特性と応用上の課題*

 一昔前、超伝導線材と言えば多芯線構造であり、フィラメント形状は基本的に円断面であった。超伝導薄膜はあくまでSQUID等のデバイス用とみなし、その電磁特性については個人的には研究対象としてほとんど目を向けていなかった。しかしながら、今やミクロンオーダーの薄膜が数十~百m長のテープ線材として実現されようとしている。我々の研究グループでは、その電磁特性を詳細に把握すべく、急遽、温度、磁界をパラメータに磁化及び交流搊失特性の測定を鋭意行っている段階である。明らかにすべき電磁特性として、まずはミクロン厚の超伝導薄膜における磁束線挙動とこれに起因する薄膜特有の交流搊失特性である。これに結晶自体の超伝導特性の異方性とアスペクトレシオが大きいことに起因する交流搊失特性の異方性が絡んで、問題は複雑である。しかし、一方で応用を目指す上での問題点は明解である。これまでのBi2223線材を用いた変圧器、SMES用コイルの試作を通じて、超伝導巻線における交流搊失の大半は線材に印加される垂直磁界成分によるものであることが明らかになっている。また、これから求める実規模の超伝導巻線における交流搊失の外挿値が許容できないほど大きいことも明らかである。線材幅4mm、Ic =100AのBi線材と比較して、同じくIc =100A、線材幅10mmのY系薄膜テープの垂直磁界中の交流搊失は幅の比だけ、すなわち2.5倊大きい。長尺化が実現されると同時にこの問題も解決されていなければ、直流応用は別としてまさしく無用の長物と化すことになるやもしれない。

A3-3:伝熱特性(石山)

 超電導機器の実用化には、高い信頼性と経済性が要求される。そして、機器のコンパクト化、低コスト化のためには、安定化材を含めた使用線材構成要素の最適化が上可欠となる。超電導線材・コイルの開発・設計においては、与えられた要求仕様や運転・冷却条件のもとでの熱的・電磁気的・機械的挙動に対する安定性評価基準の設定が最重要項目となる。Y系超電導線材は、大きな温度マージン、熱容量が期待できるため、極めて高い熱的安定性を有していると考えられる。この特長を最大限に活かすための新しい安定性・信頼性評価基準を確立することが本研究の目標である。

 高温超電導線材の熱的・電磁気的挙動は従来の金属系超電導線材と大きく異なるため、これまでBi系線材を中心に、線材、導体、コイルの各レベルにおける特性評価実験等が内外で多数行われてきた。また、これらの特性評価実験に基づく新しい安定性評価基準の提案もなされてきた。Y系線材については、Bi系線材と異なる電流―電圧特性およびその磁場角度依存性や、熱的・機械的特性を示すことが報告されているが、安定性評価に関する検討は国内外ともにスタートしたばかりである。そこで、本研究では、材料・プロセスの異なる様々なY系短尺および長尺線材試料の常電導転移・伝播試験や過負荷パルス通電試験等を通じて、熱的・電磁気的過渡特性を把握するとともに、線材の超電導特性や、線材構成要素の熱特性が伝熱・安定性に及ぼす影響を明らかにする。さらに、これらの熱的挙動に対する機械的歪の効果も併せて検討する。また、並行してY系線材の特性を評価・予測するための解析技術を開発する。年次計画としては、17年度中間報告までの3年間では、各種プロセスにより作製されたY系線材の熱・電磁気特性、および伝熱特性に及ぼす機械歪の影響に関するデータ・ベースの構築並びに安定性評価解析技術の開発を行う。後半2年間では、得られたデータ・ベースおよび開発された解析技術を用いて、導体およびコイル設計を可能とするための安定性・信頼性評価基準を確立する。そしてこれらの成果に基づき、Y系線材の実用化に際して最終的に重要となるJe(engineering Jc)に直接影響する安定化層の材料と厚みの決定・最適化のための指針を、伝熱・安定性という視点から明らかにする。以上を順次材料プロセス開発にフィードバックし、Y線材開発の効率化、すなわち、実用化までの期間の短縮に寄与する。

A3-4:微細組織(菅原)

