高温超電導体の液体窒素温度(氷点下196°C、絶対温度77K)での超電導浮上実験は、科学館や理科の祭典などでも一般に行われており、現在では中学や高校の授業でも取り上げられている。産業応用に関しては、液体酸素の利用分野も広く、医療現場における酸素ガス供給源や、ロケット発射用の液体燃料などとして利用されている。このため、高温超電導体を液体酸素冷却で実用化しようとする試みもあった。しかし、現在、液体窒素温度以上の高温での応用が可能なY-Ba-Cu-O系超電導体の臨界温度は、氷点下182°C(絶対温度91K)程度であり、液体酸素温度が氷点下183°C(絶対温度90K)であるため、超電導体の特性が十分ではなく、この温度での応用は上可能とされていた。
今回、超電導工学研究所・盛岡超電導技術応用研究所のムラリダ主任研究員らは、Y-Ba-Cu-Oよりも臨界温度が4°C高い氷点下178°C(95K)の(Nd, Eu, Gd)-Ba-Cu-O系において、液体酸素温度での臨界電流密度を向上する目的で、微細なGd211相の分散を試みた。具体的には、添加するGd211相をボールミル粉砕により70nm程度まで微細化して、超電導体を製造した。この際、粉砕に利用したセラミックスボールの原料であるZrがわずかに試料に混入した結果、図2に示すように、20~50nm程度の超微細なZr-Gd-Ba-Cu-Oの組成からなるナノ粒子が試料内に分散することを見い出した。この結果、液体酸素温度における臨界電流密度が、液体酸素温度の90Kにおいて、従来のほぼゼロの状態から40,000A/cm2という高い値に向上し、液体酸素冷却によっても超電導浮上させることが可能となった。
この材料は、超電導バルク材として磁気浮上や強磁場を利用した様々な応用が考えられる。これまで上可能であった液体酸素ポンプへの応用もその一つであるという。研究リーダの村上雅人特別研究員(芝浦工業大学教授兼任)は、「液体酸素は、液体窒素とは違って磁性をもっているので磁石に引き付けられるという性質があり(図3)、これを利用した新しい応用も拓けるのではないか」と語っている。
図2 今回開発した(Nd, Eu, Gd)-Ba-Cu-O超電導体の透過型電子顕微鏡写真
図3 液体酸素は磁性を有するため、浮上磁石に液体酸素が吸い寄せられ、
図のように超電導体と磁石の間に液体酸素のブリッジができる。
(遼太)