SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.4, Aug. 2003

7.MgB2多芯線材で100m長を達成 _JR東海、日立_


 東海旅客鉄道リニア開発本部と日立製作所日立研究所は、物質・材料研究機構の研究協力を得て、二硼(ほう)化マグネシウム(MgB2)系超電導物質を用いた100m級の「多芯長尺線材」の開発に、世界で初めて成功したと発表した(2003年度低温工学・超電導学会春季大会)。

 開発した多芯線材は、製造工程で加熱処理や圧延加工を用いておらず、従来の超電導多芯線材と比較しても大幅なコスト低減が可能という。この線材の特性を評価し、実用レベルの超電導臨界電流が得られることを確認できたようだ。

 2001年1月に青山学院大学の秋光純教授らによって発見されたMgB2は、超電導臨界温度(Tc) が金属系材料として世界最高の39Kであり、NbTi(9.5K)や、Nb3Sn(19K)などの従来金属系超電導材料と比較してもTcが約20K以上優れている。また、原材料のマグネシウム(Mg)とホウ素(B)は資源的に豊富であるうえ、MgB2化合物も比較的安定であるという特徴を持つ。このため、世界中の研究者が実用化に向けた活発な研究開発を行っていることはご承知の通り。

 MgB2の結晶は、ダイヤモンドのように硬く、通常の方法ではセラミックスと同様に塑性加工は困難であった。しかし、この粉末を高強度の金属で被覆し、圧延などで線状に加工することにより、熱処理無しで45万A/cm2の高い臨界電流密度が得られる線材作製法を、物質・材料研究機構が開発した(2001年6月既報)。その成果を受けて、日立研究所では、MgB2圧粉体を高密度で連続的に流動させる技術を開発。15m級線材の製作に成功し、更に、この線材を用いてコイルを製作し、0.5テスラの磁場発生を確認した(2003年12月既報)。しかし、ステンレス鋼や炭素鋼等の電気抵抗の大きな高強度金属を被覆材として使用した場合、超電導臨界電流が高いと線材自身が焼搊する問題があった。一方、線材の焼搊を防止するために、電気抵抗が低い金属を被覆材として使用した場合には、被覆材の強度が弱く、断面内の超電導コア部を高密度化することができないため、高い臨界電流密度を得ることが困難であった。このような背景を受けて、今回、高強度金属であるステンレス鋼に6個の貫通孔を設け、そこにMgB2微粉末を充填し、ステンレス鋼の外側に、電気抵抗が低い高安定金属である銅を配置することにより、高強度かつ高安定な多芯構造とした(図1)。この中で、ステンレス鋼と銅を一体化する接合技術、および特殊な高密度加工技術を開発し、100m級の多芯長尺線材の作製に成功した(図2)。得られた線材は、熱処理無しでも一平方センチメートル当たり40万アンペアの臨界電流密度を達成した。

 日立研究所エネルギー材料研究部超電導ユニット田中和英氏によれば、「km級の従来超電導線の作製に用いられている方法と基本的に同じプロセスだが、MgB2粒子が長さ方向に均一かつ高密度で形成されるように、線材に加わる圧力などの製造条件を独自に最適化した。また、多芯線材の断面内に配置される超電導コア部に、臨界電流低下の原因となる亀裂を発生させないように加工を行いながら、超電導コアサイズを最適化した」とのこと。今回製作した線材は、直径約1mmの丸形状の多芯線材で、長さは100m。液体ヘリウム中で線材の特性評価を行った結果、350A以上の臨界電流を確認できたとのこと。開発した線材は、熱処理および圧延加工を一切行っておらず、他の超電導線材と比べて大幅なコスト低減可能である。また、多芯線材化により、単芯線材に比べて、曲げ特性や長尺均質性に優れるという利点もある。

 日立研究所エネルギー材料研究部部長岡田道哉氏は「超電導の応用範囲を拡大するにはコストが全て。MgB2はこの点で大きな可能性を持つ」と述べている。今回の成果は、医療診断機器MRIやリニアモーターの超電導磁石などへの応用に道を拓くもので、東海旅客鉄道リニア開発本部平川正澄氏は、「今後の実用化までには、磁場中における臨界電流特性を更に向上させる必要があるが、多芯線材の開発を始めてから約半年で長尺化技術が確立できたことの意義は極めて大きい」と述べた。また、物材機構の熊倉浩明氏は、「MgB2系の線材開発では、高磁場中での臨界電流密度等、基本特性の向上に急速な進歩が見られている。今回の成果で、大型マグネット応用に目処がたったと思う。今後も我が国で発見されたこの新材料の実用化に向けて、世界の研究をリードして行きたい」とコメントを述べている。


図1 MgB2多芯線材の横断面


図2 100m級MgB2多芯長尺線材の外観

               

(ダイエーホークスの大ファン)