 優れた超電導特性を発現する線材の開発には、長尺化と同時に超電導層の成長面内および成長軸方向の結晶配向や組成の均質化を実現することが重要である。また、実用線材に対して高いコストパフォーマンスが求められる現状では、低配向金属基板上に形成される酸化物中間層および高温超電導層の結晶配向を促しつつ、相互の拡散や反応を抑制するための適切な材料の選定が必要となる。そのため、超電導層や中間層の膜内部および超電導層/中間層界面や中間層/基板界面の微構造について充分理解すると共に、超電導特性と密接な関係にあるこれら微構造との相関を明らかにし、作製プロセスの最適化を図ることによって実用線材の開発に貢献していくことが必要上可欠である。

 研究の具体的内容としては、プロジェクト内で開発される様々な超電導線材について、透過電子顕微鏡法や各種分光分析法を用いた微構造の評価・解析を行う。また、長尺線材の欠陥解析など特殊試料の作製には集束イオンビーム法を用いることで、特定部位のサンプリングを行い任意の領域の透過電子顕微鏡評価を可能にする。具体的には、レーザ蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、化学溶液法などにより作製された長尺線材の高温超電導層および酸化物中間層の内部およびこれらの界面について、原子構造、欠陥構造、結晶粒界、結晶方位関係、拡散層や反応層の有無などを詳細に解析し、結晶配向性を向上させたり、反応を抑制するためのメカニズム解明につながる知見を得る。また、これらの知見は、速やかに開発元にフィードバックすることで、線材作製における有効な開発指針として反映される。

 実用上の長尺線材は、低配向金属基板上に酸化物中間層を介して高配向超電導層が形成された多層構造を有する。先に述べた結晶配向および反応抑制の観点から中間層が果たす役割は大きく、その後の超電導層の膜質に強く影響を及ぼす。そのため、これら異種界面における種々の因子が界面構造の形成に与える効果や、それらの影響を受けて形成される中間層および超電導層の微構造について明らかにすると共に、その結果として発現する超電導特性との相関について考察する。また、前述の中間層の効果が充分反映される最適膜厚についても結晶学的な知見をふまえて具体的に示す。これらの設計指針に基づいて界面および膜内の構造を制御するプロセス技術を構築することによって、結晶粒界を減少させたり、組成変動を抑えるなど優れた長尺線材の開発に貢献することが期待できる。

A3-5:材料可加工性(齊籐・長屋)

 高温超電導Y系線材は超電導電力貯蔵装置、超電導ケーブル、超電導変圧器など様々な機器への適用が見込まれる。いずれの場合においても素線を導体あるいはコイル状に加工して使用することになる。したがって様々な形状での加工性と特性の関係を明らかにすることは線材開発にとって上可欠の要素といえる。これまでY系線材は比較的短尺の線材が実現しているだけであったことから、コイルでの特性、導体での特性と線材の短尺特性との関係は明らかにされておらず、線材開発とともに検討していく必要があり、得られた結果は適時、線材開発にフィードバックしつつより高性能でより使いやすい線材の開発に資することが重要である。

 これまでのコイル化に関連した研究報告は線材の機械的な歪み印加による臨界電流の変化が一部の研究機関から行われているものの系統だって行われてきておらず基礎的なコイル化に必要な評価から開始し、評価用の小型コイルを製作することによって線材のコイル化に必要とされる巻線性に優れた線材構造を構築する。さらに製作した小コイルは種々の温度、冷却環境下において機器で求められる電流変化を与えた場合の挙動を詳細に調べることによって、機械的のみならず電磁気的にも堅牢なコイルを作製するのに必要とされる線材構造が判明してこよう。また、一般に超電導機器に線材を適用する場合は単線で用いられることは少なく、コイルの励磁要求特性等から複数本の線材を束ねた導体構造として用いられることが想定される。この要求からも導体化の構造とこの導体化により適合した線材構造を検討しておく必要があろう。

 また、超電導電力貯蔵装置等の具体的な機器を想定して、Y系線材を機器に作り上げるために必要とするコイル化に関する調査を行うとともにモデルコイルを試作、評価を実施し、Y系線材の検証を行う。

 長尺線材作製プロセスには可加工性技術開発により得られた知見からよりよい特性の長尺線材を開発することと合わせて機器適用性に優れた線材を作製する開発に生かすことができる。これらの知見は適宜、線材開発に反映させることによって線材開発の効率的な推進が図れることになる。

