この超電導送電線は1993年に中止となったSSC計画(超電導スーパー衝突器)で、もともと外側コイル用に作られた導体を再利用する。VLHCステージ1磁石はC型の片側が大きく開いた磁石で計測や真空パイプの設置が容易なものとなっている。NbTi超伝導ケーブルが20mmのギャップ二箇所に磁場を作る。100kA導体のデザインは一種の管挿入型ケーブルである。送電線磁石の磁場は強く飽和した磁極で作られる。16本のNbTiケーブルを2層のスパイラルにして内側外側をインバーパイプで挟んである。磁石のヨークは上下2つの積層板で出来ている。励磁導体は中心にあって対称性から電磁力が働かない位置となる。
設計上問題なのは高精度の磁場を鉄に依拠して0Tから2Tまでの広範囲にわたって発生することである。一つの方法としては、磁極に調整穴を空けて高磁場での磁場分布を制御することがある。基本的には、磁場の形は低磁場で磁極の形状で決まり、高磁場で鉄が飽和してきた時にその影響を少なくする様に磁束の分布を配慮する。フェルミ研究所のウラジミル・カシキン博士はベクターフィールド社の磁場計算プログラムOPERA-2Dを使って何百もの穴の組み合わせを最適化した。その結果20mm直径の領域で0.02%の精度となっている。もう一つの方法として検討中の磁場精度達成法は、切り欠き法で、積層鋼板の一部を何枚か毎に縦方向の長さを変えて、磁極のところでの鉄の密度を下げて飽和を制御する方法である。
上記記事について、高エネルギー加速器研究機構(KEK)・低温工学センターの和気正芳助教授は、「加速器の将来計画としてリニアコライダーが有力視されているが、円形加速器にも次世代の提案がある。VLHCはフェルミ研究所が提唱する50TeV x 50TeVの大計画で、11TのNb3Sn磁石を使ったステージIIを最終段階としている。その前の段階であるステージIの20TeVコライダーに提案されているのがこの『送電線磁石』であるが、電磁力をキャンセルする画期的なアイデアで極端に簡便な磁石が出来、コストも安い。これにより、これまであまり考慮されなかった低磁場での超伝導応用への道がこれで開かれたかもしれない。日本でもKEKが超伝導を使った鉄磁石『スーパーフェリック磁石』の開発を始めている」とコメントしている。
(こゆるぎ)