SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.5, Oct. 2003

3. SPS法で作製したMgB2バルク、27.5Kで1Tの磁場を捕捉
_芝浦工大・ソウル大_


 芝浦工業大学とソウル大学などの国際共同研究グループは、MgB2のバルク超伝導体を用いて、図1(p.7)に示したように27.5Kで1Tの磁場を捕捉させることに成功した。MgB2は日本の青山学院大学の秋光純教授のグループが金属系超伝導材料としては世界最高の39Kの臨界温度を示すことを発見して、世界的に注目されている材料である。世界各所で線材開発が進められており、日本では液体ヘリウム温度(4.2K)において0.5Tという磁場を発生するコイル磁石の開発が物質・材料研究開発機構と日立の共同グループや、東京ワイヤと超電導工学研究所のグループなどによって進められている。磁石特性に関しては1テスラという値がひとつの目標となっているが、今までこの値は達成されていない。今回の成果は27.5Kという4.2Kよりもはるかに高い温度で1Tという値を達成したもので、MgB2がパワー応用に対して大きなポテンシャルを有することを示しており、今後、線材開発が進めば、コイルなどでも強磁場発生が可能であることを示している。

 今回、同研究グループは、スパークプラズマ焼結(SPS)法を用いて、MgB2を1120~1300°Cという高温で合成することにより、理論密度の98%という超高密度のバルク体を作製することに成功した。SPS法では、試料を高温に加熱した状態で30MPaの高圧を加えて、さらに1200Aの電流を流しながら焼結する方法であり、緻密な焼結体を合成することが可能である。本製法では、空孔があるとスパークが発生し、比較的短時間で高密度の材料を合成できる。今回の焼結時間はたった15分であった。

 この緻密化により、27.5Kで10万A/cm2という高い臨界電流密度が達成され、その結果1Tを超える磁場を捕捉することが可能となった。なお、より低温にすれば捕捉密度は向上するが、今回の試料は臨界電流密度が高すぎるために、それ以下の温度では磁束ジャンプという現象が起き、測定が上可能となった。開発者のひとりである芝浦工業大学教授の村上雅人氏は「今回の成果は、ソウル大学の劉相任準教授らが製造した試料を評価したもので、当初は、それほど大きな期待を寄せていなかった。これだけの高温で1Tを記録した結果には正直驚いている。27.5K以下にすれば、捕捉磁場は当然向上するが、低温上安定性により、クエンチが生じてしまった。今後は、金属含浸などの処理により、安定性を高めることでより高い捕捉磁場に挑戦したい」と語っている。


図1 今回開発したMgB2超伝導体(直径30mm、厚み6mm)の捕捉磁場の温度依存性。
1190°Cで処理した試料では、27.5Kで1Tの捕捉磁場を記録した。
これ以下の温度では臨界電流が高くなりすぎて、超伝導特有のクエンチという現象が生じ、磁場の測定できない。
これは本材料の高特性を反映している。

(田町SC)