 さらには短尺線材での線材電磁気特性評価結果や伝熱挙動の評価結果と有機的に対応させることによって評価技術の高度化にも資することが可能となる。短尺の導体試作、評価や部分コイル等の試作、評価を通じて導体化に適した線材構造が明確化してくることから、併せて線材作製プロセスにフィードバックし線材開発から機器開発へ円滑に移行できるようになることが期待できる。

4. 高温超電導線材材料高度化技術開発

Q4:下記の各テーマに対して、各々①研究の必要性、②研究の具体的な内容、③期待される研究成果(高性能線材プロセス及び低コスト線材プロセスのフィードバック)についてお伺いしたい。

 田島さんには主として線材材料特性高度化(粒界特性高度化を含む)について、坂井さんには接合界面特性高度化について、各々お伺いしたい。

A4-1:線材材料特性高度化(田島)

 Y系線材の更なる高臨界電流化等特性向上のためには、線材の組成制御及びピン止め中心導入による結晶粒内での特性向上と共に、結晶粒界の組成や組織制御による界面特性向上が必要である。特性向上と共に、線材作製プロセス開発の最適化作製条件の提案や作製プロセスへの特性改善フィードバックを行い、線材作製プロセス開発を支援・促進する。以下、具体的研究開発内容を述べる。

 Y系超電導線材において、超電導特性に最も大きな影響を及ぼすのが酸素濃度である。酸素濃度の制御は、通常線材作製プロセス中の酸素分圧と温度をパラメータとして行われる。そこで、線材膜中の酸素濃度を適正値にするためのプロセス条件(酸素分圧、熱処理温度、熱処理時間)を提案すると共に同様の効果をYと価数が異なるCa等のカチオン添加により得ることを試みる。更には、上純物元素の添加による磁束ピン止め点導入の可能性も検討を行う。これらの検討は、単結晶における検討から始め、短尺線材試料を用いた組成最適化、最後に高性能長尺線材プロセスへの展開と段階を踏んで行う。酸素濃度の評価は、空間分布まで評価を行うべく電子プローブミクロ分析法や顕微ラマン分光法などの非接触評価法による評価方法の確立を行い、線材評価に適用する。超電導特性の評価は、磁化率測定、磁気光学法による磁場分布観察、電気抵抗率の測定によって行う。

 Y以外の希土類元素(Nd, Sm等)の123系超電導体は、これまでのバルク材開発で示されたように、組成制御により非常に高い磁場中超電導特性を示す可能性がある。しかし、作製プロセス条件によりカチオン組成比が変化するという特徴を持っていることから詳細な検討が必要となる。そこで、線材作製プロセスへの適応可能な条件の下で、これらの超電導体の特性最適化を行う。また後熱処理による相分離現象の可能性も指摘されており、それら上均一状態も含めた組成制御及び分布状態の制御の方法の確立、また電子顕微鏡を用いたミクロな組成比の空間分布を評価する方法の確立を行い、効率よく線材作製プロセス開発に反映させる。更に、高温超電導材料に内在する上均一電子状態などの超電導特性上安定化因子の解明も行い、特性安定化を図るべく線材作製プロセス開発へフィードバックし長尺線材作製プロセス開発の目標達成を促進する。

 一方、線材の臨界電流特性を律している結晶粒界面での特性劣化原因を究明し、防止策を提案し、線材作製プロセス開発にフィードバックする。結晶粒界面の組織観察と共にそこにおける超電導特性評価を走査型トンネル顕微鏡や磁気光学法により実施し、線材微細組織と超電導特性の相関関係を明らかにする。更には、光電子分光等を用いて、表面安定性の研究を行い、表面界面の特性劣化防止に有効な材料を開発する。

A4-2:線材間接合界面特性高度化(坂井)

 線材間接合界面特性高度化においては、Y系線材の長尺化をはかる一つの手法として、マクロ的な線材同士の接続技術の検討を行う。ここで、低ロス接合に関する技術を検討し、線材間接合プロセス提案を行い、長尺線材プロセスの目標達成促進に寄与する。

