SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.3, Jun. 2003

6. 共振切り換え型限流器の実証試験に成功
_産業技術総合研究所_


 電力の需要は今後とも増大することが予想され、電力の安定供給のために、電力系統のネットワーク網の構築が図られている。しかし、供給安定化技術のための系統網の強化は一面においては、故障対策技術が上可欠となる。網の目のように張り巡らされた電力系統網で地落等が発生すると周辺網の電力が集中して、送電・配電線に大電流が流れ、遮断器の定格容量を超えてしまう問題が発生する。限流器はこれらの故障により発生する大電流を遮断器の定格容量以下に制限する新しい技術として注目されている電力機器である。超電導限流器としてはSN転位型、整流器型を中心に世界各国で研究開発が行われている。産総研電力エネルギー研究部門の梅田政一主任研究員、古瀬充穂研究員、田中秀樹研究員は、現在研究開発が行われている上記の2つの限流器方式とは異なった限流器方式の研究開発を進めている。LC共振現象を利用するもので、故障時に生ずる系統大電流を超電導リアクトルには流さない方式を考えている。これによりSN転位型、超電導リアクトル型限流器で問題となるクエンチ、故障復帰等の諸問題の回避が可能であり、当グループでは共振切り換え型限流器と呼んでいる。図1に、当グループが現在研究機開発を行っている共振切り換え型限流器の試験回路構成を示す。

 キャパシターC、超電導リアクトルL1、常電導リアクトルL2(系統事故がまれにしかおこらないことから超電導リアクトルの必要はない。)及びアレスター(ある電圧以上になると抵抗が急激に小さくなる半導体素子)から構成され、系統に直列に挿入される。系統が正常運転中では、CとL1との直列共振状態で回路インピーダンスが非常に低い状態で運転される。しかし系統の地落等の事故で過大電流が流れると、超電導リアクトルL1の端子電圧が上昇してアレスターが動作して、超電導リアクトルを一定電圧に保持にして、 CとL2との並列運転に自動的に移行する。このため、回路インピーダンスが大きくなり、限流効果が発揮される。一方、系統故障状態が解消されると、超電導リアクトルL1の端子電圧が低下して、アレスターが上動作状態となり、自動復帰される。この方式では系統に直列に挿入されることから、極めて交流搊失の小さな超電導リアクトルの開発が要請される。現在、Bi2223テープ線材を使用した極低搊失の25A・1kV級交流超電導リアクトル(交流搊失20W、電流10Arms、77K)の研究開発と共振切り換え型限流器システムの設計・製作を行い、限流効果試験を行ってこのシステムの優位性の実証に成功した。図2に限流器評価試験結果を示す。

 図2は負荷抵抗を20→2Ω(短絡比10倊)にし、5サイクル限流運転を行った時のアレスター、超電導リアクトル、負荷、常伝導リアクトルの各電流を示した。約半サイクルで定常運転電流の3割増しで限流状態が安定し、故障が回復したら自動的に定常運転に復帰することがわかる。

 梅田主任研究員は、「このシステムでは重故障でない限り遮断器の必要性が無くなることが大きな特徴となる。また遮断器は定常運転の2倊程度(現在は遮断器は定格電流の10倊以上)の短絡容量で良いことがわかる。これは、系統電力機器の事故に伴う設計(電気・熱・機械設計)を大幅に低減することに貢献する」とコメントしている。


図1 共振切り換え型限流器の試験回路構成


図2 共振切り換え型限流器の評価試験結果
(アレスター動作電圧700V、短絡角0度、短絡比10倊、5サイクル短絡条件、
アレスター抵抗50Ω、常伝導リアクトル抵抗30Ω)

          

(産総研ウオッチャー)