SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.3, Jun. 2003

5. 超電導限流素子の開発について
_超電導発電関連機器・材料技術研究組合_


 超電導発電関連機器・材料技術研究組合(Super-GM)では、経済産業省(METI)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託事業「交流超電導電力基盤技術研究開発プロジェクト(Super-ACE Pj)」の中で、超電導限流素子の基盤技術の研究開発を平成12年度から平成16年度にかけて行っている。この研究テーマの中間評価段階での最新の成果を紹介する。

 通常電流に対しては低インピーダンスで、事故により異常電流が流れると大きなインピーダンスを発生し電流を抑制する素子を限流素子という。これを用いた電力用限流器を用いると、電力供給の信頼性や電力品質は大きく向上する。

 Super-ACEプロジェクトは、超電導応用技術として、以下のような電力用限流器の超電導化技術の研究開発を進めている。

 SN型の超電導薄膜限流素子は、YBCOなどの超電導薄膜に流れる電流がある限度以上になると、薄膜が超電導状態から常伝導状態へと転移して抵抗を発生するクエンチ現象を利用している。通常通電時の搊失がほとんど無く、また自分自身をトリガーにすることになるため、5ms以内の高速で動作するなどの優れた特徴を持っている。 このタイプの限流素子一枚に印加できる電流・電圧は、現状では、電力系統からの要求に比べてまだ非常に小さい。電力用の超電導薄膜限流器を作製するためには、先ず限流素子薄膜の大面積化による大容量化、そして電力系統の電流・電圧に耐えるためには、多並列化・多直列化による大電流化・高電圧化技術の確立が求められている。以下にそれぞれの研究開発の技術成果を示す。

 大面積膜作製技術の開発は、住友電工が担当している。大面積でIcが高く均一な超電導膜を成膜するため、成膜速度が速く、組成ずれが小さい特徴を持つパルスレーザー蒸着成膜法(PLD法)を採用した。PLD法では一度に成膜できる面積が小さいので、大面積の超電導膜を作製するため、成膜位置に対し基板を2次元揺動させる方式を採った。まだ小面積であるが、サファイア基板(中間層CeO2)上に作製したHoBCO超電導膜で、Ic =148 A/1cm幅、Jc =3.3 MA/cm2 (通電法)を達成し、2次元揺動法において良好な超電導特性が得られることを確認した。

 他の大面積膜作製技術としては、産総研が研究開発中の塗布熱分解法(MOD法)も有力である。超電導体を構成する金属元素を含む溶液を基板に塗って熱処理するという低コストで簡便な超電導膜の作製方法であり、産総研が基本特許を有している。現在、大面積化に挑戦し、10cm×30cmのサファイア基板(中間層CeO2)上へのYBCO薄膜の成膜技術を開発し、全面超電導膜化に成功した。誘導法により最高1.9MA/cm2というJcが得られている。

 大電流化技術の研究開発は、三菱電機が担当している。素子内と素子間の偏流を抑制できる素子配列として多角形状配置を提案して、幅1cmの超電導膜を多角形配置した6並列素子を製作し、連続通電特性を検証した結果、380Armsの連続通電が可能であることを確認した(図1)。

 高電圧化技術の研究開発は、東芝が担当している。YBCO薄膜に窒化アルミ基板上に作製した金属薄膜を並列抵抗体として配する構造により、印加可能電圧を向上させた素子を用い、40枚直列接続した限流モジュールを作製し、配電系統の電圧である6.6kV級の限流試験に成功した(図2)。

 東芝は、Bi系の超電導テープ線材の巻線を用いた、整流器型限流器用リアクトルの研究開発も行っており、現在66kV/700A級のパルスモデルコイルの設計製作を行っている。最終的には66kV/125Aユニットコイルを6並列配置するが、今までにユニットコイルを3個製作し、並列接続で375Aの通電に成功している。

 Super-ACE椊田清隆プロジェクトリーダーは、これらの成果に対し、「近年、分散電源の普及が進んでいるが、この新・増設の影響による配電線の短絡電流増大の対策として、超電導限流器を変電所に設置すれば、既設の遮断器や配電線路を取り替えずにすみ、費用対効果が大きいことが注目されている。今後の研究開発で、これらの技術成果を総合活用し、高電圧・大容量超電導限流器の開発を進めて、電力系統へ適用出来れば、超電導の交流応用技術の展開に大きく貢献することが期待できる」とコメントしている。


図1 6角配列並列素子


図2 高電圧限流素子(4直列分)


図3 66kV/700A級超電導限流器用リアクトル

          

(ACE)