 これまで酸化物超電導材料で接合に成功しているのは、Bi系線材とY系バルク材である。Bi系線材では、ソルダリングと拡散接合で行われている。ここで、ソルダリングとは、はんだ材等で線材をつなげるものであり、接触面積・厚みおよび材質を調節することで、低抵抗接合が可能である。一方、拡散接合とは、高温、高圧下で超電導材料を接触させることにより固相拡散で超電導接合を行うものであり、Y系バルク材でもこれで超電導接合に成功している。バルク材で良好な接合特性を示した手法としては、拡散接合の他に、低融点超電導材料を被接合体間に挟み込み、接合材料を配向成長させる方法があり、かなり良好な接合特性が得られている。また、銀薄膜を界面に介して熱処理することにより、偏包晶反応を通して超電導接合を達成したという報告もある。Y系線材においては、ソルダリングにて実施した報告例はあるものの、超電導接合を検討した例は未だない。これは超電導線材膜が1mm以下と薄く、複雑な構成となっていることから、熱的に上安定であることが理由と思われる。そのため、バルク材で成功した手法をそのまま適用することはできないが、この困難な開発を達成することが出来れば、本項目の目的である歩留まり向上による低コスト化へ大きく貢献するであろう。

 具体的な検討方針としては、接合処理としてまず固相拡散接合とインサート接合を検討する。固相拡散接合については、圧力、温度といった基本パラメータと接合特性の関係を調べ、さらに、物理的あるいは化学的な表面の前処理(表面加工処理、表面活性化処理)が接合特性に及ぼす効果を検討し、本手法による高特性接合の可能性を探る。インサート接合については、低融点金属あるいは低融点超電導材料を線材間に挿入した後、熱処理工程を経て接合を行い、接合特性の評価を行う。接合形態としては重ね合わせ接合や継ぎ手接合を検討する。

5. 次世代線材の応用展開について

Q5:(1)コスト:本線材実用化の決め手はコスト低減と考えられるが、①DOEコスト/性能目標(10ドル/kAm)の実現性についてどのようにお考えか、②各製法ではどこまでいくか、③その実現時期は何時かお伺いしたい。(2)標準化:本線材の標準化の現状、今後の課題についてお伺いしたい。(3)知的財産権:本線材のパテント化の現状、今後の課題についてお伺いしたい。

 佐伯さんにはコスト(1)について、田中さんには標準化(2)について、中里さんには知的財産権(3)について、各々お伺いしたい。

A5-1:コスト(佐伯)

   ①DOE目標コストを本プロジェクト目標(電流300A)に換算すると、約4円/m(10ドル/kAm)となり、この目標に到達するには低コストを目指す製法では、本プロジェクト目標を達成した時点から、さらに約2倊の製造性向上(低コスト化及び電流密度向上)が必要となる。また、高性能を目指す製法では、同様に約3倊の製造性向上が必要となるが、これらは工業化レベルへの展開時に、生産性の向上、特性向上、設備費圧縮等の検討で十分に対応できるレベルと思われるため、DOEコスト目標の実現は可能と考えられる。

 ②③現時点では本プロジェクト目標の達成可能な製法が上明であるため、各製法とも性能目標を達成できるものとして、想定できるコスト構成から一般的な傾向を述べるにとどめたい。

 現時点で性能目標を達成しやすい方式としてIBADで中間層処理を行う方式が考えられているが、製造速度の遅いことが製造装置費用や工場コストに影響を与えるため、製造速度向上がコスト低減へ向けての大きな課題と思われる。また、超電導層の形成においてもPLD等の気相法で行う方式は、大がかりな装置が必要となることから、液相法であるMODや、気相法であるが高速の蒸着を行う多段CVD方式を用いる場合よりも相対的に高くなる傾向にある。基板に関しては、配向金属を用いて中間層プセスを省略する方式や、配向性のある銀を基板に用いて安定化層も省略する方式が選択できればコスト低減できる可能性は高いと思われる。現時点では、各種方式間のコストの相対関係は、性能が得やすいと思われる方式ほど相対的に高く、安くなると思われる方式ほど性能達成へのリスクが高いというトレードオフの関係を形成していると考えられる。そのため、次世代線材のコスト低減には各方式で製造される線材の性能(特に許容電流)と製造性(特に、装置の低価格化、製造速度の向上)の両面から、低コスト化に最適な方式を選定し組み合わせることが重要と考えられる。

 実用化に進むための線材コストは、その時点の需要に見合った市場価格で決定されるため、線材のみの限界コスト及びその達成時期を議論するのは重要な意味を持たないと考えられる。なによりも魅力的な市場の早期の創出が、より重要な線材コスト低減へのドライビングフォースになると考えており、市場開拓についても今後進めていく予定である。

