高磁界発生用の代表的な超伝導線材としては、さきに開発されたブロンズ法 (Nb,Ti)3Sn線材があり、4.2K,20Tで約100A/mm2の臨界電流密度Jc (non-Cu Jc)を示し、昨年、物質・材料研究機構で開発された世界最高の920MHz NMR分析装置にも用いられた。同装置のマグネットは1.6K(加圧超流動ヘリウム中)で21.6Tの磁界を発生する。しかしブロンズ法(Nb,Ti)3Sn線材の性能は限界に達しており、1GHz NMR分析装置や、核融合置、あるいは冷凍機直冷型超伝導マグネット等に、さらに高性能のNb3Sn線材の開発が求められている。
Ta-Sn 2元系では、Ta量が40at%以上ではTa-Snは粉末化され、線材化に従来行った粉末コア法が適用される。今回新たにTa量が30at%以下では加工性に富むSn-Taシートが作製できることを見出した。そこでSn/Ta比が7/3となるようにSnとTaの粉末を混合し、真空中において800℃×10hで溶製した。その結果、Sn中にTa微粒子が均一に分布したSn-Ta合金を作製することが出来た。また、少量のCuを添加したSn-Ta-Cu合金も作製した。これにプレス加工と平ロール圧延を行い、厚さ100μmのシートに加工した。Sn-Taシートを厚さ100μmのNbシートと共にNb-4at%Ta棒に重ねて巻き込み、外径/内径が10/7.5mmのNb-4at%Ta管に組み込んだ。これを溝ロール加工と線引き加工により径約1.4mmの丸線に加工した。作製した丸線を真空中において熱処理を行うと、内部に (Nb,Ta)3Sn層が渦巻き状に生成された超伝導線材となる。その高磁界中における臨界電流Icを4.2K及び2.1Kにおいて測定し、さらにIcを線材断面積で除して臨界電流密度Jcを求めた。これらのIc測定は、物質・材料研究機構・強磁場研究センターの施設を用い、同機構・超伝導材料研究センター・竹内孝夫金属線材グループリーダーらとの共同研究により行われた。
作製した線材の臨界温度(中点)は18.1~18.2Kで、歪効果に相違はあるが、実用ブロンズ法 (Nb,Ti)3Sn線材より0.5K程度高い。図1は線材の高磁界におけるIc (Jc)-磁界特性の例である。900℃×80hの熱処理を行った(Nb,Ta)3Sn線材は、4.2K,23Tで約100A/mm2のJcを示し、実用 (Nb,Ti)3Sn線材より3T程度高磁界側にシフトした特性が得られた。さらに図に示したように、900℃の熱処理線材は2.1Kでは25Tの超高磁界で100A/mm2のJcを示し、実験値をKramerプロットで外挿した上部臨界磁界BC2は28.4Tに達する。測定温度が4.2Kから2.1Kに低下するとJc*磁界曲線が約2T高磁界側にシフトする。図にはSn-Taに2.5重量%のCuを添加したSn-Ta-Cuシートを用いたJR線材のIc (Jc)-磁界特性も示した。2.5%Cu添加線材では、熱処理温度を900℃から800℃に低下出来るが、これは拡散境界の融点が低下し、低い温度でも (Nb,Ta)3Sn層の生成が進むためと考えられる。2.5%Cu添加800℃熱処理線材及び5%Cu添加775℃熱処理線材では、4.2K,22Tで約100A/mm2のJcが得られる。また、2.5%Cu添加800℃熱処理線材は、2.1Kでは24Tで約100A/mm2のJcを示す。
太刀川恭治教授は、「Sn-Ti合金よりSn-Ta合金とNbを拡散させた方が容易に厚いNb3Sn層が生成出来るし、また、NbをTaで置換した方がTi置換よりBC2が高くなる。さらにJR法ではSn-Ta層が有効に拡散に用いられるため、線材のJcが大きくなる」とコメントしている。本研究による新線材は、2.1Kでは25Tでも大きいJcを示すため、例えば1GHz NMR超伝導マグネットに必要で、従来のブロンズ法 (Nb,Ti)3Sn線材では達成出来ない23.5Tの磁界発生をクリアする可能性を示した。また、本線材は加工に中間焼鈊を必要とせず製造プロセスがシンプルなため、コストも低廉になると予想され、高磁界を利用した応用分野へのインパクトが大きいと期待される。今後加工の容易なSn-Ta合金を用いることにより、さらに新しい線材加工プロセスが生れる可能性も秘めている。
(西東)