SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.5, Oct. 2003

1. 米国の超伝導送電ケーブル次期プロジェクト予算的裏付けを獲得!


 本誌の2001年12月号(Vol.10, No. 6)では、米国の3つの共同チーム(Pirelli社、IGC社、Southwire社)による次期プロジェクトの発表を取り上げ、その概要を紹介した。その後、各チームが建設準備やSPI申請等を進めてきたが、最近2チームから資金的見通しが得られたとの発表が相継いでいる。近年深刻さを増している電力危機を追い風にして、超伝導ケーブルの本格的前商用化開発のスタートが間近に迫ってきたようである。

(1)LIPAケーブルプロの主契約者にASC社を選定、1500万ドルの出資も決定

 この度、American Superconductor Corporation(ASC)は米国エネルギー省(DOE)より、Long Island Power Authority(LIPA)の送電系統に設置される総額3000万ドルのHTS送電ケーブルプロジェクトの主契約者に選定された。610メーター長の本送電ケーブルは、HTSケーブルが世界で始めて実際の送電電圧で稼動する商用系統への設置となる。(Superconductor Week誌2003年4月26日号 Vol. 17, No. 4)

 30万世帯に電力を供給する能力を有する2000フィート長のHTS送電線は、ロングアイランド、東ガーデン市の既設地下溝に設置される。当ケーブルは、138kV, 600MWの定格を持ち、LIPA系統を構成する送電線の一部となるもので、ケーブルは2005年末までに設置され、運転を開始する。当ケーブルは、同軸型・低温絶縁体設計を検証するものである。

 超伝導ケーブル及び極低温絶縁システムは、Nexans社がASC社製HTS線材を用いて製作する。 Air Liquide社は、冷凍機器を供給すると共にケーブル用低温冷却システムの運転を担当する。パリに拠点を置いているNexans社は、ケーブル工業と極低温絶縁システム製造の世界的リーダーである。同じくパリに拠点を置くAir Liquide社は、工業用及び医用ガス、さらには低温冷却システムを含む関連サービスの世界有数の供給者である。

 LIPA超伝導ケーブルは、コストを分担する官民共同プロジェクトであり、DOEが当プロジェクトコストの50%、約1500万ドルを出資するものである。残りの50%は、産業界パートナーが分担する。DOEの出資金1500万ドルは、主として次の30ヶ月間にASC社の収入項目として計上される。

 初期の運転期間の後、LIPA当局は本ケーブルシステムの性能と経済的評価に従って、この新超伝導ケーブルを当送電系統の恒久的構成部分として保持しようと計画している。またLIPA当局とASC社は、ロングアイランドの増えつつ有る電力需要を満たす為、大容量・低公害性HTSケーブルを送電系統の各所に設置する計画を検討済みである。LIPA送電・配電部部長のM. Hervey氏は、「新しい送電線の設置は、ロングアイランドのような過密地域に於いては、恐るべき挑戦的事業になっている。超伝導ケーブルは、同じ巾の送電線通路に於いて、従来ケーブルより本質的により多くの電力を送電できるので、今後共増加する顧客の電力需要を満たしていけるだろう。この技術は、送電系統の制約を信頼性が高く、押し付けがましく無く緩和していく強力な新しい手段である」と語った。また、エネルギー庁長官のS. Abraham氏は、「この様なよく見える官民間共同行動は、工業界が米国の電力システム用プロトタイプ機器の開発及び試験を行うよう激励すると共に、大統領エネルギー国家プロジェクトを支えるDOEの超伝導研究開発を拡大するものである」とコメントした。

(2)DOEがIGC社のケーブルプロジェクトに1300万ドルの出資を決定

 IGC社(Intermagnetic General Corporation)は、米国エネルギー省(DOE)が電力会社の送電系統に於いて、HTSの技術的及び商用的有効性の実証を目的とする2600万ドル規模のプロジェクトに対して1300万ドルを出資すると発表した。IGC社のエネルギー技術子会社Super Power, Inc.は、国研・メーカー・ユーザーの連繋を目指すSPI(Superconnductivity Partnership Initiative)プログラムの一環として、IGC社が以前発表した当プロジェクトを主導する。ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)は、以前から当プロジェクトに対して600万ドルの負担を表明している。残り700万ドルのプロジェクトコストは、IGC社と主パートナーの住友電工が均等に分担するもの。(Superconductor Week誌2003年8月25日号Vol. 17, No. 8)

 350m長の地下ケーブルは、オルバニー州のNiagara Mohawk社ニューヨーク配電系統中の2サブステーション間に設置される。Southern California Edison社もアドバイザーとして当プロジェクトに参加する。

 IGC社社長のG. H. Epstein氏は、「我々の最終目標は、HTSの技術的メリットを実証するとともに、HTSケーブルと関連機器が良好なコストパフォーマンスで製造できることを実証することである。HTSケーブルは、低い電圧で電力を送ることが出来るので、送電線に沿って設置される相当数のトランスが上要になる。更に、従来ケーブルが可燃性で危険な、おそらく環境を汚染する油を用いて冷却されるのに対して、HTSケーブルは上燃性の液体窒素で極低温に冷却される。今回、HTS技術が商業的に通用するレベルに製造コストを低減せしめる可能性を有する第二世代HTS技術の最初の実証になる事を期待している」と語った。

 住友電工(超伝導の研究開発に30年以上の経験を有する大きな国際的開発者であると共に、電力ケーブル、エレクトロニクス、通信ケーブル及び自動車関連機器の製造者である)は、第一世代HTS線材を用いて350m長の定格34.5kV, 800AのHTSケーブルを製作する。本ケーブルは、Niagara Mohawk配電線の地下に設置され、片端から30mの接続部を備えている。当接続部も、この種のものとしては初めてのもので、全商用応用のためにより長いケーブルを設置・運転するのに必要な付加的技術の重要な実証と考えられている。本プロジェクトの後期の期間中に30m長の接続部は、同一長の第二世代HTS線材を用いて置換される予定である。

 Super Power社は、本プロジェクトの全局面にわたる先導コーディネータを勤め、後期のための第二世代HTS線材を製作する。Epstein氏は、「第一段階は2005年に完成・運転を続行し、第二世代HTS線材を追加する第二段階は2006年に完成すると予想している。今回の出資により、IGC社の慎重な短期支出を持って我々がこの重要なプロジェクトに参加できるようになった。それはIGC社のSuper Power社に対する投資が歴史的レベルかそれ以下にとどまること、それと同時に当社の開発活動が非常に拡大したことを意味する」と語った。

(こゆるぎ)