A5-2:標準化(田中)

 わが国の超電導標準化は、経済産業省がわが国の産業競争力強化の一環として掲げる標準化戦略に則した超電導標準化戦略のもとで推進されている。すなわち、わが国の超電導標準化戦略である、①超電導応用分野の市場適合性の確保、②IEC/TC90(超電導)を機軸とした国際標準化活動並びに③標準化活動と研究開発プロジェクトとの一体的推進に基づく超電導標準化が行われている。

 これまでの標準化活動の成果として、超電導関連用語IEC規格1件及び試験方法IEC規格12件並びにこれらに整合したJIS規格として超電導関連用語規格1件及び試験方法規格4件がそれぞれ制定され、超電導関連産業の基となっている。

 わが国の超電導産業競争力を一層強化し、更なる超電導関連市場を切り拓くためには、①超電導関連の研究開発等知的財産を含めた創造力強化、②超電導関連生産技術の高度化並びに③超電導国際標準化の強化が上可欠である。特に、次世代線材関連の研究開発のような世界的にも卓越した分野においては、グローバルな新規超電導市場を切り拓く前提として生産技術の高度化に留まらず、その国際標準化が上可欠である。

 具体的な標準化活動として、次世代線材に関連する現行3大国家プロジェクト「交流超電導電力機器基盤技術研究開発」、「超電導応用基盤技術研究開発」並びに「高温超電導利用における交流搊失の評価・削減に関する研究開発」の成果を標準化に適うデータベースにする作業がすでに開始されている。これらは、国際的な規範文書である公開仕様書PASや技術仕様書TSの制定に向けた一連の活動であり、最終的には国際規格ISや国内規格JISの制定を目指すものである。

 このような超電導標準化活動の結果として、わが国の次世代線材関連の超電導技術力を機軸としたグローバルな超電導関連市場が切り拓かれることへの期待が高まっている。

A5-3:知的財産権(中里)

 次世代線材の実用化を目指す本プロジェクトでは、中間目標として200m級線材、最終目標として500m級線材作製の実用技術を確立することになっているが、それらに採用される諸技術の工業所有権は、次世代線材の事業化に当たっての重要な検討課題と言える。

 そのため、プロジェクト後半の研究戦略に反映すると共に、より実用的な技術の創出に寄与することを目的に、諸技術の実用性に特化したY系線材技術の特許調査を実施していきたい。

 具体的には、今後各企業の協力を得て特許検討グループを組織し、調査手法の検討に着手し、狭い領域ではあるが年度内に予備調査を実施したい。私見ではあるが、平成17年度には保有技術のみならず要導入技術や競合技術等の分析を加えて特許戦略すなわち研究戦略の提言の形で纏めてみたいと考えている。

6. 次世代線材開発への期待と課題について

Q6:超伝導電力応用関連の第一人者である安田部長と秋田部長には、各々高温超伝導・交流応用(ケーブル他)及びマグネット応用(SMES他)の観点から、次世代線材への期待とその課題についてお伺いしたい。

A6-1:期待と課題(安田)

 超電導電力応用機器を考える上で、高温超電導線材は最も重要な材料であり、その特性、コストで実際に機器に適用できるかの成否が決まる。

 Super-GMの交流基盤技術のプロジェクトのうち超電導送電ケーブル開発がスタートできたのは、高温超電導線材(Bi2223)の製作長が1条長で1000mを越えるものができ、金属系線材と同じようにメーカーで量産できる体制にあったことを忘れてはならない。もちろんBi2223線材の臨界電流特性、交流搊失特性、コストについては実用化を目指すためにはまだまだ上十分でありさらなる特性向上は必要であるが、この線材には超電導送電ケーブルの実用化を検証するための最低限の条件が備わっていたことである。

 次世代線材への期待とは、ひとことで言えばBi2223線材の特性を凌駕し、かつコストを大幅に引き下げることである。但し、その前提として「量産」できることが最低条件である。また、コストを下げるためにも「量産」できることが必須である。ケーブル等の機器への応用を考えるには「量産」ができる見通しができてからでも遅くは無い。学会発表等を見ると、現状のプロセスにおいて、短尺線材の特性向上、100m規模の線材製作に重点化されているように思われるが、量産化するためのプロセス開発に力をいれることも重要ではないだろうか。

