SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.5, Oct. 2003

6. 酸化物磁性体で蓄冷材実用化に成功
_物材研強磁場研究センター_


 物質・材料研究機構強磁場研究センター(TML)の沼澤健則主席研究員らの研究グループは、酸化物磁性体を用いたセラミックス磁性蓄冷材料の実用化に成功した。新しい磁性蓄冷材料は4K冷凍機の能力を20%以上高めるとともに、磁気ノイズの低減化にも大きく寄与するという。

 4K小型冷凍機はMRIや無冷媒伝導冷却マグネットに上可欠であるが、実用化されてからまだ10年程度にすぎない。この間、日本は高い効率と信頼性により世界の4K冷凍機市場をリードしてきた。さらなる高性能化にあたり、鍵を握る技術の一つが磁性蓄冷材料である。4K蓄冷材料の役割は端的にいえば4K領域で顕在化するヘリウムの比熱に打ち勝ち、効果的に寒冷を蓄えることにある。すなわち4K領域で大きな体積比熱を実現しなければならない。これまで数十にもわたる材料の探索が行われてきたが、実用的に使用されているのはHoCu2やEr3Niなどほんの数種類の希土類磁性体である。これは単に比熱が大きいというだけではなく、磁場中で比熱特性が変化しにくいことや加工特性などの諸条件もクリヤしなくてはならず、実用化へのハードルの高さを示している。

 TMLで開発された新材料は希土類の酸化物(GdAlO3)および酸化硫化物(Gd2O2S)磁性体である。沼澤氏らは従来使用されてきた金属系磁性体から発想の転換をはかり、4K領域で反強磁性相互作用をもつ酸化物磁性体の可能性に着目した。この結果、従来の蓄冷材料と比べ3K~5K領域の体積比熱を2~3倊増加させることが可能となる磁性体を見出した(図1)。これらの磁性体は湿式合成によりサブミクロンオーダーまで微粉末化した高純度原材料を用い、約1200~1500°Cの焼成によりきわめて良質な多結晶体として製造される。さらに、熱交換性能や充填密度を上げるために直径0.3mm程度の球形加工が必要となるが、転動造粒法を駆使し、均一な顆粒セラミックス磁性体を低コストで大量生産する方法を確立した(図2)。また摩耗による破搊を防止するため、顆粒表面の研磨技術を開発し、信頼性を大幅に向上させることに成功している。

 新材料は体積比熱の向上以外にも、反強磁性による弱い磁化、高熱伝導性、高硬度などの優れた特長をもつ。特に磁化は従来材料の半分以下で、NMRや超伝導センサーなど磁気ノイズに敏感な機器の冷却にも優れた効果をもたらす。すでに2002年下期からサンプル出荷が始められ、日米欧でその効果が確認されている。新材料は既存の4K冷凍機でも使えるため、メンテナンスの際に従来材料の一部と入れ替えることで性能アップが可能である。今年度からの本格的な普及を見込んでおり、近い将来には世界中のMRI等に利用されることを期待している。沼澤氏は「セラミックス磁性体の加工自由度を生かし、今後は材料から蓄冷器の構造を変えるような研究にも取り組みたい」とコメントしている。


図1 従来蓄冷材料と新開発セラミックス磁性蓄冷材料との体積比熱の比較


図2 Gd2O2Sセラミックス磁性蓄冷材料(平均粒径0.4mm)

(蓄冷枕)