SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.3, Jun. 2003

8. ≪コラム≫ 先端電子技術応用研究所における最近の活動
_金沢工業大学_


 金沢工業大学先端電子技術応用研究所は近年、超電導エレクトロニクスを機軸として様々な応用システム開発を行っている。先端電子研のグループはつくばの電総研(現在:産総研の一部)における、超電導エレクトロニクス部門と民間10社が参加した特殊法人基盤技術研究促進センタープロジェクトの超伝導センサ研究所で研究開発に携わった研究者を中心に構成されている。

 1997年に金沢工大は先端電子研を発足させた。現在では大きな潮流となっている産学協同研究による技術開発と大学発ベンチャーの魁となる活動であった。

 1990年代当時、MEGをとりまく事情は、一部の研究機関が海外製商用機を細々と導入していたのみであり、その規模も64ch程度であった。超伝導センサ研究所はその技術目標の一つとして、国産の256chの大規模MEGシステムの開発を掲げ、みごとそれに成功した。しかし超伝導センサ研究所プロジェクトを母体とした我が国のMEGシステムの商用化は長い間、さまざまな理由で離陸することができなかった。その間、我が国における商用MEGシステム導入は100%海外製である時期が続き、そのなごりで、とくに平面型検出コイルを用いた北欧性のシステムが我が国ではいまだに90%以上のシェアを占めている(日本以外の先進諸国、とくに欧米では北欧製のシェアは最下位であるにもかかわらず、である)。そのような状況から、国産技術によるMEGシステムの新たな最先端への挑戦として、私立大学の金沢工業大学とその産学協同のパートナーとして、超伝導センサ研究所プロジェクトの参加企業の一つでもあった横河電機がタイアップして、民間ベースによるMEG技術開発をスタートさせた。

 おりしも、少子高齢化で学生数の減少に対する大学の活性化政策としても、従来教育重点であったわが国の私学において教育と研究の両立、ひいては産業創生まで踏み込んだ研究開発の重点施策の方針を打ち出したという背景も金沢工大にはあった。

 現在では、先端電子研の技術開発力は国際的にも徐々に認められ、アメリカのMIT、メリーランド大学、ドイツのPTBなどが次々と先端電子研の開発したMEGシステムを導入した。とくにPTBは先端電子研と同じ超伝導エレクトロニクスのシステム開発を行ってきたドイツの国立研究所である。そこが、彼らの独自技術をさておいて、日本の私学である金沢工業大学の技術を導入したことは特筆に価する。

 現在、先端電子研は同じく金沢工業大学の付置研究所である人間情報システム研究所と連携しMEGシステムの開発と応用における技術力の評価を行っている。また、本年(2003年)初頭には、世界最大ch数をもつ、320chMEGシステムの開発に成功し、4月9日には、そのシステムを導入した北陸地区の辰口リサーチパークにおいて、システムの披露を兼ねたシンポジウムを開催するなど、活発な研究推進を行っている。

 先端電子研は超電導エレクトロニクスによるシステム化技術のすべての要素技術を持ち、さらにフラックスゲート磁気センサ技術、NMR応用技術など他の分野への展開、さらに計測技術をベースにしたIT分野への拡大をも積極的に行っている。その技術開発の成果の一部は、高密度集積化SQUIDマグネトメータチップの開発、また安価なPCで簡易にMRI画像から脳の自動切り出しを可能にするフリーソフト(図1)の開発などである。とくに後者のフリーソフトは先端電子研ウェッブページで公開され、世界中からこの1年あまりで300を超えるダウンロードが行われている。


図1 モノクロMRI画像から脳自動抽出を行うソフト“Synapse”の処理例
(URL http://wwwr.kanazawa-it.ac.jp/ael/にてダウンロード)

(白山のイヌワシ)