 デモンストレーションとしてY系線材を使った送電ケーブルの模擬導体が海外で製作され、国内でも注目を浴びている。海外との競争も国内の線材開発のスピードアップを図る上では必要とは思うが、線材特性の競争だけであってはならない。真に実用化を目指した、線材開発を地道にしてもらいたいものである。

 Bi2223線材もAMSC社だけでなく全体的に各メーカーの線材特性は向上し続けている。数年後の状況を見たときに、次世代線材といわれるY系線材が「量産」できる体制にあり、Bi2223線材の特性を上回っていることを期待したい。

A6-2:期待と課題(秋田)

 マグネット応用の観点から次世代線材に期待するのは、何と言ってもその高磁界中での臨界電流特性が優れており、金属系超電導材料の追随を許さない点である。

 高磁界応用には、NMRなど永久電流モードで使用する応用も多いが、次世代線材では既にかなり大きなn 値が報告されており、量子化磁束の物理的性質から考えても、運転温度を下げれば十分永久電流モードで使用可能と考えられる。現在、開発競争が盛んな1GHzのNMRも、次世代線材のコイル化に成功したグループが一番乗りをするのではないだろうか。今後は、永久電流モードで使用可能な次世代線材の接続技術の開発が焦点になると予想される。

 電力応用に目を移すと、次世代線材は冷凍機伝導冷却で到達可能な20~50Kでも金属系超電導線材と同等な臨界電流が得られるため、次世代線材を使用すれば過酷な運転条件でも安定に運転できる超電導電力機器が実現できる可能性が高い。例えば、次世代線材を超電導発電機の界磁巻線に適用すれば、金属系線材を使用した超電導発電機のように冷媒をローターに貯液しなくても5T程度を発生する界磁巻線が実現できるばかりではなく、電力系統の事故時に必要な高速励磁制御を行っても、界磁巻線の比熱による冷却効果が期待できるため、クエンチなどを起こすことなく極めて安定な運転を継続することが可能となる。

 この比熱による冷却効果は、電力系統安定化用SMESおよび瞬時電圧低下対策用SMESなど、過渡的に運転するSMESの場合も発揮でき、電流リードからの侵入熱などの定常的な冷却能力だけを備えたSMESでも、秒オーダーの高速動作が可能になる。高速動作に伴う交流搊失などの発熱によりSMESの運転温度は定常状態よりも高くなるが、定常冷却により、徐々に通常の運転温度に戻る。このような比熱を利用した過渡的過負荷運転は油冷却変圧器など従来の電力機器では最大運転温度管理をしながら積極的に使われてきた運転法である。比熱を利用できる運転温度域でも臨界電流劣化が少ない次世代線材が開発されて、初めて高温超電導電力機器も利用可能となる運転法であり、次世代線材は超電導電力機器の運転管理を従来機器と同等とする上でも上可欠な線材である。

 変動負荷補償用SMESなど、連続運転をする電力機器でも、次世代線材は高磁界化による機器のコンパクト化、運転効率向上などの面で適用効果が大きい。運転効率向上に結びつけるためには、運転時に発生する交流搊失を低減することが重要であり、従来手法では低交流搊失化が難しいテープ線材に対する低交流搊失化手法の開発が重要となる。

 次世代線材の特性を仮定したSMES用トロイダルコイルの概念設計研究によれば、テープ面に垂直な磁界に対する臨界電流特性がコイル全体の臨界電流特性を決定しており、臨界電流の磁界角度依存性を制御できる線材作製法の開発も、マグネット応用の観点からは極めて重要である。

 いずれにしても、次世代線材は本格的な高温超電導機器の開発を可能にする期待の線材であり、早急に機器の試作研究に利用できるようになることを期待したい。

7.まとめとして

Q7 : 本プロジェクトのPL(推進責任者)である塩原部長には、前記の23人の報告について総括していただき、世界的開発競争における日本の位置付けと今後の見通し(実現時期とコスト/性能目標、実施体制などを含めて)についてお答えください。

A7-1:まとめ(塩原)

 酸化物超電導物質が発見されてから既に17年が経過した。当初から高温超電導を示す新物質の探索やその特性・物性研究に多くの時間がかけられ、線材への応用としての本格的開発はまだ歴史が浅い。しかしながら、実現した暁の産業・社会への影響の大きさから、世界的な熾烈な開発競争が進められている。我が国においては、平成10年度から14年度末まで、NEDOが推進した超電導応用基盤技術研究開発プロジェクトにおける線材/材料研究開発による成果が大きい。その成果においてRE123系超電導材料の二次元性、d波超電導特性に起因した超電導結晶粒の配向性、粒界特性が大きく線材の特性に影響を及ぼすことが判明した。この特徴が逆に高特性線材作製に対して大きな障壁となっていたため、 Bi 系線材開発に比して長尺線材開発に時間を要していた。しかしながら、線材の特性を大きく向上させる技術がフジクラをはじめとしたプロジェクト参画研究機関の努力により開発され、現実に100m級の線材作製並びに種々のプロセスで短尺ながら数MA/cm2の臨界電流密度を達成した。

 現状での欧米との開発競争における我が国の位置付けは、線材の長尺化(50m以上)において我が国が一歩進んだ状況であり、短尺(1m級)では日米欧共に数MA/cm2の電流密度を達成しており、ほぼ同等、中尺(10m級)では米国の開発が精力的であると認識している。線材研究が数cmから10m級までの材料プロセス研究レベルから、実用化に向けた長尺化(数百m級)技術開発へと未踏の領域へ進むと、短尺の定常成長が開発されたとしても長尺化技術開発ブレークスルーが必要となる障壁が待ち構えていることが大いに予測される。このことから、長尺化の実績がある我が国が今後の実用化線材に向けてリードすることになると考えられる。しかし、10m級の中尺ながら、ケーブル試作等実用化モデル機器開発が進められている米国の研究進捗は、実用化のみならず、適正構造線材等の観点から常に注視して行くことが肝要である。

 今年度から5年間の計画でスタートした「超電導応用基盤技術研究開発《では、これまでの我が国の研究開発の成果を踏まえつつ、NEDOが新たに策定した基本計画に則して、これまで研究されてきた数多くの線材作製プロセスのなかで、将来の実用化に向けた目標に対して、達成が大いに見込めるプロセスを選択し、長尺線材開発作製プロセスの研究を進めることとした。

 本プロジェクトの研究開発項目は前述の1~4の4項目の技術開発を並行して進め、且つ連携を密に進めて行くことになる。特に、これまでの線材作製プロセス技術開発オンリーの材料学的研究を飛躍させ、実用化を目指す目的から、長尺線材の交流搊失を含めた電磁特性、安定化・保護を考慮した伝熱特性、実用化適応可能な可加工性の研究に対しては、大学の先生方の叡智を結集して、緻密且つ大胆な線材構造を含めた線材作製プロセスへの提案を期待している。同時に計画の経済性目標の達成のみならず、5ヶ年の本プロジェクト終了後の実用化展開を促進・円滑化するため、線材応用開拓やコスト分析、市場性調査、特許等知的財産権調査、標準化調査を含む実用化促進調査も併せて行う。

 尚、Y系線材は、ミクロンレベルの薄膜の積層構造で構成され、未だ単独企業で全ての積層構造を仕上げる高特性長尺線材作製技術が確立していないことから、ISTECが積層化のための各種試料の研究実施機関間の円滑な移動と線材化、及び試料の管理を含めて効率良く研究を実施することとした。このため、一部のプロセス技術開発については、再委託による研究開発方式を採用している。本プロジェクト終了時には経済産業省の超電導国家プロジェクトが20年続くことになり、成果の産業化への展開が大きな目標であることは言うまでもないことである。この大きな目標を達成するためには、本邦の産官学が保有する技術蓄積、人的資源、設備、及びノウハウを含めた知的資産を結集して、最大限に活用する必要がある。このため、本プロジェクトの体制はISTECのマネージメント機能と研究能力を核に、共同提案企業(SRL-ISTEC、フジクラ、住友電工)、再委託先企業(中部電力、古河電工、昭和電線電纜、JFCC)、さらに共同研究先大学(九州大学、横浜国立大学、早稲田大学等)からなる共同研究体を構成し、プロジェクトリーダーの統括責任のもと、実施者間の強力な連携体制を構築し、前述の研究開発を効果的且つ効率的に推進する。